「国際法か日米同盟か」

アメリカによるベネズエラへの軍事行動を受け、日本政府がこの両者の板挟みにあるという報道がいくつも見られた。

ある外交筋に「国際法って何?」と聞いたところ「信号機」という答えが返ってきた。

中国・北京の交差点 渋滞時は信号機もほとんど役に立たない
中国・北京の交差点 渋滞時は信号機もほとんど役に立たない
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「国際法とは信号機のようなものだ。トランプ大統領は赤信号を渡れと言ったのと同じだ」

「赤信号を渡れ」ならもはや信号機は不要だし、歩行者は大きな車両の通行を常に気にしながら道を渡るしかない。大国の言い分がまかり通る、今の国際情勢の縮図のようだ。

日本の選択はアメリカしかない

それでも別の外交筋は、アメリカを選ぶのは当然だとこともなげに答えた。「グリーンランドで同様のことがあれば考えるが、相手はベネズエラだ」と。

「アメリカが国際法を守らないことなど前からわかっていたことだ」とも付け加えた。

日本政府で主に対応したのは中南米の担当で、アメリカ担当は「政府として直接の評価を避ける」という部分を確認した程度だという。

外交筋「アメリカを選ぶのは当然だ」
外交筋「アメリカを選ぶのは当然だ」

相次ぐ関税措置やイランへの攻撃、グリーンランド領有への意欲など、これまでのトランプ氏の言動を考えれば致し方ない話かもしれないが、国際秩序は機能不全の危機にあるといってもいいだろう。

アメリカ国内に目を向ければ、秋に中間選挙を控えるトランプ氏にとっては支持率の低下が懸念材料だ。

エプスタイン氏とトランプ大統領(1997年)
エプスタイン氏とトランプ大統領(1997年)

「議会で(共和党が)過半数を割り込むと弾劾される恐れがあり、(自身のスキャンダルの可能性をはらむ)エプスタイン文書の行方も絡んでビクビクしているはずだ」(外交関係筋)という。

トランプ氏が「これからも自らニュースを発信し、メディアの注目を集め続けないといけない」(同)とすれば、今後も同様の動きが出てくることが考えられる。

米中協議の鍵を握る台湾

そのアメリカの動向が注目されるのは4月に見込まれるトランプ氏の中国訪問であり、米中首脳会談だ。

台湾を巡る両首脳の協議は焦点のひとつだが、その鍵を握るのは半導体だと関係者は口をそろえて言う。半導体生産の世界最大手・台湾積体電路製造(TSMC)の技術は米中双方にとって「競争の局面を左右する大事な要素」(日中関係筋)だという。

米中関係を占うカギになりそうなのがTSMCの行方
米中関係を占うカギになりそうなのがTSMCの行方

「TSMCがある限り、アメリカにとって台湾の重要性は変わらない」(外交筋)というように、アメリカが台湾に関与し続けるのは経済的な側面も強いようだ。中国にとってもアメリカとの競争や自国経済の回復に向け、TSMCの獲得は是が非でも成し遂げたいはずだ。

「中国は、ディール(取り引き)をしたいアメリカの本音を見透かしてギリギリまで合意せず、アメリカの譲歩を待つだろう」(外交関係筋)との見方も聞かれる。

中国軍による台湾攻撃のシミュレーション
中国軍による台湾攻撃のシミュレーション

逆にTSMCが米中どちらかの手に落ちれば、少なくともアメリカは台湾に関与する理由のひとつを失うことになる。アメリカの関与を継続させたい日本にとっては「台湾統一は、平和的であっても避けなければならない。現状維持が一番良い」(外交筋)ということになる。

日米首脳会談は経済問題から

米中の協議を前に検討されているのが高市首相の訪米だ。アメリカとの強固な関係をアピールし、中国を牽制することがその目的のひとつだが、ここでも「入り口は経済」(同)だという。

日本からの多額の投資と貢献を強調する場になるのだろう。これに加えて防衛費の増額や安保3文書の改定など、どこまで中身を充実させられるか、アメリカをしっかり引きつけられるかがポイントだ。

高市政権最初の日米首脳会談では笑顔が 2025年10月
高市政権最初の日米首脳会談では笑顔が 2025年10月

「トランプは読めない。それは日本にとってはやっかいだが、中国にとっても読めないのが現状だ」(同)という中で、日本外交の真価が問われる。

国益の確保こそ最優先

中国での取材を通して強く感じたことのひとつに、日本の外交は「お行儀が良い」という点がある。正しさや誠実さ、ルールや世論を重んじる優等生だということだ。

中国は政府も党もメディアも一体でブレがない。あるのは指導部の「絶対の正しさ」だけであり、世論に縛られないのは良くも悪くも強さに繋がる。

実はトランプ大統領の動きを歓迎か…
実はトランプ大統領の動きを歓迎か…

今やアメリカは「世界の警察官」をやめて自国の利益追求を最優先にしている。中国は表向きにはアメリカを批判しつつ、国際法を無視してアジア離れを示唆するトランプ氏の動きを歓迎し、自国の権益拡大を狙っているはずだ。

そうした世界の中で日本の国益、つまり国土や国民の安全・安心をどのように確保し、守っていくのかは、まさにその「外交」にかかっている。

求められるのは国家としての「戦略」であり、アメリカや中国などと互角に渡り合う「したたかさ」だ。

短期的、中長期的な時間軸の双方で、日本は何を武器にして、何を優先し、どのように生きていくのか。政府も、政党も、国民も真剣に考えるときだと、今の世界情勢が教えてくれている気がする。

善し悪しでも好き嫌いでもない、現実に対応するための外交政策は、この衆院選の大事な争点のひとつでもある。

【執筆:元FNN北京支局長 山崎文博】

山崎文博
山崎文博

FNNプロデュース部長 1993年フジテレビジョン入社。95年から報道局社会部司法クラブ・運輸省クラブ、97年から政治部官邸クラブ・平河クラブを経て、2008年から北京支局。2013年帰国して政治部外務省クラブ、政治部デスクを担当。2021年1月より北京支局長に。その後2024年から国際部長を経て現職。入社から28年、記者一筋。小学3年時からラグビーを始め、今もラグビーをこよなく愛し、ラグビー談義になるとしばしば我を忘れることも。