【無くなったら困る!困る!困る!困る!】

瀬戸内海すぐ側を走る JR呉線
瀬戸内海すぐ側を走る JR呉線
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風光明媚な瀬戸内海すぐ側を走るJR呉線。

かつて、「東洋一の軍港」として栄えた呉と広島を結ぶ重要な路線として、1903年に「呉~海田市」間が開通。1927年からは「三原~呉」の両側で工事が始まり、1935年11月、呉線は全線開通した。

全線開通から90周年となった今、この路線に今突きつけられている問題が…

【JR西日本 飯田稔督広島支社長】
「呉線の「三原から広」の間が新たに2000人未満の線区として加わった」

JRは、「大量輸送」という鉄道の特性を十分に生かせていない区間として、JR呉線「三原~広」間を新たに追加したのだ。過去3年の経営状況は「赤字額:約13億7000万円」

困惑する沿線住民
困惑する沿線住民

【沿線住民】
Q無くなったら困る?
「無くなったら困る!困る・困る・困る!」

困惑を隠せない沿線の住民!

【専門家】 
「今後そのまま何もしなければ、より厳しい状態に行くのは間違いない」

警鐘を鳴らす専門家!

どうなる!?県内の赤字ローカル線その現状に迫った。

「輸送密度」=1日の平均乗降客数
「輸送密度」=1日の平均乗降客数

【JR西日本公表「輸送密度」が2000人未満の区間 広島では4路線 8区間】

私たちの暮らしと共に走り続ける鉄道。鉄道路線1キロあたりを1日どれだけの人が利用しているかを示す指標を「輸送密度」という。

JR西日本は2025年10月、2022年度~2024度までの3年間で、「輸送密度」が2000人に満たない19路線・32区間の経営状況を発表した。これらの路線の赤字額は全体で約267億円。
人口減少など地域の衰退化に伴い、収益の確保が難しい状況が浮き彫りとなった。広島県内でも福塩線や芸備線などの4路線8区間が対象となった。

広島県の2000人未満区間
広島県の2000人未満区間

【広島県内の対象区間】
〈JR福塩線〉「府中~塩町」
〈JR芸備線〉「備中神代~東城」「東城~備後落合」
                         「 備後落合~備後庄原」「 備後庄原~三次」「三次~下深川」
〈JR木次線〉「出雲横田~備後落合」
〈JR呉線〉  「三原~広」

JR芸備線を走る列車
JR芸備線を走る列車

中でもJR西日本管内で最も”採算がとれない”路線となったのが、JR芸備線「東城~備後落合」間だ。「輸送密度」はわずか19人。100円の収入を稼ぐためにかかる費用を示す「営業係数」は9945円にのぼり、収支率はわずか1%。極めて厳しい経営状況にある。
JR芸備線については去年、存続か廃止かも含めて、国・JR・自治体による「再構築協議会」が作られ、現在も議論が続いている。

県内では山間部を走る路線が大半を占めるが、今回新たに加わった路線もあった。
それがJR呉線「三原~広」間だ。

【赤字額:約13億7000万円 岐路に立たされたJR呉線「三原~広」間】

JR呉線 利用状況
JR呉線 利用状況

呉線は「三原~海田市」までを結ぶ路線だが、JR西日本が公表した2023年度のデータによると、「広~海田市」間の「輸送密度」が2万人を超えているのに対し、「三原~広」間ではわずか1653人にとどまり利用者に、大きな差が生じていたことが分かった。

また最新の2024年度のデータでも、「三原~広」間は1606人。国鉄からJRへと民営化した1987年度のデータでは6816人だったため、37年間で5000人以上減っている状況だ。
そして、その経営状況は、収支率が20%、赤字額は約13億7000万にのぼる。

JR西日本は今後、呉線の輸送密度が2000人を超える可能性もあり、効果が出る取り組みを目指すとの見解を示しているが…

この路線が抱える課題は一体何なのか?

