プロ野球に偉大な足跡を残した選手たちの功績・伝説を徳光和夫が引き出す『プロ野球レジェン堂』。記憶に残る名勝負や知られざる裏話、ライバル関係など、「最強のスポーツコンテンツ」だった“あの頃のプロ野球”のレジェンドたちに迫る!
読売ジャイアンツの「V9戦士」2人がレジェン堂に。「史上最強の5番打者」末次利光氏と「強気のリード」で巨人投手陣を支えた吉田孝司氏。長嶋茂雄氏・王貞治氏らの知られざるエピソード、末次氏の伝説の逆転満塁サヨナラホームラン、“大きな壁”森昌彦氏との吉田氏のレギュラー争いなど徳光和夫が切り込んだ。
大きな壁・森昌彦「若手にチャンスを与えない」伝説
徳光和夫:
吉田さんは、1軍に定着するわけでございますけど、吉田さんが入団したころは巨人のキャッチャーといいますと、森さんがいらっしゃいました。大きな壁だったんでしょうね。森さんは。

[森昌彦(現・祇晶(まさあき))(88)1955年巨人入団
巨人V9時代の正捕手。8年連続ベストナイン。通算1341安打。ヤクルト・西武のコーチを経て西武監督。リーグ優勝8回・日本一6回]
吉田孝司:
そうですね。大きな壁って、大きすぎましたよね。
ただあの人は本当に、なんだかんだ言われますけど、本当のプロフェッショナルっていうんですか。
若い人に、これから出てくる人間にチャンスを与えないんですよ。

吉田:
例えば川上さんが「ヨシ、点数も入ったし、次の回用意しとけ」って言われますよね。
森さんはそこでね、僕にチャンスを与えたくないわけですよ。
「いやおやじさん、バッティングちょっと良くなりましたから、もう1座席打ちたいんですけど」って言うわけですよ。
そうすると川上さんは、「そうか、じゃあ森が打つか」って。それで「ヨシ、もういいよ」って言っちゃうわけですよ。
2024年9月3日放送
大矢明彦:
その当時って、吉田(孝司)さんが少しずつジャイアンツで出てくる。
森(昌彦)さんが「おまえが大矢か」って言ってくれて、「はい。よろしくお願いします」と。何か教えてくれるかなと思ったら、「おい、うちの吉田打たせんなよ」って最初に言われたんですよね。
徳光:
そうですか。
大矢:
びっくりしました。プロってこういうもんかなと思って。
徳光:
ライバル、自分にとってポジションのライバルである後輩をちゃんと抑えろよ、ヤクルトはってことですよね。
大矢:
「あいつ(吉田)はな、2ストライクまではまっすぐ狙ってる」。
徳光:
そんなことまで言うんですか。

吉田:
チャンスを与えないんですよね。やっぱりプロですよね。
徳光:
やっぱり川上さんへの信頼が厚かったんですか、森さんは。

吉田:
それはもう絶対あります。「天王山」っていうのがあるじゃないですか。
巨人-阪神天王山、その前の試合で(吉田が)打っててもダメなんですよ。
やっぱり必ず(出場するのは)森さんなんです。だからすごい信頼感は、森さん、川上さん持ってましたね。
徳光:
つまり森さんとは違ったリードの仕方をしなければいけないというところに。
吉田:
それを手伝っていただいたというのが、やっぱり牧野(茂)さんなんですよね。

[牧野茂(1984年没56歳)1952年名古屋(現中日)入団
巨人コーチとして「ドジャース戦法」を導入。川上哲治監督の名参謀として「V9」に貢献した]
徳光:
牧野さん。

吉田:
牧野さんがね、試合終わって「ヨシきょう何もないんだろう。ちょっと俺につきあえ」と。
で、牧野さんが行きつけのお店、料理屋さんに連れて行ってくれて、「おまえに言うけどね。森と同じリードをしてたら、おまえは使わないよと。森と違うリードをするんだよ」。

吉田:
ただ、今、森(のリード)を見ててもね、外角が多いだろと。おまえはね、内角攻めてみろよ」と。それがすごく当たったんですよ。
だから「強気の吉田」とかね、さっき徳光さんが言っていただいたようにね。
徳光:
慶応の大橋、立教の槌田っていう、本当に名捕手、大学を代表する名捕手たちがですね、残念ながら、森さんの壁を越えられなかったんですけど。
吉田さんはそれをやがて越えるようになるわけでありますけども。

徳光:
巨人のキャッチャーの出場数、今、吉田さんが入団されてからのをまとめましたけれども、こうやって見ると、1972年にバッテリーコーチ兼任で森さんが72年からで。森さんの壁をついに越えるのが1974年。
74年どうでした?104試合・吉田孝司、森昌彦49試合というのは。
その前の年が肉薄したんですね。
吉田:
そうですね。
徳光:
森昌彦91、吉田孝司84。
吉田:
84だもんね。

徳光:
森さんは兼任コーチになったじゃないですか。
兼任コーチになりましたら、やっぱりいろいろ指導はしてくれたんですか?

吉田:
僕は1回も教わったことないです。申し訳ない。
徳光:
いけない質問しちゃったかな。
ずっとライバルとして見ていたってことですよね。
吉田:
ライバルとして見てくれてるんです。

