満開の桜が全国各地で咲く4月1日、晴れて新人看護師となった元アスリートがいる。

なでしこリーグ1部のノジマステラ神奈川相模原で、6年間キャプテンを努めた尾山沙希さん(30)。
自身の引退試合となった全日本女子サッカー選手権でも、準優勝を果たしたトップ選手だ。

表彰状を手にする尾山さん ©Nojima Stella Kanagawa Sagamihara
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彼女は2017年に現役を引退後、看護師を目指して進学。3年間の努力を経て、今年2月に国家試験に合格し、この春新人看護師として再スタートを切った。 

平常時であれば新たな門出に、期待がふくらむ春。
だがそこに待つのは、コロナ禍に直面する医療現場だ。

サッカー界から転身した新たな環境は、どんな緊張感に包まれているのか?

そして東京五輪に向け再スタートを切る、なでしこジャパンにどんな想いを重ねるのか?

尾山さんを通して、なでしこジャパンが今目指すものを追った。

全く予想してなかった今の医療状況

「あまり自分からサッカーの事を言うことはないですが、自然と広まっていました。
返事をしただけで、体育会系というのがバレますが、みなさん『凄いね』と言ってくれます。一生懸命サッカーを続けて良かったと思います」

新しい環境の様子をそう語る尾山さんに、サッカーを辞め医療を目指した頃に、今のようなコロナ禍の医療現場を想像したことがあったのか、そして迷いは生じなかったのか聞いてみた。

「全く予想してなかったです。
正しい知識と技術があれば感染しないし、1人でも多くの人の力になることが出来ればと思いました」

強い意志で迷う事なくこの道を選んだという。

常に見られているという自覚

尾山さんはこの春に新人看護師として再スタート

母が看護師ということもきっかけだった尾山さん。

4月1日から奈良県内の病院で研修が始まったばかりだが、我々のインタビューに笑顔を交えながら明るく関西弁で話す人柄に、元アスリートならではの意識が垣間見える。

「看護師として、人から常に見られているという気持ちで過ごさないといけないと思います」 

毎日のコロナ感染対策に、健康管理、自分が感染してはならないというプレッシャー。
ましてや、30歳でトップクラスのサッカー選手からの転身。

周囲の視線は自然と集まる。

「医療従事者への感謝をいただくこともありますが、その感謝の気持ちを裏切らないような行動をしないといけないです」

現役時代の尾山さん ©Nojima Stella Kanagawa Sagamihara

ユニフォームから白衣へ。袖を通す仕事着は変わっても、キャプテンとしてチームの精神的支柱を務めた責任感、そして見られているという自覚が今も彼女を支えているようだ。

誰かが一生懸命な姿は力になる。なでしこジャパンに重ねる期待

そんな彼女がかつてライバルとして戦ったメンバーが、なでしこジャパンに名を連ね、東京五輪での金メダルを目指し再スタートを切る。

「結果を求めることも重要ですが、全力で、諦めないプレーが見たいです。あとは、誰も怪我をしないように願っています」

そう尾山さんがエールを送るなでしこジャパンは、文字通り女子サッカー日本代表であり、サッカー選手を夢見る子供たちの憧れだ。

そして明日の試合は、コロナの影響で対外試合が出来なくなって以降、実に約1年ぶりの国際試合となる。

インタビューに応える高倉麻子監督

新型コロナウイルスの感染拡大で、様々なスポーツの強化合宿や試合が次々と中止となったこの1年だが、医療関係者を含め、多くの関係者の協力と様々な感染対策を施して、ようやく実現される試合だけに、チームを率いる指揮官の想いは強い。

「コロナが蔓延したときに私自身も家にずっといて、グラウンドに全く出ない、サッカーから遠く離れた中で、本当に健康と平和があってこそのスポーツだな、サッカーだなというのを痛感しました」

なでしこジャパンの高倉麻子監督は、さらに医療現場への感謝の気持ちをこう続けた。

「医療現場の方々は休みなしですし、毎日毎日、命に関わるような状態の患者さんと接しておられるというのは、本当に心の負担が大きいと思います。

私たちが頑張ってプレーすることで何か一つでもいろんな方々の支えになったり、元気になったり、小さな力になれればいいと思っています」

日本代表として“注目を集める存在”ゆえの責任と感謝。
多くのサポートを受け、それを感じながらの再スタートだ。

現役時はキャプテンとしてチームを支えた ©Nojima Stella Kanagawa Sagamihara

最後に尾山さんに、元女子サッカー選手として彼らに重ねる想いを聞いた。

「誰かが何かを一生懸命全力でやっている姿というのは本当に力になるし、サッカーに限らずスポーツって胸を熱くさせるというか、普通に生活してる時にはない感情があるので本当に元気を貰えると思います。

私は代表選手に選ばれるような選手では無かったですが、コロナ禍で試合が出来ていることをプレッシャーに感じず普段通りのプレーを見せてください」

医療の現場に転身した、かつてのライバルの想いも乗せてなでしこが再び走りだす。

ピッチ上でのひたむきなプレーや輝く笑顔が、日本に元気を届けてくれると信じて、明日の試合を見守りたい。
 

(取材 木村洋、 構成・文 吉村忠史)

なでしこジャパン親善試合 日本VSパラグアイ
【放送】 4/8(木) 16:00~18:25
【会場】 ユアテックスタジアム仙台開催
*番組内では、なでしこメンバーから医療従事者への感謝の想いも紹介予定です