全世界の核弾頭の約85%を保有する米露間で結ばれていた戦略兵器軍縮条約「新START」が2026年2月5日に期限切れを迎え、失効した。

米露の戦略兵器が規制されない事態を迎え、世界と日本の安全保障はどうなるのだろうか?

ロシアの「RSM-56 ブラバ」潜水艦発射弾道ミサイル
ロシアの「RSM-56 ブラバ」潜水艦発射弾道ミサイル
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米=旧ソ連、米=露の間の二国間戦略核兵器の交渉と条約は、極めてややこしい経緯を辿ってきた。

そもそも、米ソの核兵器を巡る交渉は、どのように始まったのか?

米国務省の記録文書(米国務省歴史局 「1969-1976 SALT」)によると「1960年代後半、アメリカ合衆国はソ連が…大陸間弾道ミサイル(ICBM)の大規模な増強に着手したことに気づいた。1967年1月、リンドン・ジョンソン大統領は、ソ連がモスクワ周辺に弾道ミサイル迎撃システム(ABM)の限定的に構築を開始したと発表」したのである(米国務省歴史局 「1969-1976 SALT」)

旧ソ連のABMシステム(米国防総省ソヴィエト・ミリタリー・パワー 1985より)
旧ソ連のABMシステム(米国防総省ソヴィエト・ミリタリー・パワー 1985より)

旧ソ連は、“世界初の実用ABMシステム”の建設を1962年から1963年にかけて、モスクワ防衛を目的として開始していたと伝えられていた。この旧ソ連のABMシステムとは何か?

「広島に投下された原爆の数百倍に相当」「数メガトンの威力を持つ」核弾頭を搭載した迎撃ミサイルを、モスクワ周辺に配備し、モスクワ周辺に向かって飛来する敵大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の核弾頭を、迎撃ミサイルに搭載した核弾頭の爆発で迎え撃とうというものだった。

当初の計画では、モスクワ周辺に、核弾頭搭載迎撃ミサイルを128発配備するはずだったが、1969年から1970年までに完成したのは合計64発の迎撃ミサイル配備のみだった(UCS 2002/10/27付)

そんなABMシステムを旧ソ連が開発し、配備すれば、どうなると米国は受け取っていたのだろうか?

ロシアのABMシステム用迎撃ミサイル「A-135」の試験発射準備(カザフスタンの試験場・2018)
ロシアのABMシステム用迎撃ミサイル「A-135」の試験発射準備(カザフスタンの試験場・2018)

「ABMシステムが開発されると、一方が先制攻撃を行い、その後、他方が飛来するミサイルを撃墜することで報復を阻止することが可能となる」米国務省歴史局 「1969-1976 SALT」)と米側には考えられていた。

このため「(当時の)ジョンソン大統領は戦略兵器制限交渉(SALT)の開催を(ソ連に)呼びかけ」、ソ連側に「ABM競争をコントロール」しなければならない、と述べたという(米国務省歴史局 「1969-1976 SALT」)。

つまり、“ABMシステム”という新兵器システムの登場が、米国側の危機感を募らせ、当時の米ソ戦略兵器制限交渉(Strategic Arms Limitation Talks=SALT交渉)の切掛けだったということだろうか。

では、SALT交渉の対象であるはずの「戦略兵器」とは、何であったのか?

米ソはなぜ「戦略兵器」の交渉を始めたのか

Cambridge Dictionaryによると戦略兵器とは「遠方から敵を攻撃出来るように設計された兵器」とある。核弾頭が搭載出来るかどうかは定義の前提となっていない。

SALT交渉は米ソの軍事的なバランスを調整する事が目的だった。

1960年代後半の米国の呼びかけで1969年に正式に始まった戦略兵器制限交渉が1972年に、戦略兵器制限(SALT1)暫定条約とABM(弾道ミサイル迎撃システム)制限条約として実を結び、ABMについては、ソ連とアメリカ合衆国はそれぞれ2つのABM施設(計200基の迎撃ミサイルを配備)に制限された。

1974年にさらにABM条約議定書が調印されると、システムの構造は1つの施設(計100基の迎撃ミサイルを配備)に縮小された。

アメリカが1975-76年に配備していたABM:NIKE-Xシステム/スプリント迎撃ミサイル(資料)
アメリカが1975-76年に配備していたABM:NIKE-Xシステム/スプリント迎撃ミサイル(資料)

