12月に入り、本格的に海の味覚、牡蠣のシーズンとなった。牡蠣小屋に行くのを楽しみにしている人も多いと思われるが、実は今、大変な状況になっているのだ。

牡蠣で満たされているはずの水槽も空っぽ

福岡市西区に位置する唐泊漁港で養殖しているブランド牡蠣『唐泊恵比須かき』。取材したこの日、牡蠣小屋では、12月6日からのオープンに向けて準備が進められていた。

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しかし福岡市漁協の唐泊支所長、山崎賞二さんは「問題は、量ですね。獲れていない。量が少ない割に、本来、大きくなっているはずの牡蠣も大きくなっていない。大きい牡蠣から死んでいます。この数カ月で死んだという奴が多いかな」と表情を曇らせる。牡蠣が、思ったように育っていないのだ。

例年ならば、全体の5割程度は育つところ、今季は僅か3割しか生育していないという。いつもなら牡蠣で満たされているはずの水槽も、空っぽの状態だ。

牡蠣の成長には、ある程度、海水温が低くなる必要があるが、今季は10月半ばまで海水温の高い状態が続いていた。

そのため、例年11月上旬にオープンする牡蠣小屋も1カ月遅れのオープンとなった。それでも十分な量は、確保できていない。

今季は、国内屈指の牡蠣の産地である広島でも記録的な不漁といわれていて、なかには全体の9割が死んでしまった業者もあるという。

状況を把握するため、鈴木憲和農林水産相が、視察に訪れるほどの状況となっているのだ。

なぜ?糸島は比較的生育が順調

しかし、唐泊を訪れた福岡県水産海洋技術センター課長の秋元聡さんは、意外なことを口にした。「同じ“筑前海”(九州西方を流れる対馬暖流の影響を受ける外海性の海域)でも、糸島は比較的生育が順調で、平年並みくらいの生産になるんじゃないか」というのだ。

福岡県西部の糸島半島を挟んで、唐泊の反対側にある糸島の牡蠣は、平年並みの生育となっている。

両地域は、海水温などの環境が近いのではとも思われるが、秋元課長によると「牡蠣は、その土地、その土地の海域の環境の影響を受けやすいということがありますので、そういう差がある」のだという。

さらに「考えられるのは、餌の状況。牡蠣の餌は、植物プランクトンですが、その指標値が、糸島の方では高いんですけれど、唐泊の方では低いということで、それが影響しているんじゃないか」と推測する。

高級牡蠣へ小屋の路線を変更

しかし、一方で唐泊の牡蠣も、品種によっては影響を受けていないものもあるという。香港やシンガポールに輸出している高級の牡蠣だ。

山崎支所長が「ほぼ毎日、一年間を通して、ずっと毎日、かごを入れ替えたりサイズを選別したりして」と話す高級牡蠣。

従来の品種とは異なり高級牡蠣は、サイズごとに分けたかごに入れて育て、育つまでに膨大な手間をかける。香港、シンガポールで高級レストランに出されていて、しっかり実も入っている。

山崎支所長は「こちら(従来の牡蠣)で足りない分をこちら(高級牡蠣)で補おうかなと思っています」と話す。量が足りない今季は、高級牡蠣を牡蠣小屋でも提供しようと考えているというのだ。

ピンチの今だからこそ、普段、口にする機会の少ない希少な牡蠣を食べてもらういいチャンスにしてもらおうと、今後は、高級路線を強める方針にしている。

「(養殖用の)牡蠣イカダで作る牡蠣を徐々に減らしていって、逆にバスケットとかで作る、ちょっと高級路線の方に、牡蠣の養殖を変えていこうかなと思っています」

世界のトップシェフに認められている唐泊の牡蠣。関係者は、この牡蠣で危機を乗り越え、ほかの産地との差別化をさらに進めていこうとしている。

(テレビ西日本)

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