長崎市で約45年間続いてきた70歳以上の高齢者への「交通費助成制度」が、存続の危機に直面している。主な財源となる「いきいき長寿社会基金」が3年後には底をつく見通しとなり、市議会では制度の見直しや廃止を求める声が上がっている。

「交通費の助成」で成り立つ「高齢者の生きがい」

長崎市小浦町のバス停に集まった老人クラブのメンバーたち。この日の目的地は、長崎市中心部にある「カラオケボックス」。

バスで30分かけて市の中心部へ
バスで30分かけて市の中心部へ
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バスで約30分の道のりだ。運賃は2025年9月の改定で40円上がり、片道320円となった。

長崎市は70歳以上に交通費を助成
長崎市は70歳以上に交通費を助成

長崎市では高齢者の外出を促して健康維持や生きがい創出を目的に、公共交通機関やタクシーの交通費を年間で1人当たり5000円程度助成している。対象は70歳以上で、バスや路面電車では支払った分がICカードにポイントで還元される仕組みだ。

高齢者にとっては交通費の助成で助かっている
高齢者にとっては交通費の助成で助かっている

「車は乗っていない。バスばかりだ」「5000円の助成は2カ月でなくなる。だいぶ乗っているから」と、老人クラブのメンバーは話す。

40年で30倍に膨れ上がった「助成額」

長崎市議会の11月定例会では、高齢者への交通費助成制度について「大幅な見直し、もしくは廃止すべきだ」との意見が議員から出された。理由は「財源の枯渇」だ。

助成額はこの40年余りで30倍ほどに膨れ上がった
助成額はこの40年余りで30倍ほどに膨れ上がった

この事業が始まったのは1980年。当初は74歳から76歳までの約2600人への交付だった。対象年齢は段階的に広がり、1996年には70歳から80歳までの2万8000人となり、2008年以降は年齢上限が撤廃された。

2024年度の交付は、市の人口の2割以上にあたる約8万9000人、助成額は約3億8800万円にのぼる。この40年余りで30倍ほどに膨れ上がったのだ。

かつて28億円あった基金も、3年後には底をつく見通し
かつて28億円あった基金も、3年後には底をつく見通し

主な財源は「いきいき長寿社会基金」の元金を取り崩している。かつて約25億円あった基金の残高は2028年度には500万円台となり、ほぼ底をつく見込みだ。

鈴木史朗 長崎市長
鈴木史朗 長崎市長

鈴木市長は「代替をどう考えるかを含め、他の介護予防事業の効果なども踏まえた上で、今後判断していく必要がある」と述べている。

「制度廃止」の声に不安を隠せない高齢者

老人クラブのメンバーは、制度の廃止に対して不安を隠せない。

年金生活者の高齢者にとって、交通費は家計を圧迫する…
年金生活者の高齢者にとって、交通費は家計を圧迫する…

「廃止になるとやはり困る。みんな年金生活者だから」「病院に行くときは車がないからバスで行かなければならない。どこかに行くには絶対バスで行かなければいけないから、ものすごく交通費が家計を圧迫する」と訴える。

「楽しみ」も奪われてしまうのか…
「楽しみ」も奪われてしまうのか…

助成があることで「行ってみよう」「あれを見てみたい」という外出のきっかけになり、「安心感がある」とも語る。

カラオケに行くのは年に数回と頻度は高くないが、余暇を楽しむ貴重な機会だ。しかし、現実には助成される交通費は通院や買い物といった必要最低限の移動だけで消えてしまうのが実情だ。

若い世代「税金を安くしてほしい」

若い世代からは「5000円補助されるのはうれしいことだが、それよりも税金を安くして、もう少し長崎市の経済を回してもらった方がいいのではないか」という意見も聞かれる。

所得制限の導入は?
所得制限の導入は?

持続可能な仕組みにするには、所得制限の導入も考えられる。

長崎市は…
長崎市は…

長崎市福祉部の前田裕子次長は「高齢者に所得制限をするとしても、ほとんどの方が非課税。特に70歳以上の方は所得の制限がどのように効果があるのか、“持続可能”という視点ではなかなか難しい部分はある」と、課題を指摘する。

経済の専門家は「解決策を探るべき」と指摘
経済の専門家は「解決策を探るべき」と指摘

長崎大学の山口純哉准教授は「斜面地の多い長崎では、移動手段の確保とあわせた“解決策”を探るべきだ」と提言する。

「ライドシェア」の考え方も
「ライドシェア」の考え方も

「多くの自治体が人口が減ってきてコンパクトシティを目指す中で、移動困難者は間違いなく増えていく。交通費助成で移動するという手段もあるだろうし、ライドシェアのようにお互い乗り合って移動をするという手段もある。総合的な見地から物事を見ていかないと」と話す。

佐世保市も見直しを検討
佐世保市も見直しを検討

佐世保市では75歳以上がバスに乗り放題となる「敬老パス」を見直し、鉄道にも使える年間8000円分の共通券への切り替えを検討している。

今後20年間で県内人口に占める高齢者の割合は、4割を超える見込み
今後20年間で県内人口に占める高齢者の割合は、4割を超える見込み

今後20年間で長崎県内の人口に占める高齢者の割合は4割を超える見込みだ。社会が高齢者をどのように支えていくかは、今後ますます重要な課題となっている。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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