ABM制限条約によって、旧ソ連だけでなく、アメリカもABMシステムの開発、配備が条約上は認められたことになったが、米国は「財務および 戦略的理由から、アメリカは(ABMの)配備を…停止した」(米国務省歴史局 「1969-1976 、SALT」)。

この「戦略的理由」というのが、「相互確証破壊(MAD)」という考え方だ。

1961~68年当時の米国のマクナマラ国防長官は、米ソ両超大国が相互確証破壊、つまり相手の人口の25%と産業の50%に容認できない損害を課す能力があるとの自信をもっていれば、両国の関係は安定するだろうとの考えを持っていた。これは、どういう意味だろうか?

アメリカが、ABMを配備していないことを、あえて相手に知らしめておく。すると、アメリカは、敵の戦略核兵器による攻撃を察知すれば、ABMによって防御できないわけだから、敵の戦略兵器の着弾前に反撃を実施。敵に「容認できない損害」をアメリカは課すことになるということを敵に認識させる。それによって、敵にアメリカへの攻撃を思い留まらせようというものだったとされる。

1973年のブレジネフ・ソ連共産党書記長=ニクソン米大統領との会談(米国務省歴史局 「1969-1976 SALT」)
1973年のブレジネフ・ソ連共産党書記長=ニクソン米大統領との会談(米国務省歴史局 「1969-1976 SALT」)

1974年11月にウラジオストクで開かれた首脳会談において、米ソはSALT2協定の基本枠組みに合意した。

これには、戦略核兵器運搬手段(ICBM、SLBM、重爆撃機)の保有数を米ソは2400に制限すること、後述する多弾頭(MIRV=複数個別誘導再突入体)システムを搭載した弾道ミサイルの保有数を1320に制限することが含まれていた。さらに注目されるのは、米ソが、条約の対象となる戦略攻撃兵器の定義と種類を明文化したことである。

SALT2条約の規定によれば、米ソの「共通理解。アメリカ合衆国の旧アトラス型及びタイタンI型大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射装置177基は、もはや運用されておらず、部分的に解体されているので、本条約に規定された制限の対象とはみなされない」として、SALT2条約の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の対象にならないことを明記していた。他方、ソ連のICBMでは、「SS-16として知られているタイプのICBM…を製造、試験、配備しないものとする」と明記された。

米ソは、お互いのICBMについて、歯止めを掛けたようにもみえたが、このSS-16をソ連が、製造、試験、配備しないという決まりは、のちに、戦域核戦力、または、中距離核戦力(≒INF)問題という新たな問題をNATO欧州諸国や日本に突きつけることになる。

では、大陸間弾道ミサイル(ICBM)とは、何なのか?

SALT2では、ICBMについて推進剤や配備前の発射試験の回数など、技術的な規定が列挙されている。

中でも目につくのは「大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射装置は、アメリカ合衆国本土の北東国境とソビエト社会主義共和国連邦本土の北西国境の間の最短距離、すなわち5500キロメートルを超える射程を持つ弾道ミサイルの陸上発射装置」と明記されたことだ。

従って、ICBMとは、射程5500km以上の弾道ミサイルであることが米ソ間で定義されていたのである。この定義は、SALT2以降の米ソ、米露の軍備管理・軍縮条約や、米露以外のICBMにも適用されることになった。

さらに、当時、発射試験の際に、既存の米ソのICBM/SLBM1発に搭載されたMIRV(複数個別誘導再突入体)の数を一欄で示したうえで、「アメリカ合衆国は、この種のミサイルについて、3基を超える再突入体を搭載したミサイルの飛行試験や配備を行う計画はなく、また、行う予定もない。」と記述した。

MIRVとは、ICBMやSLBMから放たれる個々別々の標的を目指す再突入体(弾頭)で、1発のICBM/SLBMに複数が搭載される。

一方、米ソ両国は「SALT1から未解決のままだった重爆撃機の保有数と両国の保有する弾頭の総数を解決できなかった。」(米国務省歴史局 「1969-1976 SALT」)

米ソでSALT交渉の対象にするかどうかで対立したバックファイア爆撃機(Russian defence ministry)
米ソでSALT交渉の対象にするかどうかで対立したバックファイア爆撃機(Russian defence ministry)