【JR呉線「三原~広」間の課題とは?】

まちづくりや公共交通機関について研究する、呉工業高等専門学校の神田佑亮教授は、赤字路線が抱える課題について「沿線が住みにくくなっているところをもっと深刻にとらえるべき」と指摘する。

呉工業高等専門学校 神田佑亮教授
呉工業高等専門学校 神田佑亮教授

そこで呉市にあるJR広駅を訪れた。高校や大学、工場などが集まるこのエリアは、通勤・通学時間帯のラッシュ時には多くの人が利用している。この駅の利用者に三原方面の利用について聞いてみると…

通勤・通学時間帯のJR広駅(広島県呉市)
通勤・通学時間帯のJR広駅(広島県呉市)

【利用者は】
Q「三原~広」間の列車を使うことは?
「ないです」
Qなぜ?
「用事がない…」

JR忠海駅(広島県竹原市)
JR忠海駅(広島県竹原市)

三原に行く途中にある竹原市JR忠海駅。「ウサギの島」として知られる大久野島に向かうフェリー乗り場の最寄り駅のため、スーツケースを引く観光客の姿もあるが、駅すぐそばの通りを歩くと、人の姿はほとんどいない。

【地元住民は】
「(三原から)忠海までは大久野島に行く人が多いから、忠海でほとんど降りる。竹原方面はあまりいない。JRが無かったら足が…バスだったら運賃も高いし、なかなか行けなくなる」

忠海駅の時刻表を見ても、列車は1時間から1時間半に1本程度と本数が少ないのが現状だ。

JR忠海駅の時刻表
JR忠海駅の時刻表

【呉工業高等専門学校 神田佑亮教授】
「沿線の竹原市の人口をみると2020年の人口2万4、5千人に対して30年後はあくまで予測だが、半分以下になってしまう。今後そのまま何もしなければ、より厳しいおかれる状態に行くのは間違いない」

こういった沿線の人口減少だけでなく、街づくりも大きな課題だと神田教授は指摘する。

【呉工業高等専門学校 神田佑亮教授】
「呉線の駅周辺を見ていきますと、なかなか寂しい駅というか、駅を降りても人気のない駅がかなり目立つなというのはあって、長い目で見た時に駅周辺の街づくりをどういう形でやっていくのか、今回の発表を機に1回冷静に考えてみる必要がある」

神田教授は、鉄道以外の交通手段との接続を含め、観光面の需要など視野を広げて施策を考えることが、利用促進に繋がるカギだという。

【JR呉線「三原~広」間 地形の問題も 赤字解消はどうしていく?】

地形上の問題も!?
地形上の問題も!?

さらに、「三原~広」間の海と山に挟まれた地形にも問題があると指摘する。落石や倒木などに備え、25キロの速度制限が設けられた区間が長く、点検などの費用がかかるとされている。
実際に呉線は、天候不良の時は運転見合わせとなるケースが多い。

【呉工業高等専門学校 神田佑亮教授】
「利用者が多いところとそうでない区間は、レールの管理するレベルがどうしても変わってしまう。利用者が少ないところになると、何らかのコストダウンをしなくてはいけなくなる」

今回、赤字という結果は出ているが、神田教授は「地域にとって黒字になるパターン」もあり得るとしている。

【呉工業高等専門学校 神田佑亮教授】
「より地域の経済を循環させるという発想が必要だと思う。より一層、今後何人乗ったというよりも、むしろ何円稼いだという形で、モノを見ていくことが大切」

【今回の発表受けて 沿線自治体はどう受け止めた??】

では、「三原~広」間が走る4つの自治体は今回の件をどう受け止めたのか。

JR呉線 沿線4自治体の反応
JR呉線 沿線4自治体の反応

〈呉市〉「日常利用が減っているのは残念」
〈東広島市〉「呉線は東西を結ぶ重要な路線」
〈竹原市〉「少ないとはわかっていたが、ショック」
〈三原市〉「数字を見ると、はっきり言って厳しい状況」

どの自治体も、厳しい状況を飲み込まざるを得ないとしているが、特に呉線しか走っていない呉市や竹原市は驚きを隠せない様子だった。

【鉄道のあり方とは?】

鉄道のあり方とは?
鉄道のあり方とは?

ただ、JR西日本は民間企業だ。当然、赤字を放置することはできない。赤字路線の経費は山陽新幹線や都市部を走る路線などの収益で賄っている状況である。
その反面、公共性の高い事業を行っている。法律でも定められているが、優等列車(特急・急行など)が走行している線区、貨物列車が走行している線区、災害時に別の路線が不通になるなどして、迂回の外需性のある線区などは、たとえ赤字路線だとしても、すぐに廃線とすることもできない。 

民営化された時と比べて、現代は社会環境が大きく変化している。少子高齢化や人口減少、車を中心とした街づくりなどは地方の方がより際立つ。しかし、鉄道の特性はあくまで「大量輸送」だ。赤字路線については、鉄道を活かした形にするのか、それとも鉄道以外の形にするのか真摯に議論をして、地域の街づくりにふさわしい交通体系にしていくことが重要だ。

テレビ新広島
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