聴覚に障害がある選手の4年に1度の国際スポーツ大会『デフリンピック』。バドミントンで世界の頂点を目指す福岡の大学生を取材した。
世界ランキング3位の実力ペア
耳が聞こえない人や聞こえにくい人が補聴器を外し、殆ど無音の世界で戦う競技、デフバドミントン。

太宰府市に住む大学生の矢ヶ部真衣さんは、強烈なスマッシュが持ち味だ。
「国内でも国外でも、聞こえない選手って、みんな表情が豊かなので『いまイライラしているから慎重に狙っていこう』みたいな話は、試合中にしています。相手との駆け引きがデフバトミントンの面白いところだなと思います」と話す真衣さん。

6年連続で日本代表に選出。国内ランキング1位、世界ランキング9位。メダル獲得が期待されている選手の1人だ。

2025年8月、神奈川県で行われた日本代表合宿に参加した真衣さん。全国各地から代表選手が集結し、デフリンピックに向けての練習が行われた。
真衣さんは、シングルスだけでなくダブルスにも出場する。

ペアを組むのは3つ歳上の姉、紋可さん。2人は3年前にダブルスのペアを結成した。

攻めのプレーを得意とする真衣さんに対し、紋可さんの武器は粘り強さが光る守りのプレー。現在、世界ランキング3位の実力ペアだ。

日本代表チーム監督の小堀知史さんも「真衣選手の攻撃と紋可さんの守備のバランスがとてもよくていいと思います。姉妹だからこそ出せるプレーだと思います」と期待を寄せる。

足音や声に頼ることができない
耳が聞こえないことが分かったのは、紋可さんが3歳、真衣さんが2歳のとき。

紋可さんが、小学1年生のときにデフバドミントンクラブに入ったことがきっかけで真衣さんも競技を始めた。幼いころから人一倍負けず嫌いな性格で、とにかく試合で勝つために練習していたそうだ。

「試合で負けたら泣く。練習でもずっと泣く。ずっと泣いていて、母を困らせていたという記憶があります」と真衣さんは当時を思い出す。

2025年春、就職した姉の紋可さんは現在、福岡を離れ関東で生活している。離れて暮らすことに寂しさを感じないかと尋ねると「1ヵ月に1回は、合宿で会っているので、そこまで寂しくない」と応える紋可さん。

真衣さんは「やっぱり離れていると大変だなと思う部分があるんですけど、プライベートは離れている方が話す話題がたまるし、会ったときに話すことが楽しくなる」と笑う。

足音や声に頼ることができないデフバドミントンは、ペアの連携が取りにくいため、特にダブルスは競技が難しいといわれている。2人も試合中のコミュニケーションを課題としていた。

紋可さんは「ぶつかることが多い。ちゃんとコミュニケーションを取って迷わないで回れるようになりたいです」と話す。

前回大会ではベスト4まで進出したが…
2人には、今大会で金メダルにかける強い思いがある。2人にとって初めての国際大会となった3年前のデフリンピック。ダブルスで予選を勝ち進み、ベスト4まで進出。しかし新型コロナの影響で、日本選手団は全競技で試合を棄権することになってしまったのだ。

紋可さんは「デフリンピックでメダルを取れなかったという悔しさがずっと頭のなかにある。この3年の間でかなりダブルスは成長したと感じています」と自信を覗かせた。

2025年8月29日、母校の久留米聴覚特別支援学校で行われた壮行会に参加した真衣さん。後輩の子どもたちにメダル獲得を約束した。

「練習を重ねて、必ず金メダルを獲って、みんなにメダルを見せに来たいなって。一生懸命頑張りたいと思います」

福岡から世界の頂点へ。真衣さんの挑戦が始まる。
(テレビ西日本)