「米国の交渉担当者はバックファイア爆撃機が米国に到達可能と考えていたが、ソ連はSALT交渉の対象とすることを拒否した」(米国務省歴史局 「1969-1976 SALT」という)。

規制対象めぐり相手より優位に立つための舌戦

バックファイア爆撃機を巡る当時の米ソの対立とは、前述した戦略核兵器運搬手段の規制数2400に、当時、新鋭のバックファイア爆撃機の機数が含まれるかどうかという問題だったのである。一方、「ソ連は、(米軍の航空機から発射する)空中発射巡航ミサイル(ALCM)の配備制限を試みたが、失敗に終わった。」(米国務省歴史局 「1969-1976 SALT」)という。

つまり、当時の米ソ両国は、軍事管理交渉を通じて、結果として、自国が不利にならないよう、相手の戦略兵器を、できるだけ条約交渉の対象に入れて規制することをめざし、自国の兵器は、規制の対象から外そうとしていた、ということなのだろう。

では、どうやって、相手が規制を順守している、または、破っていると確認できるのだろうか?

「検証(査察)問題でも両国は対立したが、最終的にはテレメトリと呼ばれる電子信号の収集や写真偵察衛星の使用を含む国家技術手段(NTM)の使用で合意した」(米国務省歴史局 「1969-1976 SALT」)と米国務省は記述している。つまり、偵察衛星や電子信号の収集は、相互に条約上、認められる査察手段とみなしたということなのだろう。

アメリカのB-52爆撃機(米空軍公式HPより)(上)・ソ連/ロシアのツポレフ95爆撃機(下)
アメリカのB-52爆撃機(米空軍公式HPより)(上)・ソ連/ロシアのツポレフ95爆撃機(下)

SALT2では、戦略兵器として条約の対象として扱う爆撃機を「重爆撃機」と呼び、「アメリカ合衆国で B-52および B-1と命名されたタイプの重爆撃機は、ソビエト社会主義共和国連邦でも同じ名称で知られている。ソビエト社会主義共和国連邦によってツポレフ95と命名されたタイプの重爆撃機は、アメリカ合衆国ではベアタイプの重爆撃機として知られている。

旧ソ連のミャシチェフ重爆撃機(米国防総省公式HPより)
旧ソ連のミャシチェフ重爆撃機(米国防総省公式HPより)

ソビエト社会主義共和国連邦によってミャシチェフと命名されたタイプの重爆撃機は、アメリカ合衆国ではバイソンタイプの重爆撃機として知られている」とした上で、同条約第2条3項で、以下のように定義していた。

「アメリカ合衆国のB-52型またはB-1型の爆撃機、およびソビエト社会主義共和国連邦のツポレフ-95型またはミャシチェフ型の爆撃機には、射程距離600キロメートルを超える巡航ミサイルを20発以上搭載しないものとする」

そして、「空対地弾道ミサイル(ASBM)は、射程距離が600キロメートルを超えるミサイルであり、航空機内またはその外部搭載装置に搭載されるものをいう」「ASBMを搭載した爆撃機」と記述。

SALT2で重爆撃機として、規制される爆撃機の機種、性能が記述されていた。

ツポレフ Tu-142ベア長距離哨戒機(Russian defence ministry)
ツポレフ Tu-142ベア長距離哨戒機(Russian defence ministry)

ところで、SALT2条約には、米ソ合意には、ツポレフ95を原型機としているため、外形がツポレフ95と似ている「潜水艦戦用の・・・ツポレフ142型機は、条約第2条第3項(a)に規定する重爆撃機とは異なる種類の航空機とみなされる」との規定もあった。

1979年6月17日、カーター大統領とブレジネフ書記長はウィーンでSALT2条約に署名した。 SALT2は「(米ソ)両国の核戦力の総量を 2,250 基の運搬手段に制限し、MIRV を含む配備された戦略核戦力にさまざまな制限を課した」(米国務省歴史局 「1969-1976 SALT」)

