2025年のプロ野球、セ・リーグは阪神が両リーグ史上最速で優勝し、パ・リーグはソフトバンクが2年連続でリーグ制覇した。日本シリーズでは、第5戦の延長11回までもつれた熱戦を制したソフトバンクが5年ぶり12度目の日本一に輝いた。
フジテレビ系列12球団担当記者が、そんな2025年シーズンを独自の目線で球団別に振り返り、来たる2026年シーズンを展望する。今回はセリーグ連覇を狙う阪神。

2025年9月7日―。球団史上最速でのリーグ優勝を成し遂げた阪神タイガース。

その快進撃を率いたのが、監督経験どころかコーチ経験もなかった藤川球児監督(45)である。

優勝インタビューで藤川監督は「選手たちが強いわ」と語り、選手を前面に押し出した。

佐藤輝明選手(26)が2冠王(HR王・打点王)でMVPに輝き、才木浩人投手(27)(最優秀防御率)と村上頌樹投手(27)(最多勝・最多奪三振・最高勝率)のWエースが先発のタイトルを総なめ、中継ぎでは石井大智投手(28)が日本記録の50試合連続無失点を達成するなど、まさに選手たちが躍動したシーズンだった。

そんな選手の躍動を陰で支えたのは『選手ファースト』の考えを大切にし続けた藤川監督であった。

45歳の新人監督がなぜ史上最強の阪神タイガースを作り上げることができたのか。

「強い」と思った瞬間に組織は止まる

「選手たちが強いわ」と選手をたたえたリーグ優勝の日から1か月後のインタビュー。

いつぐらいから選手が強くなったと感じたか?と問われた藤川監督の答えは意外なものだった。

藤川:「本当はね、思っていないんですよ。あの一瞬だけは認めてあげなければいけない。監督として『選手が強い』『うちの選手は上手い』と思ってはいけない。自分が使っているのだから。そして、これからもチームが強い保証はないからこそ思ってはいけないのです」

藤川監督のリーダーとしての考えが凝縮されていた。

独占インタビューに応える藤川監督
独占インタビューに応える藤川監督
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藤川監督が最も大事にしていることは「心を動かさないこと」。

それは自身が現役時代に感じた苦い思い出があるからこその考えだった。

「現役時代、優勝できそうなシーズンを経験しながら『もっと頑張ろう』という気持ちが高まりすぎると、シーズン終盤に逆に自分がいっぱいいっぱいになってしまった経験があった。もっと頑張ろうと思い過ぎることは、体を突き動かすことよりも、必要以上のパワーを浪費してしまう。だからこそ、選手にそうさせてはいけない。選手の心を疲弊させてはいけない。そのために監督である自分の心を動かさない。その信念は貫くことができました」

藤川監督はこう、シーズン終了後に振り返った。

短期的な勝敗で一喜一憂せず、一見すると淡々としたその受け答えには優勝するために貫きたかった信念があったのである。そんな指揮官の下だからこそ、選手たちも結果に一喜一憂せずに自分が信じた準備を続け、結果を出すことができたのではないか。

MVP佐藤輝明の活躍の裏にあった『選手ファースト』

『選手ファースト』
藤川監督が常々口にする言葉には、具体的な実践が伴っていた。

4年ぶりに戻ったグラウンド。自分の考えをいきなり押し付けても、今の選手には届かないと感じた。

就任当初とにかくコミュニケーションを大切にしていた
就任当初とにかくコミュニケーションを大切にしていた

だからこそ、選手の考えを理解することも大切にした。

監督就任直後の2024年11月のキャンプでは、とにかく選手たちの練習の姿を観察し続け、積極的にコミュニケーションを取り続けた。

そんな中で気づいたのが、佐藤輝明の心の疲れだった。注目され続ける若手スター選手ゆえの苦悩を、藤川監督は敏感に感じ取った。

藤川監督と村上頌樹 2024年秋季キャンプにおいて
藤川監督と村上頌樹 2024年秋季キャンプにおいて

「本当にね、ぬれた子犬を見ているようでした」

藤川監督は我々もドキっとするような表現で監督就任当初の佐藤輝明の姿を表現した。

連覇を逃した2024年のシーズン。

主力である佐藤輝明にはメディア、そしてファンからも厳しい声が届き、佐藤自身の心がすり減っていた。特にリーグ最多23個のエラーを犯したサードの守備は、時にV逸の原因と書かれることもあった。しかし藤川監督の見方は独特だった。

