災害時における自衛隊の活動は多岐にわたる。被災者への食事の提供“炊き出し”もその1つだ。静岡県御殿場市にある板妻駐屯地では炊き出しの腕を競う炊事競技会があり、各隊が意地とプライドをぶつけ合った。
食事の提供を通じて元気づける

2025年1月、陸上自衛隊板妻駐屯地で行われた炊事競技会。
7チームが参加したプライドをかけた戦いだ。

御殿場市の板妻駐屯地で活動する第34普通科連隊。
災害時には被災地に救援に入る実動部隊で、熊本地震や熱海土石流災害でも活動した。
被災地では行方不明者の捜索や救助はもちろん住民たちに温かいご飯をふるまう“炊き出し”も大切な任務の1つだ

第34普通科連隊長・兜智之 一等陸佐は「食事を提供することを通じ会話をして直接元気づけられる。そういったところも含めて自衛隊が行う意義がある」と話す。
競技会のルールは4時間あまりの制限時間内に指定された料理50人分を作ること。
2025年の献立は競技会初の中華・ホイコーロー定食だ。
各チームとも勝ちに拘る

前回大会のチャンピオン・重迫撃砲中隊を率いるのは災害現場での炊き出し経験を持つ小楠晃浩 炊事長。
「今年度数多く(イベントや訓練で)調理をやって、既にみんなの連携は取れているので問題はない」と自信満々の様子。

一方、毎回上位常連の第2中隊は休日は必ず自炊するという料理好きの安河内将宏 炊事長がチームを束ね、「大量調理なので被災者の方が安心して食べられるように衛生面を重視して作っていきたい」と意気込みを語った。
各チーム同じ献立なだけに、勝負のカギを握るのは味付けやアレンジだ。
時間をかけて肉を1枚1枚叩いたうえで火を通す前にタレと合わせて揉みこむのは第2中隊。
こうすることで旨味が増すとともに均等に味を染み込ませることができるそうだ。
対する重迫撃砲中隊は片栗粉を投入した。
袋の中で揉みこんで肉に片栗粉をまとわせることで肉が柔らかくなり、口当たりもよくするのが狙いだという。

競技開始から3時間。調理もいよいよ終盤だ。
各チームとも火加減に注意しながら食べやすい大きさに切った野菜と肉を炒め、味をととのえていく。同時にご飯も炊けてきた。
出来上がった料理は審査へ

調理が終わったチームは別会場で盛り付け作業開始。料理の見栄えも重要な審査項目の1つとなる。
完成した料理の出来栄えを訊ねると第2中隊の安河内炊事長は「100点満点。優勝の自信はある」と胸を張った。
残りは15分。
しかし、連覇を狙う重迫撃砲中隊は味付けがなかなか決まらない。
何度も味見を繰り返しながらようやく料理を完成させると急いで盛り付け会場へ。制限時間ギリギリで何とかすべての工程を終えた。
小楠炊事長は「ホイコーローに時間がかかってしまい、こちら(盛り付け会場)に持ってくるまでに少し他の中隊より遅れを取ったが、その分味の出来栄えはよくまとまった。すべての品目に自信があるので、よく味わって食べてもらいたい」とこちらも自信をのぞかせる。

いよいよ出来上がった料理の審査。
どのチームが作った料理かわからないようにした上で駐屯地の幹部やOB、それに地元住民が味や食感、さらに見た目まで細かくチェックしていく。
審査員を務める地元住民は「やわらかいし高齢者目線でいくと、とろみをつけたり工夫していていい」「若干差はあったが皆さん平均点以上」と話し、おおむね高評価だ。

結果発表…優勝はどの中隊に?

審査も終わり、いよいよ結果発表だ。
司会者が「令和6年度炊事競技会優勝 中隊は第2中隊!」と発表すると第2中隊の隊員からは歓声があがった。

第2中隊を率いた安河内炊事長は「食べて活力が出るようなおいしい食事が作れるようにと努力をしてここまでやってきた。その成果がいま実ったが、慢心することなくこれからも日々精進していく」と喜びつつも気を引き締めた。
最後の最後まで試行錯誤を重ねた重迫撃砲中隊は惜しくも準優勝。
連覇を逃した小楠炊事長は「悔しいです。第2中隊とどれだけ差があったかわからないが、個人的には完全に“いけた”と思っていたのでとても悔しい」と肩を落とした。

有事の際に被災者の心も体も温めるために…隊員たちはきょうも訓練に励んでいる。
(テレビ静岡)