コメの高値が続くなか、新たに就任した鈴木憲和農林水産相が、石破政権時の『増産方針』を一転させた。今後のコメ価格は、どうなるのか。
“増産方針”を一転させた新農水相
「生産性向上に取り組む農業者の皆さま方が、増産に前向きに取り組める支援に転換を致します」。2025年8月、備蓄米の大量放出を経て「コメの増産にかじを切る」と表明した石破茂前首相。

2か月後の10月には、当時“コメ大臣”とも呼ばれた小泉進次郎農水相が、2025年の収穫量について、前年より68万5千トンの増産となる747万7千トンで、2016年産以降、最も多くなる見込みと明らかにしていた。

その後、誕生した『高市新政権』で農水相に就任したのが、農水省の官僚出身で、日本有数の“米どころ”山形が選挙区の鈴木憲和氏(43)だ。

農水相就任会見での「需要に応じた生産、これが何よりも原則であり、基本。それを見直しと捉えるのであれば、まぁ見直しということになりますし…」という発言が、注目の的となった。

「現在は、コメが不足している状況にはない」として、前の政権の増産方針を僅か3か月足らずで転換。2026年の生産量を2025年から37万トンほど減らす見通しを示したのだ。

コメ生産者からは“歓迎”の声も
10月末、今季の稲刈りを終えた久留米市のコメ農家、末次健太さん。「収穫量は割と豊作だったかなと思います。台風が来なかったり、天気が良かったり。飼料用に回していたのを食米用に回したという部分はありますね」という。

今季の豊作を喜ぶなか、鈴木農水相の方針転換については「信頼感はあるかな。市場に余るほど増産して、コメの値段が下がったりすると、また僕らの生活は、苦しくなるんで」と話す。コメの買い取り価格の上昇で、末次さんの今季の収入は数十万円ほど増える見込みだという。

「収入からいえば、だいたい手元に残るのが4割とかですね。僕らの収入っていう意味ではコメの値段が下がると、なり手もいなくなると思う」と資材や燃料の高騰にも悩まされるなか、コメ農家を続けるためには現状の価格をある程度は維持して欲しいという切実な思いから、鈴木の農水相の方針を歓迎していた。

消費者・販売者は困惑の表情
11月7日に発表された、全国のスーパーにおけるコメ5キロ当たりの平均価格は4235円と2週ぶりに上昇。

いまだ、高止まりの状況が続くなか、鈴木農水相の方針に市民は「増産は、お米を安くしようとしたことなので、暫くは続けて欲しかった」(60代男性・会社員)、「農家のことを考えたら余らせてもと思うから…。理解できるというか、しょうがないよね」(50代女性・主婦)、「値段は下がらないと思います」(50代女性・自営業)と困惑の表情だ。

宇美町にある『いしぬき米穀店』。倉庫には、収穫されたばかりの新米が積み上げられいた。「量はですね、例年よりも1割ぐらい多い感じです。今、ちょっと倉庫に入らなくなっているので、業者とか農家さんに預かってもらっている状態です」と話すのは代表の石貫徹也さんだ。

その販売価格は、前年の同じ時期より1000円ほど高い、4000円台半ば。石貫さんは「去年より豊作にはなっているんですけど、仕入れ自体が高かった。農協の概算金が去年に比べて(60キロ当たり)1万円近く上がっていますので」と話す。

JAグループがコメを集荷する際、生産者に支払う代金で、流通価格の指標となる概算金が、令和のコメ騒動を受け、高値となったためだ。「来年、新米が獲れるまで、今の価格ぐらいで、高値でいくのかなと思っています」(石貫徹也さん)。店頭では、2025年の新米と2024年の古米を混ぜた3000円台のブレンド米も販売されていた。

石貫さんは「やはりコメ離れが心配になります。減産でまた高値になるのか、実際、来年になってみないと分からないんですけど、政策がコロコロ変わるので」と困惑の表情を浮かべた。
農水省は、2025年に放出した備蓄米59万トンを買い戻す方針を明らかにしているが、鈴木農水相は、政府による備蓄米を使った価格のコントロールではなく需給の安定から、価格の安定に繋げたいとしている。

『お米券』配布 課題も
結局、9月以降は5キロ平均4000円以上が続いているなか、政府が経済対策の一環として活用しようとしているのが『おこめ券』だ。おこめ券は、既に福岡県内の自治体でも配布実績があり、大野城市では2025年の夏に市内の高齢者に対して1人当たり4400円分のおこめ券を配布しているが、自治体の事務費や郵送費などが嵩むという課題も指摘されている。

二転三転する政府のコメ政策。翻弄されるのは、農家や販売者、そして消費者。政府の今後の農政に注目が集まる。
(テレビ西日本)
