いま各地で公立の病院が経営危機に瀕している。全体の実に8割以上が赤字となっていて、その背景を探るとある課題が見えてきた。
過去最悪の83.3%が赤字に
2025年9月。
「市長として大変申し訳なく思っている」と険しい表情で謝罪した静岡市の難波喬司 市長。
理由は市立清水病院をめぐる巨額の赤字だ。
清水病院における2024年度の赤字額は12億2157万円。
ただ、市が10億円を補助していることから実質的な損失額は22億円余りに上る。
総務省によると、2024年度、地方独立行政法人を含む全国844の公立病院のうち過去最大となる実に83.3%が赤字となっている。
エレベーターなどの稼働を停止し節電も…
過去19年続けて赤字となっている静岡市立清水病院。
院内のエスカレーターは利用者が減る午後1時から稼働を止め、エレベーターも1基は終日動かしていないが、2025年度も前年度と同じく10億円を超える赤字は避けられない状況だ。
主な要因は2つ。それは人件費と物価の高騰だ。
上牧務 病院長 病院長は「もちろん米もしっかり出すので、(物価高騰の)影響もある。なるべく病院としては『安く』『安く』と思うが、病院で出す食事の金額も診療報酬で決まっているので、その予算内でやるとなるとすごく大変」と窮状を口にする。
さらに深刻な医師不足も経営の圧迫に拍車をかけている。
清水病院では2024年度まで脳神経外科の常勤医師が4人いたが2025年度からわずか1人に。
これにより現在は手術の受け入れを止めていて、患者が減少したことで脳神経外科単体の収入は約5億円減った。

脳神経外科の福地正仁 医師は「去年までの入院患者と比べると、患者1人当たりの単価がかなり低い。入院収益がかなり減っているという意味では病院の赤字に悪い意味で貢献してしまっている」と自嘲気味に話す。
独立行政法人化のメリットとは
こうした中、過去5年連続で黒字となっている公立病院がたつの市民病院(兵庫県)だ。
理事長も兼任する大井克之 院長は地方独立行政法人化したことがターニングポイントになったと振り返り、メリットについて「病院運営で『こうしなくては』と思った時はすぐに変更できる。『ダメだな』と思ったら『では今度はこうしよう』と迅速に対応できる」と説明する。
地方独立行政法人とは公共性の高い事業やサービスを行政から切り離して効率的かつ専門的に行うため都道府県や市町村が設立した法人で、たつの市民病院では5年前に運営を移行。
自治体が直轄で運営する病院の場合、例えば高額医療機器の購入などには議会の承認が必要だが、地方独立行政法人の運営であれば独自の判断で可能となる。

また人事面でのメリットもあり、大井理事長 兼 病院長は「市役所の庁舎内で働いていた職員が市の人事異動で病院の総務課などに異動してくるが、数年経ったらまた市役所に戻るということが繰り返されてきた。それに比べて地方独立行政法人になると、法人事務局の職員は基本的には変わらないし市に異動することもない。表現が適切でないかもしれないが、本腰を入れて経営の改善に取り組むことができる」と打ち明ける。
現場は診療報酬の見直し求める
このため、清水病院でも独立行政法人化を視野に検討を重ねているが、法人化するためには赤字を解消する必要がある。
一方、救命救急や小児科、産婦人科などは不採算部門でありながらも地域医療を支えるために診療を縮小するわけにはいかないというジレンマを抱えていて、上牧病院長は「物価高になるとそれに追いついていかず、国の制度の問題だと思う。診療報酬を実態に合わせて変化させてもらいたいというのが現場からのお願い」と訴える。

また、大井理事長 兼 病院長も「たつの市民病院より大きな規模の医師が100人や150人いるような病院で理事長や病院長を引き受けても、おそらく黒字化はできない。診療報酬が安すぎる」と断言した。
こうした中、高市早苗 首相は「私たちの安心・安全にかかわる大切なインフラが失われるかもしれない。いま手を付けなければ間に合わない」と危機感を顕わにし、就任直後の会見で診療報酬の見直しを前倒しで行う考えを表明。
ただ、清水病院については赤字経営が長期間続いており、監査委員から経営課題に対するマネジメント体制が極めて脆弱と指摘されているだけに自助努力が求められていることは言うまでもない。
(テレビ静岡)
