食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「コルシカ風ライスグラタン」。
東京・恵比寿にあるイタリア料理店「コルシカ1970」を訪れ、あさりの濃厚なエキスとベシャメル、ドライカレーが三位一体となって溶け合う店の名物を紹介。50年の歴史に一度は幕を下ろした名店の味を受け継ぐ、若きシェフの決意にも迫る。
恵比寿にある50年以上の歴史持つイタリアン
植野さんがやってきたのは山手線で渋谷から2分の恵比寿駅。街の名前の由来はお馴染みの「ヱビスビール」。1890年に製造が始まったブランド名が駅名になり、そのまま地名になったという珍しい歴史を持っている。

かつての工場跡地は「恵比寿ガーデンプレイス」へと生まれ変わり、2024年には醸造したてのビールが試飲できたり、ヱビスビールのルーツなどが学べる「ヱビス ブルワリートウキョウ」が開業。歴史とモダンが共存する、街のシンボルとなっている。
イタメシ文化を牽引してきた伝説の味
「コルシカ1970」があるのは、JR恵比寿駅から徒歩7分、駒沢通り沿いのビル1階だ。

日本でイタリアンがまだ浸透していなかった頃から、イタメシ文化を牽引してきた「コルシカ」。

ピーク時は入店を待つ客の列が100メートル以上先まで続くほどの名店だったが、ビルの建て替えで2021年に閉店。しかしその3年後、かつてと同じその場所にあの伝説の味が帰ってきた。
店内の大きな窓は、以前の店舗を意識して設計されたもの。シックで落ち着いた空間には、カウンター8席と個室が1部屋。店主は先代のもとで約9年修業を積んだ北村新さん。調理からサービスまで全てを1人でこなすワンオペスタイル。

客との会話もおろそかにしたくないという思いから、1時間から1時間半に1組ずつ、予約時間をずらして受ける現在の形に辿り着いた。
北村さんが織りなすのは、アサリとホウレン草のスパゲッティや、魚介のうまみたっぷりのエビグラタン。ヤリイカのトマトソース煮など、秘伝のレシピを受け継ぎ手間暇を惜しまず忠実に再現した伝統の味が楽しめる。先代から受け継いだ味をさらに進化させ、訪れる人の心と胃袋をつかんで離さない。
お前がやるなら名前を引き継いでもいいぞ
コルシカを継ぐことになった経緯を聞かれ、北村さんは「僕が在籍したのが2006年~2015年まで。最後にコルシカを閉める時に重本さんから『一時で良いので手伝って欲しい』と言われて、最後の半年間だけお世話になって、以前のコルシカは2021年末をもって閉店となりました。その時自分も37歳で、独立をそろそろと考えていた時期で」と振り返る。

コルシカのあと、中国料理店で修業をしながら独立を模索していたという北村さん。そんな時、コルシカの味を残したいと思ったビルのオーナーから、「コルシカと同じ場所で店をやらないか?」という話があった。
さらに、先代と元チーフからも、「北村がやるなら『コルシカ』の名前を引き継いでもいいぞ」と背中を押されたことで、2024年、店名を「コルシカ1970」と改め、伝説の味を復活させるに至った。

「料理を作っている時、すごく楽しそうですね?」と植野さん。北村さんは「(料理は)好きですね。コルシカの味を多くの人に味わって欲しいという思いから、気持ちが溢れて表情に出てしまう」と笑顔を見せる。
そんな「コルシカ」の味を大切にしている北村さんだが、「この味を次世代に継承していきたいというのもあります。自分が表現する料理も今後、積極的に出していけたらと思う」という思いも。そこで今は、客が席についた時に出す「つきだし」にオリジナリティーを凝縮。自分らしさを表現する、挑戦の場としているそう。伝統のレシピを守りながら、自らの個性を一皿に込める。「コルシカ」の新たなページを刻んでいる。

本日のお目当て、コルシカ1970の「コルシカ風ライスグラタン」。
一口食べた植野さんは「とろっとしたなめらかだけど、しっかりうまみが舌の上に残るベシャメルと、カレーの風味がきいたご飯。すごいと思うのが、あさりでうまみやコクがぐっと広がる」とうなった。
コルシカ1970の「コルシカ風ライスグラタン」レシピを紹介する。
