出馬会見でも「五輪ボイコット」主張

「侵略国家である日本が分断されるべきなのに、日本に侵略された我が国がなぜ分断されなければならないのか」

与党「共に民主党」の有力大統領候補で、党内支持率トップの李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事が衝撃的な言葉を口にした。日本の植民地支配が第二次世界大戦後の朝鮮半島分断を招き、ひいては朝鮮戦争の悲劇を引き起こしたというのだ。

実はこの“日本分断”論は李氏の持論で、以前から公然と語られてきた。問題は、これが大統領選の出馬会見の場だったということだ。

出馬宣言する李在明(イ・ジェミョン)氏(7月1日)
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李氏は7月1日、出馬を宣言する動画を発表し、翌日にオンラインで記者会見を開いた。

オンラインで記者会見する李在明氏

1時間20分あまりの会見で、日本に関連する質問は二つ。一つは東京五輪ボイコット問題、もう一つは戦後最悪となっている日韓関係の改善だった。

韓国では、東京五輪ホームページの日本地図に島根県竹島が表記されたことに抗議し、ボイコットを提唱する声が相次いだ。李氏はその急先鋒で、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長にも介入を要請する書簡を送っていた。ただIOCが「(竹島表記は)単に地政学的な表示に過ぎず、政治的な宣伝とはいえない」と回答したことから、ボイコット騒ぎは沈静化しつつある。

しかし、李氏はあくまでボイコットすべきだとの立場を変えていない。

「実効支配もせずに侵略的主張をしているだけの日本が、これ(竹島)を自分の領土だと表示しているが、これはオリンピック精神に反することです」

李氏の主張は、平昌五輪の際に韓国側が「独島(竹島の韓国名称)は韓国領」との表記を削除して妥協したのに、日本が削除に応じないのは容認できない、というもの。「歴史的な記録として残す」意味でもボイコットを検討すべきだと改めて強調した。

筋金入りの「反日」歴史観

李在明氏は歯に衣を着せぬ物言いで「韓国のトランプ」の異名を持つ。日本に対しても、安倍晋三前首相らを「保守右翼」と呼び、領土問題や歴史問題で激しく批判してきた。それゆえ、仮に大統領になれば、現在の文在寅(ムン・ジェイン)政権以上に過激な反日政策を取るのではないか、と危惧する声もある。

日韓関係の改善に関する質問を受け、李氏は「きょう一番難しい質問を最後にされました……」と言いながら、次のように答えた。

「(日韓間には)近い過去に侵略し、侵略された痛い過去を持っています。加害者にとっては過ぎたことかもしれませんが、被害者には今も痛みが残っています。慰安婦問題がそうだし、徴用(いわゆる元徴用工)問題もそうです。親日残滓清算、支配構造の清算、こうしたことは我々の社会に残っている課題です」

この言葉に李氏の対日観と歴史観が凝縮されている。

すなわち、日本は加害者であり韓国は被害者であって、日本はそのことを踏まえたうえで歴史問題に対処すべきだというのが基本的な考えだ。また、植民地時代に日本側についた韓国人が、戦後もそのまま支配する側に回り、それが「親日の残滓」となって韓国社会を歪めている――こう考えているのだ。

現政権も「親日積弊」「親日残滓の清算」が看板政策であるが、それを誰よりも過激に実践しているのが李氏だ。

京畿道内の抗日遺跡を整備

知事を務める京畿道で、韓国の3・1独立運動100周年だった2019年に「生活の中に深く根を張った親日文化の清算」を目指して親日残滓の調査に乗り出した。その結果△「親日人物」257人△「親日モニュメント」(記念碑など)161カ所△「親日人物」が作った校歌89曲――などがリストアップされた。

親日残滓に認定された記念碑

また歴代知事のうち、民間団体が作成した「親日人物事典」に名前がある人について、その「親日行為」を道のHPに掲載するという措置も取った。

歴代知事の略歴にも親日派記載

会見では「私を反日的だと評価される方々もいますが、私は日本を憎んでいないし、日本国民に反感を持っていません」と述べ、日韓関係は「互いに認め合い、パートナー的な関係になるべきだ」と指摘した。そのうえで「問題は保守右翼政治集団だ」として「日本政界の、反省的で未来志向的な判断、決断、行動をお願いする」と注文をつけた。

日韓関係改善の必要性は認めつつも、その根底には筋金入りのいわゆる“進歩(革新)的”対日観がある。

「対日」でガチンコ対決か?

