重度の脳性まひがある高校3年生。「自分ならできる!」との思いから、特別支援学校ではなく通常学級に通っている。小学校の先生になることを目標に、できることを少しずつ増やし、確実に夢に進んでいる高校生の今を追った。

「歩く」を目標に小さな動作も一人で行う

長崎市に住む高校3年生の岡本湖心(こころ)さん(18)。

リハビリに通う岡本湖心(こころ)さん
リハビリに通う岡本湖心(こころ)さん
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重度の脳性まひで手足に重い障害があり、週に2回、リハビリのため長崎市障害福祉センターに通っている。

重度の脳性まひと診断
重度の脳性まひと診断

3人兄弟の次男である湖心さんは、2007年、30週2日の早産で、1194gで生まれた。

診断後すぐに理学療法を受ける
診断後すぐに理学療法を受ける

新生児仮死による低酸素脳症から「重度の脳性まひ」と診断され、すぐに日常生活に必要な運動機能を育てる理学療法を受けている。

靴下を脱ぐのも思うようにいかない
靴下を脱ぐのも思うようにいかない

リハビリは、まずは靴下を脱ぐことから始める。だが、筋肉の緊張が強いため思うようにできない。

湖心さんの主治医 穐山医師
湖心さんの主治医 穐山医師

湖心さんが1歳の時からの主治医である穐山医師は「重度の障害があっても周りに頼らず自分ですること」を勧めていて、靴下を脱ぐ動作ひとつでも手伝うことはしない。

「自分で体を動かすことが大事」
「自分で体を動かすことが大事」

「靴下の脱ぎ履きは日常生活のことだから、これができないといけない。自分で身体を動かすことが非常に大事だ。もっとできやすくなったら歩けるようになる」と穐山医師は語る。

「この体に生まれてきてよかった」

リハビリを続けていた湖心さんが、左手をついてお尻を持ち上げた。

「歩く可能性を引き出したい」

この動作に穐山医師は「簡単なようで難しい、やっとできるようになった」と、湖心さんの成長を評価する。「前に手をつくのは生後4カ月、横には6カ月、立ち上がるのは9カ月、9カ月の動作ができないと歩けない。正直、何年先に歩くかと聞かれたら答えることはできないが、歩く可能性は持っている、可能性を引き出したい」と話した。

リハビリを止めようと思ったことは「ない」
リハビリを止めようと思ったことは「ない」

1人で歩くことを目指す理学療法はきついときもあるが、湖心さんは一度も根を上げたことがない。「リハビリをやめようと思ったことはないか」と聞くと、湖心さんは「ないです。努力して当たり前、歩けるようになって当たり前と思ってやってきたので、やめたいと思ったことは一度もない」と答えた。

「この体に生まれてきてよかった」
「この体に生まれてきてよかった」

さらに「なぜこの運動ができなかったのか考えたり、筋肉の勉強をしたりしてできるようになってきた。私は『この体に生まれてきてよかったな』と思っている」と語った。歩けるようになったら「僕と同じ障害がある子供もない子供も僕が助けたい」と意欲を見せる。

特別支援学校に行かない選択

湖心さんは、特別支援学校ではなく長崎県立鳴滝(なるたき)高校の通常学級に通っている。

毎朝母と登校する湖心さん
毎朝母と登校する湖心さん

毎朝、母親の恵子さんが車で送り、教室の移動や教科書の準備の手伝いは、支援員が行っている。

保育所・小学校・中学校も、通常の学校に通った
保育所・小学校・中学校も、通常の学校に通った

保育所・小学校・中学校も特別支援学校は選ばず、通常の学校で障害がない友人たちと共に学んできた。養護学校や特別支援学校を選ばなかったのは「誰よりも自分がやりたい、自分ならできる!という気持ちが強かった」からだ。

「お互いに刺激し合えた」
「お互いに刺激し合えた」

「すごく楽しかった。自分とは違う人たちがいっぱいいるので意見交換ができたこと、お互いがお互いに刺激し合えたことは行ってよかった」と、湖心さんは振り返る。

「前例がない」ことでのやるせなさ…

湖心さんは、中学・高校では「理解を得られなかった」と、2度、不登校を経験した。

不登校を経験した過去も
不登校を経験した過去も

日本は2014年に国連の障害者権利条約に批准し、障害のある無しに関わらず誰もが自分らしく生きられる「共生社会=インクルーシブ」を目指すとしている。

「共生社会=インクルーシブ」を目指すが…
「共生社会=インクルーシブ」を目指すが…

にも関わらず、日本は障害のある子とない子を別々の環境で教育する「分離教育」を行っていて、2022年には国連から「分離教育を中止」するように勧告を受けている。

湖心さん用に工夫された教室の机
湖心さん用に工夫された教室の机

特別支援学校とは違い、通常学校は備品やトイレなど障害のある人を受け入れる整備が進んでいないのも現状だ。このため湖心さんの教室の机は特別に持ち込んだもので、物が落ちないように工夫されている。

母の恵子さん
母の恵子さん

母親の恵子さんは通常学校を選択する中で「(学校からは)毎回、何をするにしても前例がないとか、こういうケースは初めてなのでと始めに言われる。これまでの先生が歩んできた教育の概念や経験とは違うから、受け入れる、共感するのは時間をかけないと難しいのかなととても感じている」と話す。

小学校の先生になりたい

湖心さんは高校卒業後、通信制大学への進学を考えている。

夢は小学校の先生
夢は小学校の先生

目指すは、自分が経験してきた様々な困難も含めて伝えられる、小学校の先生だ。「もし自分が教員になったら生徒の思いをしっかりくみ取って、その子その子に合わせた適切な指導を行っていきたい」と語る。

「これから大学でたくさんのことを学びたい」
「これから大学でたくさんのことを学びたい」

湖心さんは、地域の学校に通うことで自らが"前例"を作り、必要な支援を受けやすくなれば、自分と同じ境遇の子どもたちの道しるべになると信じている。「これから大学でたくさんのことを学びたい」と意欲を見せる湖心さんの目は、希望の光で輝いている。

(テレビ長崎)

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