物価の上昇が止まらない。贅沢品だけではなく、私たちが日々必要とする食料など生活必需品の高騰も続いている。この物価高の影響で、所得が多い世帯と少ない世帯の格差が拡大している。特に教育面で二極化が深刻化している事が、総務省の家計調査を分析することで見えてきた。
消費支出は回復傾向だが・・・
10月7日、総務省は8月の家計調査を発表した。家計調査とは総務省が毎月発表している統計調査で、世帯ごとの収入と支出の推移を把握出来る基礎的な統計だ。
8月の家計調査によると、2人以上の世帯が消費に使った金額は28万9974円で、物価の変動を除いた実質で去年の同じ月より5.1%増えた。3年ぶりの行動制限のない夏休みのなか、帰省や旅行で外出した人が増えたことなどによるもので、増加は3カ月連続。
宿泊や国内パック旅行費を含む「教養娯楽」が20.6%増えたほか、鉄道運賃や有料道路の利用料などの「交通・通信」が11.6%増加した。
多くのメディアは上記のように「3カ月連続増加」「前年同月より5.1%増加」という面を強調して報じた。つまり使うお金の額が増えているので、経済的に良い数字が出たという文脈だ。しかし、これはあくまで全体の平均の話。世帯収入ごとの消費の動向を見ると、全く違った姿が見えてくる。

低所得者層では消費支出が減少
総務省の家計調査は、世帯主の定期収入ごとに5つのグループに分けて、それぞれの消費動向をまとめている。今回公表された2022年8月のデータと、コロナ前の2019年8月のデータを、収入ごとに比較した。
勤労世帯のうち最も収入が少ない世帯のグループ(2022年8月時点の平均収入21万5935円)の消費支出は、2019年8月には月額23万6327円だったが、2022年8月には21万7843円と、1万8484円(約7.8%)も減少している。
一方、可処分所得(実収入-非消費支出)は、2019年31万6930円、2022年31万6834円と、ほとんど変わっていない。つまり、物価高により、生活必需品以外に使うお金を節約している様子が窺える。
また収入が真ん中の世帯(2022年8月時点の平均収入34万4193円)でも消費支出は3万238円(約9.6%)減少していて、中間層の消費もコロナ前にまで至っていない事が分かった。
これに対し、最も収入が多い世帯(2022年8月時点の平均収入58万8735円)の消費支出は5843円(約1.3%)と、僅かだが増加している。高所得者層は、コロナ前の水準に戻りつつある事が分かる。
コロナと物価高というダブルパンチの影響を、高所得者層はいち早く抜け出しつつあり、低所得層・中間層はまだその影響を脱し切れていないようだ。

拡大する教育格差
こうした所得層ごとの差が顕著に現れたのは「教育費」の分野だ。
家計調査によると、収入が最も少ない世帯グループでは、2019年8月に8370円の教育関係費を支出していたが、2022年8月には5228円に減少した。減少率は37.5%にのぼる。
一方、最も収入が多い世帯のグループでは、2019年8月に3万2182円だった教育関係費が、2022年8月には5万992円に増えている。実に36.9%もの大幅増加だ。
収入の多い世帯は、コロナ禍で学校が休校になった時期などを経て、子どもの塾やオンライン教育などに多額の資金を投入してきたとみられる。
一方低所得者層は、このところの物価高騰で生活必需品の値段が上がり、可処分所得も伸びなかったため、教育費を削らざるを得ない状況に追い込まれているようだ。

結局賃上げしかない
低所得者層の消費支出伸び悩みについては、7月の月例経済報告に関する説明会で、内閣府関係者が「節約志向がみられ、留意が必要だ」と話していた。政府も警戒感を持っている。
低所得者層も含めた消費全体を下支えするためには、岸田政権がこれまで繰り返し主張していたように、「賃上げ」が必須だ。大企業だけではなく中小企業の賃上げも可能にするための、価格転嫁促進策もさらに進める必要があるだろう。
また教育費の格差拡大は、二極化・格差社会の固定化に直結する。賃上げとは別に、今後何らかの手当てが必要になるかもしれない。
(フジテレビ経済部デスク 渡邊康弘)