優秀すぎる部下を持った上司の心には、どんな感情が芽生えるだろうか。受け入れられる人もいれば、なかなか受け入れられず、モヤモヤや葛藤を抱えることもあるかもしれない。
30代男性・林さん(仮名)もその一人。転職してきた優秀すぎる20代男性のKさんがチームに入ったことで一変する。Kさんの優秀さに触れた部下たちが次第に林さんではなく、Kさんを頼るようになり、林さんは「存在感が薄くなっていないか」とモヤモヤを抱えていく。
そして大きなチャンスが舞い込んだ際、Kさんから「プレゼン、僕がやりましょうか?」という提案に林さんは不快感や緊張を覚えるようになってしまった。
優秀なのはわかっているがモヤモヤを抱える林さんのような上司のマインドと、部下が考えていたことを心理学者・舟木彩乃さんが事例を通して解説。
著書『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(集英社インターナショナル新書)から一部抜粋・再編集して紹介する。
優秀な部下にモヤモヤを抱える上司
筆者は、定期面談で林さんチーム全員と話す機会があり、林さんとKさん双方から話しを聞きました。
林さんは、ここに至るまで新規事業部門のリーダーとして、皆をまとめ良いチームをつくってきたという思いがありました。しかし、部下たちが自分よりも優秀なKさんを頼るようになってきたことについて、モヤモヤを抱えはじめたということでした。
彼の抱える“モヤモヤ”は、焦燥感や自尊心の低下によるものでしょう。それでも彼は、Kさんに対してネガティブな感情を持ったり、発言をしたりすることは“器の小さい人間”がすることだと自分に言い聞かせていました。自分の感情に蓋をして、チームの他のメンバーと一緒に、「Kさんは本当にすごいなぁ」と言っていたようです。
林さんは、周りから人柄が良いと言われるだけあり、筆者にもKさんのことを批判的に話すことはありませんでした。Kさんがプレゼンのことを言い出したときには「新参者が……」という言葉が咄嗟(とっさ)に浮かんできたものの、そのような妬みめいた言葉が頭に浮かんだ自分のことを恥じていると、正直に話していました。
プレゼンはKさんがやったほうが確実にうまくいくと思うけれど、いろいろな感情が押し寄せてきて即答できなかったということです。
リーダーとしての役割とは
“ハイスペック”部下の登場により自尊心が揺らいでいる林さんのようなリーダーはどうすればよいでしょうか。
人が組織の中で、「自分の役割」があることにより存在価値を感じるのは、自然なことです。林さんの場合、Kさんと同じ土俵に立っているような印象があり、リーダーとしての役割を、今一度思い起こす必要がありそうです。
