プロ野球に偉大な足跡を残した選手たちの功績・伝説を徳光和夫が引き出す『プロ野球レジェン堂』。記憶に残る名勝負や知られざる裏話、ライバル関係など、「最強のスポーツコンテンツ」だった“あの頃のプロ野球”のレジェンドたちに迫る!

読売ジャイアンツの「V9戦士」2人がレジェン堂に。「史上最強の5番打者」末次利光氏と「強気のリード」で巨人投手陣を支えた吉田孝司氏。長嶋茂雄氏・王貞治氏らの知られざるエピソード、末次氏の伝説の逆転満塁サヨナラホームラン、“大きな壁”森昌彦氏との吉田氏のレギュラー争いなど徳光和夫が切り込んだ。

末次・吉田も大緊張 川上監督の“オーラ”伝説

吉田孝司:
(監督の)川上哲治さんがやっぱりすごかったですね。怖いっていうかな、すごいオーラっていうのがあって。

徳光和夫:
川上さんもオーラありました?

吉田:
僕は、あいさつするのも本当に直立不動になる感じでした。

徳光:
川上さんといえばあれですよ、やっぱり相当、末次さんは同県・同郷人としまして目をかけられたということはないんですか?

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末次:
全然かわいがられてないですからね。

徳光:
そうですか。

末次:
厳しかったですよ。

徳光:
どういう存在ですか、川上さん?

末次:
いやもう、まったくかけ離れた存在でしたから。

徳光:
同郷の人間としまして、同県人としましては、憧れの人のもとで野球ができる。

末次:
もともとできると思ってなかったですからね。
それがやるようになってから、堀内恒夫が(1年後に)入ってきた時に、川上さんと平気で話してるんですよね。

徳光:
堀内さんはね。

末次:
「こいつ何だ」と思って。こっちは2年か3年くらいはね、「おはようございます」、「失礼します」そんなことしか交わしてないのに、あんな平気でペラペラしゃべってるわけですよ。
「こいつ」と思ってね。本当にうらやましいのとね、本当にそういうあれがありましたけどね。

食堂で打撃練習 長嶋の衝撃バットスイング伝説

徳光:
吉田さん、最初に多摩川の合宿所の食堂で、いきなり長嶋さんの練習をご覧になったと、私は伺いましたけど。

吉田:
当時は巨人軍といえどもね、雨天練習場がなかったんですよ。
それが後楽園で1日ぐらい雨だと休むわけですよ。
でも3日間くらい雨が降ったんですよ。

吉田:
そしたら僕ら1年目の時ですから、多摩川の合宿所で集合がかかって、「今からすぐ網を張ってくれと、食堂に。ティーバッティングをやるからちゃんと張ってくれ」と。
で、1軍の選手が順番に来られてティーバッティングやるんですけど。

その時の、やっぱり長嶋さんの。僕高校出たばっかりですからね。
ティーバッティングを見て、本当にびっくりしましたね。

徳光:
どういうびっくりの仕方?

吉田:
速さですよ。バットスピードの速さ。
ダーン、ボーンと、本当ネットがね、破れそうな本当にそんな感じ。
ほかの選手とはまた違うんですよ。それはずっと何年も見ましたけど、やっぱり長嶋さんのティーバッティングが一番すごいですね。バットのヘッドスピードがあるんですよね。

徳光:
そうですか。
王さんと長嶋さんのボールの運び方って言いましょうか、どういうふうに表現したらいいですかね。

吉田:
まず王さんはね、やっぱりゆっくりシューッと引いてきて、自分のタイミングのところで打つんですよ。ボールを運んでる感じなんですよ。

徳光:
乗せる感じですか?

吉田:
乗せる感じ、バットに。
長嶋さんは、来た球をパーンと打つわけですよ。

徳光:
はじく?

吉田:
もうはじくっていうかね、あの人得意の下半身で打てっちゅうの。
だんだんキャッチャーの方に下がってくるんですよ。
僕は下がって、最後ネットのあれが、最後の最後にこんなんなっちゃって。
「長嶋さん、ちょっともうすいません」って言わなきゃ、言えないから。
どんどん下がって、最後はもう一番ケツまで下がって。

でもね、勉強になりましたね。

荒川道場で末次が見た 王貞治“打撃の秘密”伝説

徳光:
(荒川博の)「荒川道場」でも稽古をしたというか、練習したというか。
王さんと一緒にしたんですか?

末次:
もちろんそうですよ。王さんがスイング始めると、僕は正座して見てるんですよ、正座して。
その時にひとつ思ったのは、タイミングに取るときにポッと見てると、王さんが親指でタイミングを取ってるんですよ、足の親指で。

末次:
こっちの親指をピュッと上げたときに、ポッと足を上げる、このリズム、この親指だけで取ってたんです。

徳光:
初めて聞いた話ですね。

末次:
それで、王さんに僕ぶつけたんですよ。
そしたら王さん、「そうか?」って。
「そうですよ、王さん」って言って。
本人は全然無意識だったんですよ。

徳光:
荒川道場って思い出すのは何ですかね?
王さんの「日本刀」練習、どうでした?

末次:
短冊をね、こういう短冊をこう…。

徳光:
こんなところに刀があるんですよ。プラスチックの。

末次:
これはおもちゃでしょ?

徳光:
プラスチック(のおもちゃ)です、もちろん。本物は用意できませんけど。

末次:
その角度来たときに、ここでポーンと切るわけですよ。
日本刀っていうのは、“切っ先三寸”って、ここしか切れないんですよ。

徳光:
ああそうなんですか。

末次:
こんなところ切れないんですよ。ここだけ切れるんですよ。
これが、バットでいうと、このヘッドを利かせる。

徳光:
なるほど。

末次:
ここに当たるわけですよ。

徳光:
面白いな。

末次:
いろんな映画とか何かでやってる、こんなところ切れませんよ。
ここだけなんです、切れるの。
だから日本刀というのは、刺すか切っ先を使うかっていうのが。

この訓練をやって、王さんなんかこれを…。
これをですね、だいたい10回くらい切って、7枚か8枚くらい切り落とすんですけど、切ったときは、本当にカミソリで切ったみたいにきれいに切れるんですよ。スポーンと切れるんです。

徳光:
それやっぱり瞬発力で…。

末次:
集中力です。
スポーンと切りますから、だいたい10回で8枚ぐらい王さんは切ってましたね。
僕らだいたい5枚ぐらいしか切れなかった。4枚か5枚ぐらいで。

そういう訓練をしましたね。