朝のニュース番組や天気予報で晴れると言っていたのに、午後に急な雨。傘を持たずに出てきてしまい、ずぶ濡れに……皆さんもこんな経験、一度や二度ではないはずです。笑顔で「晴れ」と言っていた気象予報士の顔を思い浮かべて、恨めしく思ったこともあるでしょう。天気予報の精度が上がったとはいえ、やはり未来の話、外れることもあります。
ところで、実は季節によって天気の当たりやすさが変わることを知っていますか?特に太平洋側では、夏の天気に比べ、冬の天気は当たりやすいんです。
今回は、その理由と、当たりやすいことで気象予報士が抱えてしまう、この時期特有の「悩み」についてもお話しします。
天気を左右する気圧配置
皆さんも「天気図」という言葉を聞いたことがあるかと思います。日本地図の上に低気圧や高気圧が描いてある、あの図です。
低気圧が近づくと天気が崩れて、高気圧が近づくと晴れるので、私たち気象予報士は、この低気圧や高気圧の動きに日々注目しています。
この高気圧や低気圧の位置関係を「気圧配置」というのですが、季節ごとに特徴があります。その中で、もっとも有名なのが、「西高東低の気圧配置」ではないでしょうか。きっと、皆さんも、小学校の理科の授業以来、何度も耳にしたことがあるはずです。
これは別名「冬型の気圧配置」とも呼ばれ、その名の通り、冬になるとよく現れます。この気圧配置の時、日本海側は雨や雪、そして太平洋側は晴れの天気になります。どうしてそうなるのでしょうか。
雪は冬の季節風がもたらす
「西高東低、冬型の気圧配置」の時、日本の西に高気圧、東に低気圧があり、日本付近は等圧線が縦じまに並んでいます。この時、大陸から日本に向けて冷たい北風、冬の「季節風」が吹いてきます。実はこの風が、低気圧がないのに日本海側に雪を降らせるのです。
この冬の季節風は、冷たいだけでなく「乾燥」していますが、大陸から日本海を渡るとき、海から水蒸気をもらって、湿った空気に変わります。この湿った空気が、日本列島を貫く高い山脈にぶつかると、上昇気流となって雲を作り、日本海側に雪や雨を降らせます。
山を越えた風は水蒸気を失い、乾いた空っ風となって太平洋側に吹き降りてきます。この時には空気は再び乾燥し、雲を作ることができず、太平洋側は晴れるのです。
東京と新潟で正反対の天気出現率
さて、この日本海側と太平洋側で天気の傾向がガラッと変わることは、天気出現率にもバッチリ表れています。
東京(太平洋側)と新潟(日本海側)の冬(12月~2月)の天気出現率を見てみましょう。
【東京】晴れ:71.3、くもり:9.0、雨:12.0、雪:7.7
【新潟】晴れ:9.8、くもり:5.2、雨:22.2、雪:62.7
※12月~2月の天気出現率/単位%
(出典:気象庁・各気象台の天気出現率より筆者作成)
これを見ても明らかなように、東京は晴れることが多く、新潟は雪の日が多いです。これが気圧配置によってもたらされる、冬の天気の特徴となっています。
つまり、冬の間、太平洋側の気象予報士は、迷ったときでも極端な話「あすは晴れるでしょう」と言えば、7割以上は当たってしまうのです。
冬は大気の状態が不安定にならない
冬は冬型の気圧配置になりやすいことで、日本海側は雪の日が多く、太平洋側は晴れる日が多いと言いました。実は、もう一つ、天気予報が外れない理由があります。それは、大気の状態が不安定にならないことです。
夏の良く晴れた日の午後は、モクモクと巨大な積乱雲が湧いてきて、いわゆるゲリラ雷雨が毎日どこかで発生します。これは、強い日差しによる気温上昇で大気の状態が不安定となり、強い上昇気流によって積乱雲が発達するからです。
ところが、冬はそもそも気温が低いため、晴れても上昇気流が起きにくく、空気も乾燥しているので、上昇できたとしても雨雲が発達することはあまりありません。だから、朝、天気予報で晴れると言っていたのに、雨が降ってきたなんてことは、まず起こらないのです。
晴れが続くと“ネタ探し”が必要に…
ここまで読んだ方の中に、「冬の間は晴れと言っておけばいいから、楽なシーズンなのかな」と思った方もいるかもしれません。とんでもない!筆者は山形で気象予報士をしていますので、冬は腕の見せ所です。
一方、太平洋側の気象予報士も、この“毎日晴れが続く”というのが、実は悩みのタネで、ある意味では大問題なのです。それは、伝えることがシンプルすぎて、天気予報の時間を持て余してしまうことです。
雨が降る時は、雨の降るタイミングや雨の強さ、どのくらいの量が降るかなど伝えることがたくさんあって、逆に、時間がもっと欲しいなんてことも、しばしばです。ところが、晴れる場合は天気と気温くらいしか伝えることがありません……さあ、どうしましょう。
そこで私たちは、色々な文献や記事を調べて、皆さんのためになるような、有益な情報を日々探すことに、頭を悩ませるのです。
ある時はお肌の保湿について、時にはお風呂のヒートショックについて、またある時は星がキレイに見えることについて…などなど、冬の初めはいいのですが、晴れる日が続いてくとだんだんとネタがなくなって焦ってしまうこともあるのです。
だから、「どうせ明日も晴れかな、天気予報見なくていいか」なんてことを言わず、ぜひ天気予報を見てください。きっとどの気象予報士も、工夫を凝らしたお天気ネタを今日も仕込んでいるはずです。
(執筆:ウェザーマップ・兵頭哲二気象予報士)
