トランプ米大統領が領有を要求したデンマークの自治領グリーンランド。
なぜアメリカにとってグリーンランドが、それ程重要なのだろうか?
アメリカとNATO諸国のグリーンランドを巡る対立
グリーンランドを米国が領有すべきだという主張に反発した欧州西側諸国に、トランプ大統領が関税をかけると言明。対立が深まったが、1月21日にトランプ大統領が、NATOのルッテ事務総長と会談。
今後のグリーンランド問題を話し合う「枠組み」を作ることで合意するとともに、トランプ大統領は関税をかけるとしていた国々に関税をかけないと言明、対立の矛を双方が納めた形となった。では、この“枠組み”では、何が話し合われるのか?
トランプ大統領の説明では「彼ら(西側欧州諸国)はゴールデンドームに関与するだろうし、鉱物資源にも関与するだろう。我々も同様だ」(米CNBC 2026/1/21付)となっていた。
トランプ大統領が言及した鉱物資源は、グリーンランドが埋蔵量世界第8位とされる希土類(レアアース)だろう。希土類元素は、兵器システム、電気自動車、電子機器などで、主要な原材料として使用されるので、米国は、現在、圧倒的なシェアを誇る中国へのレアアース依存度を低減するため、レアアースの輸入先を中国以外にも広げる方策をとっている。
しかし、トランプ大統領が、レアアースより先に言及した“ゴールデンドーム”とは何なのか?
ゴールデンドーム構想とは、第二次トランプ政権が発表した、これまでの脅威、弾道ミサイルのみならず、巡航ミサイル、群れて飛んでくるドローンなどの新たな脅威にも対応する防衛の仕組みを構築しようというものだ。それだけではない。
アメリカ軍は、従来、敵弾道ミサイルに対応するため、敵弾道ミサイルの発射捕捉・追尾を主任務とするSBIRS-GEO衛星と、他の衛星に搭載する高性能センサー、SBIRS-HIGHを配備してきた。
(※SBIRS=Space-Based Infrared System:宇宙配備型赤外線システム)
しかし、速度が速いうえに軌道が変化する極超音速ミサイルの登場で状況は一変。SBIRS衛星やイージス艦から発射するSM-3迎撃ミサイルでは対応が難しい新たなる脅威、マッハ5以上と弾道ミサイル並みの速度で飛び、軌道を変える極超音速ミサイル等も迎撃できる態勢を構築するというのが、前述のトランプ政権の“ゴールデンドーム”構想だ。
特に、極超音速ミサイルを迎撃するためには、その高速で変化する軌道を捕捉することが必要になる。
このため、アメリカ宇宙軍は、高性能のセンサーを積んだ人工衛星HBTSSを大量に地球の周りを低軌道で飛ばし、相互に連接。迎撃に必要なデータを即座に迎撃システムに送付する仕組みを作り、極超音速ミサイルを捕捉・追尾する計画を進めている。
(※HBTSS =Hypersonic and Ballistic Tracking Space Sensor:極超音速・弾道ミサイル追跡宇宙センサー)
そして、敵ミサイルの発射を衛星で捕捉し、追尾すれば、その追跡データを地上や海上の迎撃システムに送付する必要があり、受信システムや地上や海上であらためて追尾するシステムも必要になる。
このため、グリーンランドには、米宇宙軍のピトゥフィク基地がある。
アメリカ本土防衛の眼 グリーンランドの巨大レーダー
「ピトゥフィク基地の宇宙軍要員は、アメリカの主要早期警戒衛星群である宇宙配備型赤外線システム(SBIRS)衛星のデータの運用と分析に携わっている」(Christian P. Martin Pituffik Space Base: What To Know About The Northernmost US Military Air Base)との記述もあったが、詳細は不明だ。