藤川:「佐藤の守備が下手だった訳ではないのです。佐藤の守備が下手だという“レッテル”を貼ってしまっていた」

藤川監督は、佐藤という選手が「守備が下手」というレッテルをみんなが貼ってしまい、そのレッテルを佐藤自身も感じて結果として自信を失っていると見抜いていたのだ。

2024年11月、秋季キャンプで掲げたテーマは『没頭』と『凡事徹底』。藤川監督が掲げたこの言葉は佐藤選手を意識したものだった。

2024年秋季キャンプでノックを受ける佐藤輝明
2024年秋季キャンプでノックを受ける佐藤輝明

秋季キャンプ―。

佐藤がノックを受け、エラーをする。キャンプに見に来たファンから「ああ、またや」という声が聞こえる。

そのとき藤川監督は「絶対に続けてみろ」と声をかけたという。

レッテルを剥がさせるためには没頭する姿勢が一番だと。

没頭して、ずっと練習していると、その姿に勢いが出てきて周りは息を飲むように見るようになる。そして、周りの声なんて気にならなくなる。それを続けることで、グラウンド上で心に揺れることがなくなると考えていた。

佐藤輝明のエラーは2024年の23個から、2025年は6個に激減した。守備の栄冠であるゴールデン・グラブ賞を受賞するなど、大きく成長を遂げた。さらに好不調の波が激しかったバッティングも、シーズンを通して結果を出し続け、ホームランと打点の2冠王に輝いた。

インタビューに応える佐藤輝明
インタビューに応える佐藤輝明

偉業の要因を佐藤選手に聞くと、その一つに藤川監督の『選手ファースト』の考えがあった。

佐藤:「監督は選手のやりやすいようにやってくれる。シーズン途中から甲子園の屋外であまりフリーバッティングをしなくなったんです。屋外で打つと打球の飛距離が気になり、知らないうちに飛ばす打撃フォームになってしまう。監督に相談したら、じゃあ室内で練習しようと。室内で打つことで自分のバッティングフォームに集中して、打撃フォームをしっかり考えながらできた」

試合前に室内練習場で打撃練習をする佐藤輝明
試合前に室内練習場で打撃練習をする佐藤輝明

この言葉通り、試合前の全体練習、室内練習場で緩い球をスイングの確認をしながら、丁寧にバッティングを行っていた。

MVPに輝いた佐藤輝明
MVPに輝いた佐藤輝明

チームのためではなく、まずは選手のため―。

体や心に気を配り、将来を見据えたマネジメントを行った。

全体練習での短パンの着用など些細なことでも、選手のためになると思ったことはどんどん導入していった。

『選手ファースト』の考えが選手たちの躍動を支えたのは間違いないだろう。

「選手たちが誰よりも記録を残し、日本記録まで打ち立て、タイトルホルダーも沢山生まれ、ありがたいことに最後に優勝というのが入った。優勝のためではなくて、みんなの力が発揮できれば優勝になる。それだけです」と藤川監督らしくリーグ優勝を振り返ってくれた。

「憧れ」の力 脈々と受け継がれる虎道

藤川監督が火の玉ストレートで一世を風靡した現役時代。

タイガースのピッチャー陣にも、幼き日に藤川球児“投手”に魅了され、野球を始めた選手が多くいる。

最優秀防御率に輝いた才木浩人はいまでも藤川球児投手が憧れの存在だ。

藤川監督と才木浩人
藤川監督と才木浩人

才木:「監督のストレートは見ていてかっこよかった。小さいころから憧れというのはもちろんありました。色々、監督を見本にさせていただいたこともある。結局、ストレートで困った時に相談するのも藤川監督だった。“師匠”と呼ばせてもらうのは逆に申し訳ないですけど…」

だが、藤川監督の哲学は独特だ。選手たちには、常に未来を向き続けてほしいと願っている。

連続無失点記録の日本記録を達成した石井大智と藤川監督
連続無失点記録の日本記録を達成した石井大智と藤川監督

藤川:「感謝なんてね、現役終わってからでいい。人に感謝していたらね、成長が止まります。もうあなたから学ぶことなくなったと次にどんどん行かないといけない。指導者がそこで『俺だろ、教えたの』と止めてはダメ。だから、みんながいい成績を残してくれて、及川も石井も自分の数字を超えてくれた。もう何にもない。それが師匠としては最高」

自分自身が粉骨砕身の気持ちで腕を振り続けたその現役時代の姿こそが、監督となった今の大きな財産になっている。そして、これからも藤川監督の強みであり続けることは間違いない。

連覇 そして日本一へ

2026年のチームスローガンは“熱覇”-。球団初の連覇への思いを強く意識した言葉である。

2026年は大きな戦力流出もなく、ドラフトでは世代ナンバーワンスラッガーの立石正広(22)を3球団競合の中で獲得するなど、明るい話が多い。

さらに佐藤輝明選手が12月にロサンゼルスで自主トレーニングを行ったように、選手たちが精力的にシーズンへの準備を行っている様子が紙面でも多く取り上げられており、選手たちにも油断は一切ない。

藤川監督、選手、球団、そしてファンが一体となる阪神タイガースは、史上最強だった2025年を上回り、さらに強い戦いぶりを見せてくれるだろう。“連覇”の先にある“日本一”を獲るためにもー。

(文・阪神担当 関西テレビ 永沢徹平)