 このように、SALT1、SALT2条約は、交渉対象とする戦略核兵器、特に、核弾頭の運搬手段である、ICBM(大陸間弾道ミサイル)、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)、重爆撃機を、決定したうえで、その種類別に、相互に、これ以上は増やさないという「数量」と、その「性能」の限定を掲げた条約だった。つまり、前述のように、そもそも「戦略兵器とは何か」「具体的に、何という兵器が戦略兵器にあたるのか」との、米ソが作成した定義を前提とした条約だったのである。

米露両国が新START条約に署名(2010年4月)
米露両国が新START条約に署名(2010年4月)

これに対して、START(戦略兵器削減条約)、新START条約は、米ソ、米露の戦略核兵器を条約の対象とする兵器を決定したうえで、交渉で設定した目標の「数量」まで、「削減する」という条約だった。

新START条約、米露は弾頭数を削減

新START条約で、米露両国が署名(2010年4月)した時点で対象となっていた戦略兵器は、以下の表のとおりであり、前述のSALT2条約の対象となっていた戦略兵器と比べると、古い兵器が減り、SALT2以降に登場した新兵器が条約の対象として加わったことがわかる。

では、新START条約は、どれくらいの「数量」を削減目標としていたか?

「配備される大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)および重爆撃機を700に、また配備・非配備のICBM発射基、SLBM発射基および重爆撃機を800とすること、ICBM、SLBMに搭載される弾頭および配備される戦略爆撃機に搭載される核弾頭を1550とすることが定められた」(第2条)。

B-52H重爆撃機から核搭載可能なAGM-86B巡航ミサイルの投射試験(U.S. Air Force Staff Sgt. Roidan Carlson)
B-52H重爆撃機から核搭載可能なAGM-86B巡航ミサイルの投射試験(U.S. Air Force Staff Sgt. Roidan Carlson)

「ICBMおよびSLBMに搭載される弾頭数は実際に搭載された数が、また戦略爆撃機に関しては1機につき1発の核弾頭を搭載していると見なして計算される」(第3条2項)。

つまり、この数え方では、爆撃機に実際に搭載できる核弾頭の数より下回る可能性があることは留意すべきことだろう。さらに興味深いのは、第2条の以下の記述だ。

「各締約国は、ICBM及びICBM発射装置、SLBM及びSLBM発射装置、重爆撃機、ICBM弾頭、SLBM弾頭、並びに重爆撃機用核兵器を削減し、制限する」となっていて、削減・制限対象として「重爆撃機用核兵器」は記述されているが、ICBM、SLBMについては、単に「弾頭」と記述されていて、“核兵器”とも“核武装”ともなっていない。

そうだとすれば、新START条約の下では、非核任務のICBMおよびSLBM、ならびにこれらに搭載される通常弾頭についても削減・制限対象としてカウントされていたのだろうか?

アメリカは配備中のB-1B重爆撃機を全機核兵器を搭載しない爆撃機に改修(米国防総省公式HPより)
アメリカは配備中のB-1B重爆撃機を全機核兵器を搭載しない爆撃機に改修(米国防総省公式HPより)

逆に「重爆撃機用核兵器」は、新START条約上、削減対象にあたったため、アメリカは同条約上の制限・削減を実行するためか、部隊に配備されているB-1B爆撃機を全機、核兵器を運用しない非核爆弾や非核ミサイルを使用する爆撃機に転換・改修した。

このため、新START条約議定書第9は「核兵器を搭載していたすべてのB-1B重爆撃機を非核兵器搭載の重爆撃機に転換することが完了した後、当該転換されたB-1B重爆撃機が…第一種査察を受けている空軍基地に存在する場合、当該転換された重爆撃機はもはや第一種査察の対象とはならないと規定している」「ロシアは(年に一度)最大3機のB-1B重爆撃機を検査対象に指定し、これらのB-1B重爆撃機が核兵器運用能力を保持できないことを示す特徴を確認することができる」と定めていて、アメリカ側は、ロシアの査察を受け入れてでも、B-1B重爆撃機の非核化に取り組んだということなのだろう。

前述のとおり、ICBMとSLBMの弾頭については核兵器とは書かれていないので非核弾頭でも新START条約では規制の対象になり得る可能性があった。

いずれにせよ、上記の表で示したように、2020年12月の時点で、米露は、新START条約で設定した「数量」の目標は、達成していた。

新STARTが想定していなかったロシアの新兵器

冒頭で記述したように、新START条約は、2026年2月5日に期限切れで失効した。

その前年、2025年9月22日、プーチン露大統領は、2026年2月の核兵器条約失効後も1年間、新START条約による核兵器の数量制限を遵守する用意があると述べた。ただし、この措置は米国が同様の行動をとった場合にのみ実現可能になるとも指摘。

