島根県奥出雲町にある「奥出雲多根自然博物館」。
開館から約40年、山あいにポツンとありながら年間1万人余りが訪れています。
その人気の背景には、『宇宙の進化と生命の歴史』をテーマにした展示だけでなく、博物館の枠を超えたユニークな挑戦がありました。
山あいにある田んぼは、いつになくにぎやかです。
毎年この時期に開かれている『稲刈り体験会』。
子どもから大人まで総勢30人が鎌を手に、稲を刈りました。
夢中で稲を刈る子どもたち、その視線の先には…。
奥出雲多根自然博物館・是永秀麿さん:
「SNSに使う動画と、あと、記録も含めて撮らせてもらっています。カメラマンではないです。博物館の職員でございます」
実はこの体験会、奥出雲町の「奥出雲多根自然博物館」が企画しました。
カメラを構えていたのは、職員の是永秀麿さん。
奥出雲の土地柄に魅力を感じ、2025年4月に神奈川県からIターンしました。
是永さんの前の仕事はカメラマン。
あるときは南米・コスタリカでアライグマと対峙、またあるときは南太平洋、フィジーの海の中へ…世界各地を飛び回る日々を送っていました。
そんな是永さんが第2のステージに選んだのが、この博物館。
以前の経験を生かして、SNS用のPR動画の撮影を担当していますが…。
奥出雲多根自然博物館・是永秀麿さん:
「色んな仕事をさせていただいてて、例えば接客だったりとかですね、お風呂入れに行ったりとか」
博物館とは縁遠い仕事も任されています。
というのも、ここは全国でも珍しい“泊まれる博物館”。
恐竜グッズが並ぶ客室に泊まって、夜の博物館を探検するナイトミュージアムが人気です。
というわけで、ユニークな経歴をもつスタッフが他にも…。
副支配人の三好裕さん。
奥出雲多根自然博物館・三好裕副支配人:
「元々、奥出雲に来る前はホテルマンをずっとしておりまして、サービスが元々私の天職ですので」
広島県内のホテルなどで15年近く働いてきた元ホテルマン。
こちらも異色の転身です。
博物館の枠を超えた挑戦、そして人材確保…その背景にあるのは博物館を取り巻く厳しい環境です。
奥出雲多根自然博物館・宇田川和義館長:
「集客人数は限られていますね。入館料もそんな、それだけで賄うのは不可能ですね」
全国にある約1500の博物館のうち半数以上が、入館料などの収入が運営費の1割に満たない状況で厳しい経営状況が伺えます。
この博物館も例外ではなく、入館料による収入は2024年約400万円、支出の1割にも届いていません。
奥出雲多根自然博物館・宇田川和義館長:
「わざわざここに。ぜひ来ていただきたいと(言える)テーマをどう作っていくか(が課題)と思っていますね。そういう魅力があってはじめて行ってみようかなと(思う)」
どのように収入源を確保するか…。
博物館が目を向けたのが、奥出雲の自然。
近くにある築80年を超える古民家に宿泊し、農業を体験する“暮らせる博物館”のプロジェクトを4年前にスタート。
全国でも優れた観光の取り組みだとして2024年、『日本ツーリズム・オブ・ザ・イヤー』で優秀賞に選ばれました。
こうした取り組みが功を奏し、来館者は2021年、過去最も多い約1万2000人に。
11年ほど前の4倍に増加しました。
また、宿泊などの事業収入は2024年約5000万円を超え、入館料による収入の10倍を超えるまでになりました。
奥出雲多根自然博物館・宇田川和義館長:
「地域貢献できて、奥出雲ならではの魅力をどう作っていくか取り組んでいきたい」
地域ならでは魅力を活かし、博物館の新しい形へ。
奥出雲の博物館の枠にとらわれない挑戦が続きます。