鹿児島市で活動している画家が「ミマとモリーのいちにち」という絵本を手がけた。
優しい物語の背景にあったのは父との別れという深い体験。そこをたどると、彼女が描こうとする「命」の意味が見えてきた。
線の一本一本に命を吹き込む
「絵を描き始めたのは覚えている限りだと保育園から」と語るコダマリさんは鹿児島市出身。
地元の赤塚学園タラデザイン専門学校を卒業後、フリーランスのデザイナー、イラストレーターとして活動してきた彼女が画家として本格的に制作を始めたのは5年前。
出産をきっかけに、自分の内側にある世界を子どもたちに見せたいと思ったという。
コダマリさんの作品は「ミリペン」と呼ばれる先端が細くとがったペンと水彩絵の具で描かれている。
彼女の原点となる作品には、まるで壁画のように2人の子どもが渦を巻く姿が描かれているが、それは「愛」と「真実」を表現したものだという。

「私が読み解いた限りでは、子供が世界をつくっているんじゃないかと思って。子供がきれいになるには世界がきれいになってから生まれて循環していく世界なのでは」と彼女は説明する。
“パリン”と割れた花瓶 その音に秘められたストーリー

そんなコダマリさんが2024年に初めて発表した絵本が「BREAK DAY ミマとモリーのいちにち」。「第27回文芸社えほん大賞」で2300を超える応募の中から2位の優秀賞に選ばれた。森の中で“パリン”という音とともに大切な花瓶を割ってしまった女の子ミマが、鹿のモリーと一緒に割れた器を直す旅に出るというストーリーだ。
物語の舞台は、薩摩焼の窯元が多くある鹿児島県日置市美山。登場する花瓶は薩摩焼だ。一見優しい童話に見えるこの絵本だが、その創作の原点には深い個人的な体験があった。
「頭の中の構想。ミマちゃんという女の子が父の死から立ち上がるところから始まった」とコダマリさんは明かす。
15歳の頃、彼女は母親から「お父さんが亡くなったらしいよ」と告げられた。「その時は『ふーん』と思っていたが、だんだん『私のお父さんもういないんだ』みたいな気持ちがあって。お父さんというものを初めて実感したというか」
“パリン”と割れた花瓶は、父の死で壊れた彼女自身の心を象徴していた。
喪失から新たな命へ
「結局自分の中にあるものでしか書けないと気づいてから、自分の過去を深掘りする期間が多くて。黒い物を1個見つけたときにそれがお父さんの死だった。私はそこからどうやって立ち上がったのか記憶を頼りに考えていて」と話すコダマリさん。
もう会えない父の「ミマ・モリ(見守り)」の中で生きていると信じて。女の子はミマ、鹿のモリーは父の生まれ変わりとして描かれている。
いろんな人との出会いと助けによって、つなぎ合わさった花瓶は卵の形に変わり、最後にはパリンという音とともに卵が割れ、新しい花瓶が生まれる。
コダマリさんにとって、心が壊れる音と命が生まれる音は不思議にも同じ響きだった。
「細かい線をたくさん描いているんですけど、私にはそれはいろんな血液に見えて。いろんな私の思いを画に残している気がして。本当に命を描いている気持ちになる。そういうのがあって、作るということをしていると思います」と、彼女の創作の原点について語ってくれた。
心の奥底に向き合い、生きる道を探るコダマリさん。
彼女の筆から生まれる命の物語は、鹿児島市のマルヤガーデンズにあるzenzaiマージナルギャラリーで11月30日まで開かれている個展で見ることができる。
(「KTSライブニュース」2025年11月19日放送より)
