19日午後の東京市場は、日銀の決定が「サプライズ」となった。午前中、取引時間中の最高値を更新していた日経平均株価は、流れが一変して値下がりに転じ、前日からの下落幅は一時800円を超えて、荒い値動きとなった。

ETFを年3300億円ずつ売却

市場が反応したのは、日銀によるETF=上場投資信託の売却決定だ。日銀は保有するETFについて、年間3300億円程度ずつ売却することを決めた。REIT=不動産投資信託も、年間50億円程度ずつ処分していく。スタートは2026年初めごろを目指す。

日銀は2010年に市場からETFとREITを買い入れる政策を開始し、デフレ経済からの脱却を目指す「大規模金融緩和」の一環として、当時の黒田総裁のもとで購入額を増やし、ETFの買い入れ規模は2016年7月には年6兆円にまで膨らんだ。その後、植田総裁の体制下で金融政策の正常化に向け、2024年3月にマイナス金利政策の解除とともに新規買い入れをやめることを決めた。

9月19日午後の日経平均株価は、下げ幅が一時800円を超えた
9月19日午後の日経平均株価は、下げ幅が一時800円を超えた
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ETFは取引所に上場している投資信託のことを指し、株価指数に連動して運用する商品が多い。日銀の保有残高は簿価で約37兆円、2025年3月時点の時価では約70兆円にのぼる。含み益が膨らむなか、出口戦略をどう描いていくかが課題となっていた。

植田総裁「最後までは見届けられない」

植田総裁は会見で、「過去に金融機関から買った株式の売却を7月に終えて知見が蓄積され、実務の検討にメドがついた」として、「大きく膨れ上がった残高を減らす準備ができた」と説明し、株高が続く「現在の株価水準を材料にして決めたものではない」との認識を示した。

金融政策決定会合2日目終了後、会見に臨んだ植田総裁(9月19日)
金融政策決定会合2日目終了後、会見に臨んだ植田総裁(9月19日)

ただ、売却完了までには、単純計算で100年以上かかる可能性がある。長期間にわたって少しずつ売却していく案に決着したことについて、植田総裁は、市場への攪乱的な影響を小さくできるメリットをあげ、「100年後、我々はいないが、100年以上かけて売っていくというつもりでいる」と覚悟を示したが、出口への道のりは遠い。

植田氏は「最後まで見届けることはできないが、ある程度プロセスが順調に進んでからでないと全体の評価は難しい」と述べている。

FRBは雇用とインフレリスク両にらみ

日銀は、政策金利については、トランプ関税の影響を見極める必要があるとして、現在の0.5%程度で据え置くことにしたが、日銀の会合に先立ってFOMC=連邦公開市場委員会を開いたアメリカのFRB=連邦準備制度理事会は17日、9カ月ぶりに利下げに踏み切ることを決めた。

FRBが政策金利を0.25%引き下げ、利下げを再開したのは、雇用情勢が悪化するリスクを、インフレが再燃するリスクより重視したためだ。

パウエル議長は、FOMCで政策金利を0.25%の幅で引き下げることを決めたと発表(9月17日)
パウエル議長は、FOMCで政策金利を0.25%の幅で引き下げることを決めたと発表(9月17日)

8月の雇用統計では、景気動向を反映する非農業部門の就業者数の伸びが大幅に鈍り、労働市場の減速が鮮明になった。パウエル議長は会見で、雇用情勢の悪化とインフレ率の上昇が同時に起きている現状を踏まえ、「困難な状況だ」と強調した。「雇用が下振れするリスクが高まり、(インフレ側に傾いていた)リスクのバランスが変化した」と、ふたつのリスクに直面する異例の立場を説明し、利下げが「リスクを管理するためのものだ」とする認識を示した。

今回のFOMCでは、参加者の間で、年内の利下げについての見方が分かれていることも浮き彫りになった。年内のFOMCは、10月と12月の2会合が予定されているが、公表された参加者の見通しでは、今回の利下げに加えて、あと2回の通常の利下げ(0.25%幅)を想定している人が9人、あと1回を想定する人は2人だった一方で、7人はゼロ回として、年内は利下げは必要ないと考えている。

トランプ大統領とパウエル議長
トランプ大統領とパウエル議長

利下げをめぐっては、トランプ大統領がFRBへの圧力を強化するなか、パウエル議長の後任選定をめぐり、人事権を使って影響力を行使しようという介入の構図も強まってきている。

関税政策の影響によるインフレ悪化をめぐる視界不良が続くなか、アメリカのこの先の利下げへの道筋は見通しにくくなってきたとの声も広がる。

今後の利上げ・利下げ時期は

一方、日銀も、年内に、10月と12月に会合を2回予定している。植田総裁は「経済・物価情勢の改善に応じ、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と述べ、状況次第で利上げを進めていく姿勢は崩さなかった。トランプ関税をめぐる日本経済の先行きについては「関税政策による下押し圧力を受けつつも持ちこたえる」と言及した。

利上げと利下げをめぐり、日米の金融政策はどのように歩みを進めることになるのか。FRBは、雇用と物価の両方への目配りを余儀なくされるなか、利下げ再開に踏み切ることになったが、日銀も、利上げ時期の見極めで、賃上げや景気動向を踏まえた難しい判断を迫られることになる。(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、経済部にて兜・日銀キャップ、財務省・内閣府担当、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、農水省政策評価第三者委員会委員