2025年11月に東京で開催された聴覚障害者のオリンピック「デフリンピック」。
この大会の卓球競技で、島根・益田市にある明誠高校2年の山田萌心(もえみ)選手が日本代表メンバーに選ばれ、女子団体で銀メダル、女子ダブルスで銅メダルを獲得した。
4歳の時に出会った卓球、指導者にも恵まれた中で、健常者と同じ舞台でも戦いながら切磋琢磨。日本代表として活躍する彼女の姿に注目が集まっている。
デフリンピックで躍動 エース選手として牽引
山田選手は、デフリンピック卓球の日本代表として、混合ダブルス、女子ダブルス、女子団体、シングルスの4種目に出場。
シングルスと混合ダブルスでは、ベスト8に進出したものの、ともに中国勢の厚い壁に阻まれた。
そして女子ダブルスでは山田瑞恵選手と組み、準々決勝で韓国ペアを4-2で下し準決勝に進出。
中国ペアに敗れたものの、卓球競技でこの大会日本勢初となる銅メダルを獲得した。
さらに女子団体では、前日の予選リーグを勝ち抜いて中国、ポーランドの3か国による決勝リーグに進出。
24日の決勝リーグでは、ポーランドを破り銀メダル以上を確定させた。
金メダルをかけた中国との一戦では、山田選手は第1試合に登場し、今大会シングルスと女子ダブルスの金メダリスト・スン・ボヤオ選手と対戦した。
ゲームカウントで先行を許しながらも、粘り強く戦う山田選手には会場から「萌心コール」!
これに応えるように息を吹き返し、第3、第4ゲームを取り返し最終ゲームにもつれ込む熱戦を展開した。
惜しくも敗れたものの、最後の最後まで粘る姿勢を見せた中、日本女子団体としては前大会に続く銀メダルを獲得…山田選手も大きく貢献した。
卓球との出会いと聴覚障害の克服
山田選手が卓球を始めたのは4歳の時。そして小学4年生の頃にろうあ者の選手が世界大会で中国の強豪選手を破る姿を見て「自分もそうなりたい」と決意。
健常者と同じ舞台で上を目指すため、ろう学校から地元の小学校に転校した。
生まれつき聴覚に障害があるが、補聴器をつければ会話に不自由はない。
しかしデフ卓球では、補聴器をつけて競技することができないため、練習では補聴器を外して感覚をつかむ必要がある。
「補聴器を外すと、テレビを爆音から小さくしたような感じの聞こえ方です」と山田選手は説明する。
卓球では、打球音でリズムを取り、ボールの回転方向や強さを感じ取るが、聴覚に障害がある選手は、音から得られる情報がほぼなくなる。
「相手がサーブを出す時のラケットに当たる瞬間の音とかも、回転をかけていない、回転をかけたという音を健聴者の方は判断します。自分も補聴器をつけた時は判断するんですけど、補聴器を外すとそういう音が聞こえなくなります」と対応の難しさを話す。
ラケットの動きに全神経集中…聴覚の障害を克服
山田選手は聴覚からの情報が得られない分、相手のラケットに視線を集中させている。
「もうずっとラケットを見ていて、当たる瞬間を見ているというか。4歳から培った経験でその辺を補っています」と話し、体の動きではなく、ボールがラケットに当たる瞬間に全神経を集中し、回転を読み、得点につなげる戦術を編み出した。
山田選手が所属する明誠高校卓球部は、女子がインターハイ23年連続出場を誇る強豪だ。
全国から選手が集まる環境で切磋琢磨し、2025年1月には早田ひな選手などオリンピック代表が顔をそろえる全日本選手権にも出場するなど、聴覚のハンデを感じさせない活躍を見せている。
明誠高校で指導するのは元日本代表ヘッドコーチの岸卓臣監督。
音のない世界でどう戦うか、二人三脚でデフリンピックでのメダル獲得を目標に練習に励んできた。
大会前に岸監督は、「世界のデフのプレーヤーの中で個人戦でメダルも取ったことがないですから、それを取れるようにということで一生懸命頑張っている」とエールを送ると、山田選手も「
ダブルス、シングルス混合ダブルス、団体全部の種目で金メダルを目指して頑張りたいです」と意気込んでいた。
そして今大会の活躍ぶりを見た岸卓臣監督は「3年間の成長を見ることができた」などと話し、さらなる活躍に期待を寄せていた。
母校に凱旋 笑顔で大会結果報告
デフリンピックが閉幕した後の12月2日、山田選手は2つのメダルを首から下げて母校の明誠高校に凱旋。
「この2つのメダルは、みなさんの応援があってのメダルだと思います。本当にみなさん応援ありがとうございます」と全校生徒を前に結果を報告するとともに感謝の気持ちを語った。
報告会のあとは、共に汗を流してきた卓球部の仲間やクラスメイトと、メダル獲得の喜びを分かち合った。
そして「4年後のギリシャ大会では、中国を倒して次こそ金メダルを獲れるように頑張りたいです」とさっそく次なる目標を語った。
4年後に悲願の金メダル獲得を目指して、これからも卓球に打ち込む山田選手の挑戦は続く。
(TSKさんいん中央テレビ)
