カリフォルニア大学の心理学者エリオット・アロンソンらによって検証されたしくじり効果の実証実験は、被験者に2種類の録音テープを聞いてもらい、それぞれの“好感度”を調査するというものでした。どちらのテープも、学生が90パーセントを超える正答率でクイズに答えた後、これまでの自分の履歴(彼らは高学歴でした)を語る内容でした。
その2種類のテープのうち、片方のテープにだけ、コーヒーをこぼして新品のスーツを台無しにする様子が録音されていました。
それぞれの学生に対する好感度調査をしたところ、コーヒーをこぼした学生のほうが圧倒的に好感を持たれていました。人は、ときにはしくじることもある人に親近感が湧くことがわかると思います。
Kさんに、無理に失敗をしたほうがいいとは言いませんでしたが、距離感を縮めたいと考えているのであれば、林さんに人間関係の距離感について相談をするなど、少し踏み込んだコミュニケーションをしてみることを勧めました。
余談ですが、「しくじり効果」の実験では、クイズの正答率が30パーセント程度、学歴もそれなりの学生の場合では、コーヒーをこぼすと好感度は下がりました。この結果からいえることは、「しくじり効果」が発揮されるのは、普段から有能と評価されている人の場合だということです。
人は“ギャップ”が魅力になるということです。
ハイスペックで近寄りがたいと思われている人は、たまに自分の弱みを晒(さら)して、わざと完璧ではないことを見せるとよいでしょう。反対の場合ならば、たまに「この人、意外とすごい!」という良い面を見せられるとよさそうです。
舟木彩乃
心理学者〈ヒューマン・ケア科学博士/筑波大学大学院博士課程修了)。国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、第1種衛生管理者、キャリアコンサルタント技能士2級などを保有。著書に『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(集英社インターナショナル)や『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書)他。
