長崎市は、2029年度から水道料金の値上げを検討している。平均改定率は12.27%で、一般家庭では1カ月あたり395円、ホテルや大型店舗では1万1700円程度上がる見込みだ。年間にすると一般家庭で約5000円の負担増となる。値上げの背景には、老朽化するインフラの深刻な現実があった。
深夜の水道管工事…完了するのに10年
午前0時。長崎市宝町で、老朽化した水道管の交換工事が行われていた。
山手の手熊浄水場から中心部に向かう“大動脈”ともいえる、大掛かりな水道管の交換工事だ。耐震化し、中も外もさびに強い管を取り付けるだけでなく、水の流れを新しい管に切り替えたり、古い管を取り除いたりと、非常に手間がかかる。
工事は、週末を除いて毎日夜間行われていて、2017年度に始まり2026年度に完了予定。しかし、全ての作業が終了するのはさらに3年以上かかる見通しだ。
工事しているのは宝町から常磐町までの約3.3km。車で移動すれば10分もかからない距離だが、工事には10年以上かかる。想像以上に進まないのが現状だ。
各地で発生する「水道管の老朽化問題」
水道管の老朽化は、全国的に社会問題になっている。
水道管の老朽化は社会問題に2025年に発生した埼玉県八潮市の陥没事故は、下水道管の腐食が原因とみられている。
2026年1月、佐世保市梅田町では、老朽化した水道管が破裂し、周辺の約20軒が一時断水した。佐世保市では、2026年度から水道料金を3割値上げへ踏み切った。
100年前の水道管から漏水…
長崎市も例外ではなく、2025年度だけで水道管の破損事故が5件発生した。
このうち2025年5月に大浦東町で壊れた管は、約100年前に作られたものだった。管は縦に真っすぐ亀裂が入り、当時は内側にさび止め加工をしていないので、さびも発生していた。
約100年経過した管はまだ長崎に何カ所か残っているということで、長崎市上下水道局水道建設課の松本真一さんは「そこを最優先に、いま更新工事をしている」と説明する。
水道管の法定耐用年数は40年で、それを過ぎた管の割合は毎年増加。長崎市は5年ごとの更新計画を立て、緊急性の高いものを優先的に進めている。市内の水道管の総延長約2600kmに対し、年間で更新できるのはわずか10km程度。工事が追いついていないのが現状だ。
アナログ設備がいまだ現役
老朽化しているのは水道管だけではない。「浄水場」もしかりだ。
市内7カ所の浄水場で最も古い浦上浄水場は、長崎に原子爆弾が投下される前の1945年2月に供用を開始した。
他の浄水場はパソコン上で操作しているが、ここはまだ手動で機械を動かす唯一の浄水場だ。中央制御室には、アナログのスイッチやメーターなどがずらりと並んでいる。
ポンプは製造から約半世紀が経過している。浦上浄水場の中垣武敏場長は「ポンプを製造したメーカー自体が存在していない」と語る。他のメーカーに業務が引き継がれているので修理はできないことはないが、更新すると相当な費用がかかるという。
水道事業会計は赤字へ転落…「坂のまち」と「人口減」
長崎は、斜面地に住宅が建ち並ぶ「坂のまち」だ。
そのため、山の上から水を効率的に配るためのタンクの数は、同規模の自治体の平均62カ所と比べて約4倍の、233カ所にのぼる。
水道設備が多く、水道管と施設の老朽化が進む長崎市の直近の維持・更新予算は、2023年度に100億円を超えた。
さらに追い打ちをかけるのが急速な「人口減少」だ。2024年までの15年間で長崎市の給水人口は1割以上減り、水道料金の収益は節水家電の普及もあって、15億円減少。黒字で推移している水道事業会計は、2029年度には赤字に転落する見込みだ。
赤字になる前に値上げを
2029年度に水道事業会計が赤字に転落する見込みを受け、水道料金の値上げを示した長崎市。
市は今後、浦上と道ノ尾の浄水場を廃止し、西彼長与町と共同で浄水場を整備するなど、効率化と合理化を急いでいる。
長崎市上下水道局の事業部 花野伸一郎部長は「タンク施設や水道管は更新の際に適正な容量にダウンサイジング(小型化)して造るようにしている」と話す。
2029年度からの水道料金の値上げは、水道施設の老朽化による維持費の増大と人口減少が重なったため、赤字が現実になる前に検討に入ったという状況だ。
AIで漏水調査 新たな挑戦
長崎市は、民間企業と連携しAIを活用した漏水調査の効率化も進めている。
地下に埋まる水道管の漏水調査は、聴診器のような道具を使って音だけで判断する必要がある。経験が求められる作業で、人手や時間を要する。
漏水調査歴6年の時安優太朗水道整備士は「修繕現場に立ち会い漏水箇所を見ると、いまだにずれている場合がある」と、調査の難しさを語った。
AIを使った新システムでは、スマートフォンと専用機器を接続し、アプリで調査の音声データを録音。異音と位置情報を解析して漏水箇所を特定する。
過去2年間で数1000件のデータを収集し、精度は高まっているという。佐世保市出身でアプリの開発を進める「wavelogy(ウェブロジー)」の道上峻介社長は「非技術者でもできるように、人でなくてもできるように進化できるのでは」と期待を寄せる。
長崎市上下水道局は2025年12月、水道料金改定案を審議会へ示した。これを受けて審議会は、この夏にも市に対する意見書をまとめ、住民説明会を行うことにしている。
(テレビ長崎)