ラブロフ露外相も2月11日、「プーチン大統領が宣言したモラトリアム(自主的制限)は引き続き有効だが、それはアメリカが制限を超えない場合に限られる」とロシア下院で発言。プーチン大統領の発言を裏打ちするような姿勢を示した(ロイター通信2/11付)。

では、アメリカが、新START条約の制限を今後も守り続けたらどうなるのか?

ロシア海軍の2M39原子力魚雷「ポセイドン」の発射筒(Russian defence ministry)
ロシア海軍の2M39原子力魚雷「ポセイドン」の発射筒(Russian defence ministry)

ロシアが、開発・生産・配備を進めている核弾頭搭載可能とされる原子力魚雷「2M39 ポセイドン」は、海中を航行する潜水艦から放たれ、海中で、長大な航続距離を航走し、標的を仕留める新型兵器だ。しかし、発射後、まったく、空中を飛ぶことがないため、新START条約で定義される「戦略兵器」には、当て嵌まりそうもない。

ロシアの原子力巡航ミサイル「9M730ブレベストニク」(ロシア国防省)
ロシアの原子力巡航ミサイル「9M730ブレベストニク」(ロシア国防省)

そして、ロシア独特の新型ミサイル、核弾頭搭載可能な「9M730ブレベストニク」原子力巡航ミサイルも、長大な射程を持つが、巡航ミサイルなので、大陸間弾道ミサイルではない。そして、潜水艦発射弾道ミサイルでも、重爆撃機でもないため、新START条約の削減・規制対象にはなりえない。

米国には、「ポセイドン」や「ブレベストニク」に匹敵する兵器はなく、開発計画も見当たらない。

このため、新START条約を米露双方が遵守すると、ICBM、SLBM、重爆撃機では、米露が“バランス”をとれても、ロシアの「ポセイドン」や「ブレベストニク」によって、大規模な不均衡が生じかねないとの見方も出るかもしれない。

では、アメリカは、どのように対応するのか?

アメリカのトランプ大統領は、新START条約が失効した2月5日、「新STARTを延長するのではなく、将来にわたり機能する、新しく改善され、近代化された条約について核の専門家に検討させるべきだ」とSNSに投稿していた。

トランプ大統領の言う、「近代化された条約を核の専門家に検討させる」とは、どういうことなのだろうか?

アメリカのニュースサイト、アクシオス(2/5付)は「ホワイトハウスが新STARTの延長に懐疑的だった主な理由は、はるかに小規模だが急速に進歩している核兵器を持つ中国を新STARTが抑制できないからだ」「(米露)双方が少なくとも6カ月間は(新STARTの)合意条件を遵守することに(法的に正式ではないとしても)合意し、その間に新たな合意の可能性に関する交渉が行われることになる」と報じた。米露は、新たな軍縮交渉に臨むだろうとの見立てである。

この新たな交渉が行い得るなら、ロシアの「ポセイドン」や「ブレベストニク」のように新STARTでは、カバー仕切れそうもない新兵器を、交渉の対象にできるようになるのかどうか?

中国の新型大陸間弾道ミサイル「DF-61」
中国の新型大陸間弾道ミサイル「DF-61」

2035年までに米露に匹敵する核弾頭数、1500以上になるとも予想されている中国の核兵器や、日本の安全保障にとっても注目される射程の核・非核の極超音速兵器も交渉の対象になりうるのかどうか。

日本の安全保障にとっても、新START条約後の米露交渉は気掛かりなところではある。

(フジテレビ特別解説委員 能勢伸之)

極超音速ミサイルが揺さぶる「恐怖の均衡」 日本のミサイル防衛を無力化する新型兵器

極超音速ミサイル入門

能勢伸之
能勢伸之

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フジテレビ報道局特別解説委員。1958年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。報道局勤務、防衛問題担当が長く、1999年のコソボ紛争をベオグラードとNATO本部の双方で取材。著書は「ミサイル防衛」(新潮新書)、「東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか」(PHP新書)、「検証 日本着弾」(共著)など。