プロ野球に偉大な足跡を残した選手たちの功績・伝説を徳光和夫が引き出す『プロ野球レジェン堂』。記憶に残る名勝負や知られざる裏話、ライバル関係など、「最強のスポーツコンテンツ」だった“あの頃のプロ野球”のレジェンドたちに迫る!
読売ジャイアンツの「V9戦士」2人がレジェン堂に。「史上最強の5番打者」末次利光氏と「強気のリード」で巨人投手陣を支えた吉田孝司氏。長嶋茂雄氏・王貞治氏らの知られざるエピソード、末次氏の伝説の逆転満塁サヨナラホームラン、“大きな壁”森昌彦氏との吉田氏のレギュラー争いなど徳光和夫が切り込んだ。
巨人「V9」戦士“史上最強の5番打者”と“強気のリード”で支えた捕手
徳光和夫:
わが巨人軍は金字塔のV9というのがございます。
そのV9の選手をきょうはお迎えしておりますので、これほどうれしいことはございません。
勝負強いバッティングで、ONの後ろで5番打者を務めてらっしゃいました、末次利光さん(83)でございます。
よろしくどうぞお願いいたします。
末次利光:
よろしくお願いします。
徳光:
もう史上最強の5番バッターです、末次さん。
末次:
おそれいります。
徳光:
で、もう一方、強気のリードで巨人軍の投手を支えたといいましょうか、成長もさせました、吉田孝司さん(79)でございます。
よろしくどうぞお願いいたします。
吉田孝司:
よろしくお願いします。

[末次利光(83)1965年巨人入団
王・長嶋の後ろを打つ5番打者として活躍、勝負強い打撃の「左キラー」。巨人「V9時代」の右翼手。ベストナイン1回・日本シリーズMVP1回]
徳光:
お二人は同期入団で。
同期入団ですけれども、年齢的には末次さんが4つ上。
末次:
そうです。
徳光:
そうですね。一見、見た目には、皆さん分からないでしょう?
吉田:
そうですか。大学出と、僕は高校出です。
徳光:
伺ったら、末次さん中央大学ですけども、吉田さんも中央大学のテストも受けたっていう。

[吉田孝司(79)1965年巨人入団
強肩と強気のリードで「巨人V9」投手陣を支えた。74年、正捕手に。76年オールスターMVP。引退後コーチなど歴任]
吉田:
夏終わってから1週間ぐらい中央にお世話になりました。
その時、末次さんの部屋に泊らせてもらったんです。
徳光:
そんな間柄だったんですね。
じゃあまさか巨人軍で同期入団なんて思ってもいなかったですよね。
同期入団。土井正三さん(立教大)。
末次:
本当にすごいですよ。

徳光:
高橋一三さん(北川工高)、倉田誠さん(鶴見高)。
同じ年に移籍してきたのが、金田正一さん(国鉄)、関根潤三さん(近鉄)。
末次:
吉田勝豊さん(東映)。
吉田:
勝豊さんもそうです。
徳光:
勝豊さんもそうですか。
すごい本当に顔ぶれがこの年に入ったわけですね。
カネさんとか関根さんっていうのはどういう感じだったんですかね?

[金田正一(2019年没86歳)1950年国鉄(現ヤクルト)入団
通算400勝・4490奪三振はプロ野球史上最多。58年、新人・長嶋茂雄を4打席4三振。65年巨人移籍]
末次:
いやあのまんまです。
ただ金田さんっていうのはやっぱり、キャンプの時に宮崎で、僕ら新人ではね、朝早く起こされて朝からランニングですよ。
徳光:
金田さんに?
末次:
連れられて。それで上がってきたら、例の「金田鍋」っていう。
徳光:
ありましたね。金田鍋ってね。
末次:
あれを1杯じゃない、2杯食わないと怒られたんです。

[関根潤三(2020年没93歳)1950年近鉄入団
投手として通算65勝。1957年野手転向、通算1137安打。広島・巨人でコーチ、大洋・ヤクルトで監督を務めた「人材育成の名手」]
徳光:
関根さんはやっぱり、ああいう穏やかな感じの方なんですか。
末次:
まったくあのままです。神様みたいな人です。
吉田:
あの人はね、バッティング練習で球が集まるじゃないですか。
普通はバッティング練習するじゃないですか、打って。
あの人は「俺はいい」って構えてるんです。
センターのところで構えるだけなんですよね。
徳光:
打たないんですか?
吉田:
打たない、バッティングしない。
ONの後を打つ「巨人の5番」はつらいよ伝説
徳光:
末次さん、やっぱりそのONの後を打たれたってことで、やっぱり緊張したでしょ?
末次:
緊張なんていうもんじゃないですよ。
徳光:
V9の1年目で。

末次:
だから打って当たればいい、打てなかったら、もう本当に。
当時の後楽園というのは手拍子と声だけじゃないですか。もろ聞こえるんですよ。
せき払いでも聞こえるんですよ。
だから、王さん・長嶋さんさん、どっちかボーンとホームラン打つじゃないですか。
そうするとドワーって、なかなか(歓声が)鳴りやまないじゃないですか。観衆、興奮してるから。
その間に僕、打席に入っていくんですからね。このむなしさはないですからね。
逆に(長嶋・王を)ランナー置いて打ったときのね、またこの快感ってのはまたある。
徳光:
ちょっと違うでしょうね、またね。
末次さんの一打でミスターが帰ってきたことはよくありましたもんね。

末次:
5番だけしか経験できない、そういう優越感ありましたけどね。
徳光:
プレイヤーとしましての全体像としまして、長嶋さん・王さんって違いみたいなものありました?

[王貞治は末次の1歳年上、長嶋茂雄は末次の6歳年上]
末次:
ありますね。
王さんって、意外とスッと入っていけるんですよ、友達みたいに。
長嶋さんに入っていこうとバリアがあるんです。スッといくんだけど、その先なかなか進めないというか。
徳光:
吉田さんは、長嶋さんにかわいがられてましたよね。
吉田:
そうですね。
徳光:
長嶋さんと年齢的には10歳ぐらい違いますかね?
吉田:
11歳違うんです。
徳光:
ああそうですか。

吉田:
ビジターなんかで試合に行くじゃないですか。その時、行った時に、最初に長嶋さんが「おいヨシ、ちょっと走ろうか」と。で、「つきあえ」と言われてね、走ったんですよ。甲子園球場でね、ポールからポールを走ったんですよ。
その時「おい」って走った時、長嶋さんは親指立てるじゃないですか。
「シュッシュッ、シュッシュッ」って走るんですよ。

その時、頭ねポーンとたたかれた。「ヨシ、ダメだよ、リズムがないよ!」ってね。
走るときはね、声を出してリズムを出さなきゃダメだと。
で、ライトからレフト走って、「シュッシュッ、シュッシュッ」速くなるじゃないですか。
それで僕が抜いちゃうんですよ。
徳光:
吉田さんが抜いちゃうわけ、長嶋さんを。

吉田:
そしたらね、「ヨシおまえ、これだけのお客さんが見てね、ただでさえ俺はもうね引退近いとかって言われてんだぞ、マスコミに。おまえは必ず俺の2〜3歩後ろ走るんだよ」。
徳光:
そんなこと言ったんですか。
吉田:
「はい、分かりました」と。
