福島県の阿武隈川上流の3町村の地域に整備される遊水地をめぐっては、完成の5年先送りが公表されるなど波紋も広がっている。
■東日本台風で甚大な浸水被害
「その道路まで水上がってて、もう海。朝ビックリした起きて」と話す福島県矢吹町のコメ農家・小林利雄さん。6年前に自宅や田んぼが浸水の被害にあった。「令和元年東日本台風」では、1年の4分の1にも及ぶ雨がたった2日間に集中。阿武隈川の堤防の決壊などによって被害は広範囲に及び、38人の犠牲者を出し、約1500棟の家屋が全壊。最大で2万6千人あまりが避難した。
■遊水地の整備が5年遅れに
被害を繰り返さないように整備が進む遊水地だが、現地の調査で地下水の水位が想定よりも高い場所があることが判明し、深く掘削することができない分、広くする必要が出てきた。完成を5年後ろ倒しし、プロジェクト全体の事業費も大幅に増加する。
■遊水地整備で約150世帯が移転へ
遊水地の整備により移転を求められるのは、約150世帯。矢吹町の小林さんもその一人で、新たに立て替えた家を手放し、高台に移転するために代々続いてきたコメ作りもやめることを決めている。「結局、ここが犠牲になるんだからね。本当は出たくないんだけどね。たしかに遊水地は、向こうの郡山あたりは実際、水没しているの私分かりますから、別に反対はしないんだ。だから(完成した)あとの問題だね。決まらないから遅れてるんだか、やる気がねえんだか、国も、そんな感じですよね」と小林さんは話す。
住み慣れた場所と家業を手放しても守りたい「地域の安全」。地権者の覚悟に向き合う確実な実行が求められる。