SBIRS衛星は、地上や海上で、弾道ミサイルの発射があれば、それに伴って、突発的に発生する赤外線を捕捉。飛び続けるミサイルのブースターの噴射や噴射終了後、ミサイルの先端部分が大気圏に再突入して発生する熱も捕らえるとされる。そのSBIRS衛星のデータを受け取って、後述するUEWRレーダーに弾道ミサイルの追跡を引き継がせれば、弾道ミサイルの追跡は、効率的に行われることになるだろう。
(※UEWR=Upgraded Early Warning Radar:能力向上型早期警戒レーダー)
ピトゥフィク基地の北東約5.6kmには、衛星の管制を行う第22宇宙作戦隊の第7分遣隊(22SOPS、分遣隊7)が存在し、米国および同盟国の政府衛星プログラム、特にGPS衛星にテレメトリ、追跡、および衛星へのコマンド操作を提供。第7分遣隊は第22宇宙作戦飛行隊に直属し、第22宇宙作戦飛行隊はコロラド州ピーターソン空軍基地(PSFB)にあるスペースミッションデルタ31に直属する、とあるので、前述のSBIRS衛星群のデータの運用をピトゥフィク基地で行っているとすれば、第22宇宙作戦隊の第7分遣隊が行っているということだろうか。
ちなみに、現在のミッションデルタ31は「進化を続け、対衛星兵器やサイバー脅威がもたらす課題に対処する」(米宇宙軍資料)ことも任務としている。
さらに、アメリカ本土および西側諸国の防衛にとって重要なのは、米宇宙軍のピトゥフィク基地に、前述の巨大なUEWRレーダー、AN/FPS-132が設置されていること。
UEWRレーダーは「大陸間弾道ミサイル(ICBM)と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を探知して追跡することを主な目的として設計され…重要な早期警戒、追跡、分類、キューイング データを提供することで中間コース BMDS センサー カバレッジを改善」(アメリカ宇宙軍ファクトシート)としている。
平たく言えば、西側ヘの敵対国から発射された大陸間弾道ミサイルや、海中のミサイル原潜から発射される潜水艦発射弾道ミサイルの飛翔を24時間/365日警戒し、素早く、精確にキャッチ。飛んでいる間に迎撃できるよう弾道ミサイル防衛システム(BMDS)に敵ミサイルの追尾データを送付し、改善するというものだ。
ただし、ピトゥフィク基地のUEWRレーダーは、三面ある側面のうち、アンテナ面が二面しかないため、360度全周ではなく、240度しかカバーしていない。
それでも、ロシアや中国から、万が一、発射された“弾道ミサイル”を監視するのには、十分な位置、能力なのだろう。
しかし、高速で軌道を変えて飛んでくる“極超音速ミサイル”という新たな現実の脅威を、ピトゥフィク基地のUEWRレーダーは、捕捉・追尾できるのか。困難であるなら、改修が必要となるかもしれない。
そして、このUEWRレーダーや第22宇宙作戦隊の第7分遣隊という、ピトゥフィク基地の貴重な施設を、だれが防衛するのか。
トランプ大統領は、グリーンランドの周辺にロシアや中国が駆逐艦や潜水艦を展開していると危機感を示したうえで「グリーンランドは中ロに支配されるのを望んでいない」グリーンランドの防衛態勢について、デンマークはグリーンランドに犬ぞりを使うパトロール部隊を駐留させていることを指してか「犬ぞり2台分だ」(1/11)と揶揄し、米国が領有すべきとの姿勢を示した。
「ロシアに遅れをとる砕氷船ギャップ」
では、米国が領有すれば、グリーンランドの安全は守れるのだろうか?
