英海軍「瀬取り」監視のフリゲートが日本に寄港

3月14日、北朝鮮の船舶が海上で石油などを積みかえる、いわゆる「瀬取り」の警戒監視活動に参加するため、日本を訪れていた英海軍のタイプ23型フリゲート「モントローズ」が、東京・晴海ふ頭を出港する。

東京・晴海ふ頭に寄港する英フリゲート「モントローズ」(3月8日)
東京・晴海ふ頭に寄港する英フリゲート「モントローズ」(3月8日)
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モントローズは、3月8日に東京・晴海ふ頭に寄港。
瀬取りの警戒監視活動に参加する英海軍の軍艦としては、2018年4月の英国海軍フリゲート「サザーランド」、8月の英国海軍揚陸艦「アルビオン」、12月のフリゲート艦「アーガイル」に続く4隻目だ。

 
 

寄港時に驚かされたのは、主砲やミサイルの他に、7.62mmミニガンなど、高性能の機関銃が、艦の各所に取り付けられていたことだ。
さすがに接岸後は、取り外され、艦内に仕舞われたが、相手が軍艦でない場合のテロ対策、瀬取り監視時の警戒・威圧用としては、効果的なものなのだろう。

 
 

前艦橋の棚の上にある巨大な筒は、軍事評論家の岡部いさく氏によると、米海軍ではMk.59と呼ばれる囮(デコイ)の発射装置。海面に打ち出されると風船のように膨らんで、海面に浮き、敵のレーダーを混乱させるという。

 
 

マストの基部のあたりには、対魚雷用の囮の細い発射器の筒が並んでいた。そして、前甲板には、1分間に25発の114㎜砲弾を27.5㎞先を射程に発射できるMk.8Mod.1という主砲塔。

 
 

その後ろに壁で囲われたような区画の中に、キノコのようなものが並んでいるが、これが、シー・セプター艦対空ミサイルの垂直発射装置だという。

 
 

その後ろにハープーン艦対艦ミサイルの発射装置が並んでいるが、その噴射熱を逸らすブラスト除けには、なぜか、合板が使われていた。つまり、噴射熱を木で受ける構造である。英海軍ならではの合理的理由があるのだろうか。

 
 
ブラスト除けに使われていた合板
ブラスト除けに使われていた合板

寄港時に、見られなかったモノの一つは、今回、モントローズが搭載してきたはずの英海軍最新鋭のヘリコプター、ワイルドキャット。格納庫の大型ドアは閉められていた。

艦載ヘリ「ワイルドキャット」日本初公開

モントローズは、3月9日、10日に一般公開された。この時は、ワイルドキャットを見ることができた。日本で初めて公開されたのだ。瀬取り監視では、このヘリコプターが重要な役割をはたすのだろう。

一般公開されたワイルドキャット(3月10日)
一般公開されたワイルドキャット(3月10日)

瀬取りで重視されるのは、北朝鮮船籍の船が、他の国籍の船、例えばタンカーとホースでつながっている状況を画像や映像で撮影できるかだ。その点、小回りの利くヘリコプターは、船と船の間をつなぐホースを海面スレスレまで、降りて撮影することもできるだろう。
特にワイルドキャットは、機首に巨大な光学・赤外線センサーとレーザーで距離を正確に測る機能を一体化したセンサーを搭載しているため、不審な船舶への接近と撮影に向いているかもしれない。

ワイルドキャットの先端にはセンサーが…
ワイルドキャットの先端にはセンサーが…

ところで、軍事評論家の岡部いさく氏が訝しんでいたのは、甲板上に、魚雷発射管が見つからないことだった。

「スティングレイという魚雷の発射管がこの辺りに・・・」

確かに、艦橋の壁には、突然の魚雷の発射に対する注意書きがあった。

 
 

しかし、魚雷管は見当たらない。
ようやく、英海軍兵士に案内してもらったのは、注意書きのあたり。兵士は、この壁が開いて、魚雷管が顔を出すのだという。日本の護衛艦や米海軍では見られず、その他の海軍でも聞かない仕組みだ。

岡部氏も筆者も、あまりのことに、その場では、どうしてこんな仕組みを英海軍が作ったのか、尋ねることが出来なかった。
ただ、岡部氏は、艦内に魚雷発射管を内蔵することにより、人力で実施しなくてはならない魚雷の再装填が、甲板上で行うより、容易となり、特に、風雨の中でも再装填が容易になるのではないかと推測する。
こんな軍艦が、瀬取り監視を行うというのだ。

仏海軍も「瀬取り」監視に参加へ

英海軍「モントローズ」が、晴海に接岸した3月8日、防衛省は、瀬取り監視のため、フランス海軍が、3月中旬から哨戒機Falcon200を嘉手納基地に派遣するとともに、今春、海軍フリゲート「ヴァンデミエール」を派遣してくる、と発表した。

仏哨戒機「Falcon200」(出典:仏軍事省)
仏哨戒機「Falcon200」(出典:仏軍事省)
仏海軍フリゲート「ヴァンデミエール」(出典:仏軍事省)
仏海軍フリゲート「ヴァンデミエール」(出典:仏軍事省)

瀬取り監視は、これまで、日米の他、太平洋に面した豪州、カナダ、ニュージーランドが参加。昨年から、英国が加わり、今年はフランスも参加する。
さらに、フランスは、3月5日に本国から、空母シャルル・ド・ゴールを出港させた。インド洋からさらに東に進出する可能性があるという。

なぜ、遠く、欧州から英仏の海軍が、瀬取り監視にやってくるのか。
国連制裁だから、国連加盟国として、協力するということかもしれないが、北朝鮮が、開発した火星15型弾道ミサイルは、米本土だけでなく、欧州全域を射程内とするとみられている。

北朝鮮の火星15型弾道ミサイル
北朝鮮の火星15型弾道ミサイル

北朝鮮が、第2回米朝首脳会談後、衛星打ち上げの準備につながるのではないかという動きを見せているが、衛星打ち上げロケットを使って、火星15型、または、新型の大陸間弾道ミサイルのエンジン開発に応用されては、英仏としても、北朝鮮の動きは、安全保障上、他人事ではない事態と受け取られているのかもしれない。

(フジテレビ解説委員  能勢 伸之)

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能勢伸之
能勢伸之

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フジテレビ報道局上席解説委員。1958年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。報道局勤務、防衛問題担当が長く、1999年のコソボ紛争をベオグラードとNATO本部の双方で取材。著書は「ミサイル防衛」(新潮新書)、「東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか」(PHP新書)、「検証 日本着弾」(共著)など。