高齢の親が自宅で暮らし続けるか、高齢者施設に入るか…。この悩みは尽きないが、「うちはまだ大丈夫」と無意識に“親フィルター”をはめていたら、突然それがはずれることがある。

両親が神奈川、自身が山口で暮らすイラストレーターの上大岡トメさん。父親には認知症の初期症状が現れ、母親は歩行困難な状況に。フルで介護サービスを使い、遠距離かつ在宅での介護をしていたが限界に達していた。

そこで老人ホームを探そうとするが、さまざまな疑問と葛藤が生まれる。

そんな上大岡さんの体験をマンガで紹介し、専門家による解説も交えた『マンガで解決』シリーズ第3弾『マンガで解決 老人ホームは親不孝?』(主婦の友社)。本書の監修を務めた、高齢者施設見学歴20年の経験を持つ、ファイナンシャルプランナー・畠中雅子さんの「親の施設選びのきっかけ」について一部抜粋・再編集して紹介する。

施設に入れるのは親不孝?

Q.親を施設に入れるって親不孝?
A.住み慣れた自宅がベストとは言い切れません

「住み慣れたわが家がいちばんいい」と考える人は、親世代だけでなく子ども世代にも多いかもしれません。でも、本当にそうでしょうか。

その家に住み始めたのが数十年前であれば、働き盛りの頃から住んでいる家が、高齢期にも住みやすいかは疑問です。部屋数は多く、数十年分のモノがあふれ、収納場所は使いにくく、段差や階段もあるでしょう。

消費者庁の調べによると、転倒事故の約半数は住み慣れた自宅で起きています。室内に変化はなくても住む人の体が動きにくくなっているので、今まで問題のなかった小さな段差や電気のコード、床の滑りやすさなどの危険をかわすことができないのです。

一人暮らしで転倒したら救急車を呼べないことも…(画像:イメージ)
一人暮らしで転倒したら救急車を呼べないことも…(画像:イメージ)
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一人暮らしの場合なら、救急車を呼ぶことさえできない場合もあります。車がないと不便な場所に住まいがある場合には、外出の機会も急激に減るでしょう。

親しいご近所さんだって同世代、接点は減り始めます。コミュニケーションの減少は、認知症のリスクを高めるともいわれています。在宅のまま、ピンピンコロリで亡くなるのは確かに理想です。

でもそれは、努力だけでなんとかなる問題ではありません。私が見る限り、最期まで「住み慣れた家」で過ごせる人は、よほど運がいいか、子どもが負担を背負ってくれている人です。

私たちはもうそろそろ、「住み慣れた家信仰」を手放してもいい時期です。年齢に応じた住まい方を、あらためて考えてもいいのではないでしょうか。