ウクライナの元・最高議会議員であり、内務大臣顧問も務めたヘラシチェンコ氏は、X(旧ツイッター)に「砕氷船ギャップ」という言葉で「米国とその同盟国は、北極圏における能力において既にロシアに遅れをとっている。ロシアは約40隻の砕氷船を保有しており、そのうち8隻は原子力船である」と指摘。
「一方、米国は極地用砕氷船を2隻しか保有しておらず、それを主として補完しているのは同盟国であるカナダ(砕氷船18隻)、フィンランド(8隻)、スウェーデン(5隻)から提供されている。氷上での海上プレゼンス維持におけるロシアの優位性(40/8対2)は、北極圏における実効支配において、はるかに決定的なものとなる」(2026/1/18)との厳しい観方を示していた。
もちろん、ヘラシチェンコ氏が、ロシアと戦い続けているウクライナ政府に所属していた人物の言葉だと考える必要はあるだろうが、英BBCも砕氷船の隻数について「ロシアは約40隻保有し、そのうち、8隻は原子力推進。対照的に米国は、3隻しか稼働していない。中国は約5隻が極地対応可能だ」(BBCニュース 2026/1/19付)と指摘し、砕氷船ギャップに注目した報道をしている。
このように、地球温暖化がすすむ中でも、1年の大半が氷点下のグリーンランド周辺でパトロールを継続したり、兵員・装備を運ぼうとすれば、砕氷船の隻数・能力に注視すべきという意見は無視できない。
昨年(2025年)末、米沿岸警備隊は「米国とフィンランドの間で最大6隻の北極海警備カッター(ASC)砕氷船を建造する2つの契約を締結したことを発表した。ASC砕氷船は氷で覆われた海域を突破して航行するように設計された船舶であり、米国の国家安全保障にとって大きな前進となる…北極海警備カッターは、米国の主権を守り、重要な航路を確保し、エネルギー・鉱物資源を保護し、北極圏における敵対勢力の存在に対抗する」(米沿岸警備隊プレスリーリース 2025/12/29付)と発表した。
そして、6隻の北極海警備カッター(ASC)砕氷船は「フィンランドで建造される最大2隻のASCが含まれており、最初の船舶は2028年に納入される予定。…米国で建造される最大4隻のASCが含まれており、最初の国産カッターは2029年に納入される予定。この計画は、フィンランドのパートナーの砕氷船に関する専門知識をすぐに活用するとともに、長期的には米国での専門知識のオンショア化(≒専門ノウハウの米国移転)を調整することを目的としている」(同上)というのである。
まるで、「砕氷船ギャップ」の存在を米沿岸警備隊が公式に認めたかのようであり、「アメリカの法律では、海軍及び沿岸警備隊の艦艇は米国内で建造しなければならないが、今回は、国家安全保障上の理由からその要件を免除した」BBCニュース 2026/1/19付)とも報じられた。
昨年10月8日に、トランプ大統領が署名して発出された「大統領覚書」には「アメリカは、戦略的競争、攻撃的な軍事姿勢、外国の敵対勢力による経済的侵入という、北極地域における緊急かつ増大する脅威に直面している。これらの行動はアメリカ合衆国の主権を損なうものであり、重要な航路を危険にさらす」として「国外で最大4隻の北極海警備カッター(ASC)を建造することが…米国の国家安全保障上の利益にかなうと判断する」と記述されていた。
第二次トランプ政権自身が、”砕氷船ギャップ”を脅威と認識し、そのためには、ある程度、外国に依存せざるを得ないとの認識を示していたのである。では、どこに依存するのか?
現在、各国で運航中の砕氷船の80%はフィンランド企業が設計し、60%はフィンランドの造船所で建造されたとも指摘されている。(BBCニュース 2026/1/19付)アメリカとしても、フィンランドの砕氷船建造能力には、注目せざるをえなかったのだろう。
アメリカ海軍には現時点では、北極圏で活動できるような砕氷能力がある軍艦は見当たらず、前述のように、沿岸警備隊に2隻ないし3隻しかない。
一方、デンマーク海軍の北極警備艦「クヌート・ラスムッセン」(P570)は、武装は76ミリ砲1門だけだが、船体は、「ICE 1Aスタンダード」という北極の氷の海でも、ある程度、活動できるレベルの軍艦だ。
どんなに重武装の軍艦を派遣しても、北極圏の海の氷で身動きが取れなくなっては、洋上で戦い、守るべき地上への兵員・装備の輸送を行い、防衛できるのか疑問符が付く。
1月23日に公表されたアメリカの「国家防衛戦略」は、アメリカ軍の最優先課題を本土の防衛と位置付けた。
トランプ大統領が、米国本土の防衛のためにも、グリーンランドを防衛しなくてはならない、と考えているなら、他のNATO諸国の協力も必要になるのではないだろうか。
(フジテレビ特別解説委員 能勢伸之)
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