宮城県内有数の医療を誇る東北大学病院で、コロナ重症者のリハビリをサポートする理学療法士の和地泰彦(わちやすひこ・44) さん。

理学療法士の和地泰彦さん(提供:東北大学病院)
理学療法士の和地泰彦さん(提供:東北大学病院)
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彼は10年前の東日本大震災の時、現場医療の最前線で次々と送り決まれる患者と向き合った元看護師だ。

「津波に飲み込まれ、体中傷だらけで緊急搬送されて来る患者さんの傷口を、麻酔もかけずにゴシゴシ洗った光景が今も目に浮かびます」

これは当時、患者の傷の洗浄と消毒を行うために和地さんが直面した、生々しい現場の様子だ

写真:JFA/アフロ
写真:JFA/アフロ

そうした壮絶な医療現場で日々患者を見続けた和地さんの力となったのが、震災からわずか3ヶ月後にドイツで開催されたFIFA女子ワールドカップでの、なでしこジャパンの優勝だという。

あれから10年。

医療関係者の一員としてコロナ禍と向き合う現状と、東京五輪に向かうなでしこジャパンへの期待を聞いた。

コロナ重症者のリハビリ現場

「コロナで重症になり、集中治療室に入り長期入院した方は、肺機能だけでなく、全身の筋力の低下や生活動作に支障が出るほど関節が硬くなる事もあるので、今何がその人に必要なのか考えてサポートしています」

提供:東北大学病院
提供:東北大学病院

東北大学病院で、重症コロナから回復した患者のリハビリテーションと向き合う和地さんは続ける。

「一番つらいのは患者さん本人であり、その家族なんです。やっぱり本人が諦めない事と、その気持に寄り添って、医療従事者がひとつのチームとなって、一緒に諦めないでコロナに立ち向かう事が、何よりも大切な状況です」

しかし宮城県はコロナ感染が急拡大し、4月5日にはまん延防止等重点措置の適用が始まったばかり。

「街中も病院もピリピリとした緊張感がある」と現在の様子を語った。

なでしこに支えられた鮮明な記憶

その和地さんが10年前、宮城県の沿岸部に近い病院で働いていた時に東日本大震災は起きた。

前述したように、「津波に飲み込まれ、体中傷だらけで緊急搬送されて来る患者さんの傷口を麻酔もかけずに洗う」というような現実が、和也さんを待ち受けていた。

多くの命が津波で失われ、人々がふるさとを失い、日本中が打ちのめされた。

提供:東北大学病院
提供:東北大学病院

しかし、その苦しみに耐え続けていた6月、和地さんを勇気付けてくれたのはワールドカップで起きた奇跡だという。

「ドイツ大会の決勝で、なでしこの同点ゴールが決まった瞬間の力強いガッツポーズにとても感動して、手をグッと握りしめしました。本当に力になりました」

PK戦に及んだ激闘の末、日本女子サッカー史上初のワールドカップ制覇。

写真:JFA/アフロ
写真:JFA/アフロ

「この10年を振り返っても、あの時の助けがあったからこそ踏ん張る力をもらいました」

この快挙は日本中の人々の、そして東北の人々の心を揺さぶった。

東京五輪へ再スタートするなでしこへ

試合が行われるユアテックスタジアム仙台
試合が行われるユアテックスタジアム仙台

そのなでしこジャパンが、今度は東京オリンピックでの金メダルを目指し再スタートを切る。

場所は奇しくも仙台だ。

日本代表選手に度重なるPCRや抗原検査が課せられるのはもちろん、対戦国の選手、スタッフ、審判についても厳格な防疫措置が取られる。

練習会場、試合会場、宿舎以外への外出は禁止。

宿舎内はフロアを貸し切り、セキュリティが帯同するなど、徹底したバブル状況を作っての実施だという。

試合に向けた決意を語る、高倉麻子監督
試合に向けた決意を語る、高倉麻子監督

この試合に向けてなでしこジャパンの高倉麻子監督はこう語る。

「あの日東北が負ってしまった痛みの中で、今もまだ痛みを負っている方々がいる。そんな中、仙台で試合をする以上、本当に精一杯戦いたい。なでしこの元気を届けたい」

そしてなでしこにとってこの試合は、度重なる合宿や試合の中止を経て、やっとたどりついた約1年ぶりの強化試合でもある。

鮫島彩選手は「強い思いで試合に望む」と話す
鮫島彩選手は「強い思いで試合に望む」と話す

ドイツW杯の優勝メンバーでもある鮫島彩選手は、「10年前の震災の時も、『元気をもらった』というメッセージをたくさん頂いたんですが、実際にパワーを頂いていたのは私達の方であって、それが活力となってあの優勝にたどり着いたと思います。

そうやって応援してくださる方たちに、勇気だったり、希望を感じ取ってもらえるような、戦う姿勢を見せるべきだと思うので、そこは強い思いで臨んでいきたいと思います」と意気込む。

提供:東北大学病院
提供:東北大学病院

最後に和地さんに、この試合にかけるなでしこの決意について聞いた。

「日本中の最前線の現場で医療関係者が使命感を持って必死に戦っている中で、みなさんの応援や感謝の言葉は本当にありがたいですし、元気をもらっています。

とにかくみんなに希望と勇気を与えてくれるような試合と、笑顔で最後まで諦めない、力みなぎるプレーを期待しています」

新型コロナウィルスの感染再拡大で、先が見通せない日々が続いている。

そんな時だからこそ、社会に希望をもたらすスポーツの力を信じて、彼らのプレーを見守りたい。
 

(取材 木村洋、 構成・文 吉村忠史)

なでしこジャパン親善試合 日本VSパラグアイ
【放送】 4/8(木) 16:00~18:25
【会場】 ユアテックスタジアム仙台
*番組内では、なでしこメンバーから医療従事者への感謝の想いも紹介予定です
 

LIFE WITH FOOTBALL
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