人口減少や社会構造の変化を背景に担い手不足が叫ばれる町内会。
その負担軽減に向け、一人の自治振興会長からの問題提起です。
この日、富山市役所を訪れたのは大沢野地区自治振興会の会長坂上誠一さんです。
*大沢野地区自治振興会 坂上誠一会長
「どうして町内会か、聞きたい」
*富山市 居住政策課の職員
「過去に2回同じ調査をしていて町内会に協力いただいている」
*富山市居住政策課の担当者
「町内会からの情報、近隣の方が一番空き家の状況を知っている。そういった情報をいただくことが我々にとって非常に重要。有益な情報になるので調査のお願いをさせていただいている」
*大沢野地区自治振興会 坂上誠一会長
「町内会はパンク状態。だから申し訳ない。大沢野地区自治振興会としてはこの依頼はお断りさせていただく」
坂上さんが断ったのは富山市が市内1400余りの町内会に依頼した空き家の実態把握調査。
5年ごとに実施され、今回で3回目、それぞれの町内にある空き家を調べて今月末までの回答が求められています。
坂上さんは、地元の町内会で役員を務めた経験からその仕事量の多さを問題視。
持続可能な町内会運営には負担の軽減が必要と考え、今年4月、町内会の上部組織、自治振興会の会長に就任し、改革を進めてきました。
*大沢野地区自治振興会 坂上誠一会長
「私の目指す改革の柱は町内会の仕事を徹底的に減らすこと」
自らの自治振興会傘下、44の町内会で調査を断る選択をしたのも改革の一環です。
*大沢野地区自治振興会 坂上誠一会長
「本当に町内会でやるべき仕事なのか考えた。町内会を行政の下請けみたいに思っているんじゃないか」
スタジオには町内会の取材にあたっている福島記者です。
町内会は行政の下請けではないと富山市からの依頼を断る強い姿勢でしたがそもそも、この調査、どんなものなんですか。
今年7月、藤井市長名で市内79の自治振興会を通じて1400あまりの町内会に依頼されました。
配られた町内の地図に空き家を〇で囲ったうえで、前回の調査と変わらず空き家のままなのか、更地になったり新たな建物が建ったりと空き家の状況がどう変化したかを調べて書き入れ、提出します。
こうした調査は他の市町村でも行われているんでしょうか。
空き家対策に欠かせないデータということで、県内15市町村すべてで実施されています。
そして、調査の担い手はどこか聞いたところ、3つのパターンがありました。
比較的、世帯数が少ない舟橋村と朝日町は役場の職員が自前で調べていましたが富山市を含むピンク色は空き家の状況を含めた調査を町内会に依頼するところと、青色ですね、町内会に空き家がどこにあるかだけを調べてもらって、あとは職員や委託業者が状況を確認しにいくというものです。
ほとんどの市や町が市役所や町役場の職員だけで対応できていないとなるとその仕事量はやはり「大変なもの」ですよね。
はい、いくら地域の事情に詳しい町内会と言ってもきちんとした回答をするには町内会の役員が一軒一軒回って状況を確かめることも必要でしょうし、正直、大変だと思います。
富山市以外でもこれまでの調査で町内会から回答が無かったり今後、調査を引き続き町内会に頼めるかどうか検討しているという市もありました。
こうした行政からの依頼が町内会の負担になっているということで先日、富山市議会でこんなやりとりがありました。
*富山市議会 久保大憲議員
「市から様々なお願いごとが町内会や自治振興会にある。なり手不足でマンパワーが減ってきた会にとって大変な負担。クレームも耳にする。市から自治振興会や町内会にどのようなお願いごとをしているか」
*富山市 市民生活部 地域コミュニティ推進課 由水正恵課長
「調査の協力、市の事業や施策を紹介するパンフレットや資料の配布、班回覧」
*富山市議会 久保大憲議員
「ほぼすべての部局からの依頼に基づいて例年500件程度依頼がある。市に対してどれだけ協力すればいいのかと不満が蓄積している」
*富山市 市民生活部 鎌田泰史部長
「これまでやってきたから、毎年の定例調査だからという理由で地域に依頼している調査もあると思う。これまでのやり方を検証し、地域の負担が少しでも下がるような方法について検討していきたい」
市から町内会への依頼は年間500件程度ということですが・・・。
私もそんなに!と思ってびっくりしたんですが後で聞いてみたところ、その大半が町内会に配布や回覧を依頼している市の事業や施策紹介のパンフレットや資料の一つひとつを1件として数えたということで、こちらがその現物ですが例えば、クマの出没に警戒を呼びかけるチラシや住民参加によるまちづくりイベント、不動産に関する無料相談会のお知らせといったものがあります。
そして、とりわけ、負担感が大きいお願い事がこちらです。
民生委員・児童委員や少年補導委員、保健推進員といった各種委員になってくれる人を町内会の中で探して推薦したりちょうど今、実施されている国勢調査の調査員を出したり、自主防災組織の結成や防災訓練の実施、小学校単位の自治振興会が主催する「はたちの集い」の開催、そして、空き家の実態把握調査とまぁ、いろいろあります。
ほかにも県や各種団体などから依頼される清掃活動や募金、子どもの見守りなどもありますし、町内会費の収集からごみステーションの管理、親睦行事まで普段の町内会運営の他に多々、寄せられる行政からの依頼に応えている状況です。
一昔前と比べて、人口が減り、社会構造も変化していますから従来と同じ依頼だとしても結果的に負担が増して役員のなり手不足や町内会離れが進む悪循環の要因となっているわけですね。
はい、そもそも法律では町内会を行政組織の一部と解釈してはならない、つまり、町内会は行政の下請けではないと規定されています。
だからこそ、富山市の空き家調査の文書にも「依頼」と明記され、これは指示や命令ではなくあくまで、お願いですとなっているんですがこうした依頼が今後も重なれば、町内会はますます苦境に陥ることになります。
町内会は行政の下請けではありません。
先日の富山市議会で当局が示したすべての部局からの町内会への依頼事項を見直す方針、その成果に期待したいと思います。
ここまで福島記者でした。