一方、野党側の有力候補、尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長の「対日観」は対照的だ。李在明氏とは世論調査でトップ争いを続け、歴史観でも真っ向から対立している。このため次期大統領選挙(2022年3月)では、「対日」政策が重要争点の一つに浮上しそうだ。

尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏の出馬会見

尹氏は「実用主義」にもとづく外交を掲げ、政府間対話を通じて日韓関係の改善をめざす姿勢を明らかにした。文政権の下での「反日」外交を「理念偏向的」と一蹴、政府与党の対日アプローチとは一線を画す構えだ。

「外交は実用主義、実事求是、現実主義に基づかなければならない」

「韓日関係は過去の歴史に、後代が歴史を正確に記憶するために真相を明らかにしなければならない部分はあるが、未来の世代のために真に実用的に協力しなければならない、そのような関係だと考える」

尹氏は慰安婦合意や徴用工訴訟に対する自身の認識や、具体的な解決策には触れていないが、経済や安保での両国の結びつきを踏まえ、日韓関係を実用的に協力すべき関係と位置付けている。また、日韓間の懸案を個別に取り扱うのではなく、包括的な枠組みの中での解決を模索する考えのようだ。

「米占領軍」発言でも激突

このほか、李在明氏は韓国の建国をめぐる歴史観でも物議を醸している。

「大韓民国は他国の政府樹立プロセスとは異なり、親日清算ができない状態で親日勢力がアメリカ占領軍と手を組み、その支配体制を維持した」

戦後の韓国は1948年8月15日に李承晩(イ・スンマン)氏が建国を宣言して初代大統領になり、国際社会に認められた。李在明氏の発言はこの初代政府が親日勢力とアメリカの占領軍によってつくられたとするもので、建国の歴史を否定するとも取れる。これには野党側や保守系メディアが一斉に猛反発した。

尹氏もフェイスブックに「セルフ歴史歪曲、絶対容認できない」と投稿し、「国家の正統性を否定し、誤った理念に追従する国に変貌させようとしている」と強く批判した。尹氏が李在明氏を名指しで批判したのはこれが初めてだ。

尹氏は大統領選にむけFB開設

これに対し、李氏は「(尹氏が)新しい政治をすると期待したが、旧態依然な思想攻勢をするとは残念です」と反論。与野党の有力候補同士の攻防が激化している。

一方で、理念闘争をしている場合なのかと危惧する声もある。

韓国では7日、新型コロナウイルスの感染者が半年ぶりに1000人台を超え、変異ウイルスの拡大による第4波の脅威にさらされている。頼みの綱のワクチンも供給不足で、接種が進んでいない。景気低迷に加え、不動産の高騰や経済格差、高齢化の問題も深刻だ。保守系大手紙の中央日報は社説で「未来、いや今日を巡って競争してもまだ足りない時に、70年余りも前のことを巡って戦う。韓国は不幸だ」と危機感を露わにした。

支持率でトップ争いを繰り広げている李氏と尹氏だが、今後は追い上げを図る他の候補から激しく攻撃される立場だ。既にネガティブキャンペーンも含めたスキャンダル暴露合戦が始まっている。共に民主党の大統領候補を決める予備選挙には李氏を含めた8人が立候補、9月の党内選挙で指名を目指す。一方、野党「国民の力」は11月ごろに予備選挙を開催する予定だ。

一寸先は闇、何でもありなのが韓国の大統領選挙。まずは与野党の大統領候補に誰が選ばれるのか、その行方を注視したい。

【執筆:フジテレビ 解説副委員長(兼国際取材部) 鴨下ひろみ】