2010年来に急増した、乳児を激しく揺さぶったとして親などが逮捕・起訴される「揺さぶられっ子症候群」通称“SBS事件”。

ところが、一転して無罪が続出する前代未聞の事態になりました。

その背後で多くの家族が離れ離れになったわけですが、今後、同じような悲劇は防げるのか。
SBSの現在位置を探ります。

写真家の赤阪友昭さんは2人の子供に恵まれ、妻の亜樹さんと家族4人幸せな日々を過ごしていました。

そんな生活が一変したのは8年前の2017年11月。

赤阪さんが当時生後2カ月の長男・優雨くんをあやしていた時のことでした。

赤阪友昭さん:
パッと見たら呼吸が止まっている状態だったと思うんですけど、何かのどに詰まって呼吸ができないのかもしれない(様子で)。僕はそれで背中をたたいた。

容体は改善せず、優雨くんは病院に運ばれました。
検査の結果、見つかったのは硬膜下血腫、眼底出血そして、脳浮腫。

体にけがの痕がなかったことから、病院が疑ったのは「揺さぶられっ子症候群(Shaken Baby Syndrome)」でした。

3つの症状で激しい揺さぶりを疑う診断基準は、国の子ども虐待対応の手引きや検察官が書いた「児童虐待捜査ハンドブック」にも記載されていました。

病院は虐待の可能性が高いとして児童相談所に通報。
退院予定の日、優雨くんは一時保護されました。

妻・赤阪亜樹さん:
「我々が安全なところに保護させていただきました」と言われて、泣き崩れてしまって。

面会も限られた時間しか許されませんでした。

赤阪さん夫妻は、児童相談所に優雨くんを早く戻してほしいと訴え続けましたが、虐待を認めないとの理由で1年以上、優雨くんは家に帰らせてもらえませんでした。

赤阪さんは、弁護士や法学研究者が立ち上げた「SBS検証プロジェクト」に相談します。

SBS検証プロジェクト・笹倉香奈共同代表:
虐待は絶対に許されません。では、虐待をしたと誤って判断してしまうことはどうでしょうか。そのような判断によって無実の養育者から子どもが引き離されてしまうかもしれません。無実の親が刑務所に送られてしまうかもしれません。

赤阪さんは、2018年10月に優雨くんへの傷害の疑いで逮捕され、その後、起訴されました。

夫婦で口裏合わせをするかもしれないと、裁判所は赤阪さんを5カ月間にわたって勾留しました。

保釈後も、赤阪さんは妻や優雨くんと会うことは許されず、家族と離れ1人の生活が続きました。

赤阪友昭さん:
子どもが一番かわいそうですね。親子が離ればなれになって、もし子どもの心が壊れてしまった時に誰が責任取れるのか。

妻・赤阪亜樹さん:
こんな目に遭う家族がもう出ない方がいいです…つらすぎて。

2020年4月、長女の卒園式の場に限って、家族4人で集まることが許可されました。
1年半ぶりの再会です。

一方、SBSを巡る裁判では、大きなうねりが起こっていました。

病気や家庭内の事故で出血した可能性があるとして、無罪判決が相次ぐことになったのです。

検察庁の中から聞こえてきたのは、「残念ながら、近時無罪とされることが少なくない。SBS検証プロジェクトの『3兆候あればそれだけでSBSと判断している』との主張は捜査実務と乖離(かいり)している」という内容です。

赤阪さんの裁判は、優雨くんの出血原因がはっきり分からないまま長期化していました。

赤阪さんの主任弁護人 川上博之弁護士:
やっぱり人として彼に触れて、彼の家族も見て、「お父さん何も悪くないんだよ」ということを言ってあげたい。そのためには、これは事件じゃなくて、不幸に起こってしまった病気が原因なんですよということまで明らかにしたいなって。

赤阪さんや優雨くんは川上弁護士の指示で、出血原因を調べるための検査を受けることになりました。
すると、想像もしていなかったことが分かります。

妻・赤阪亜樹さん:
生体検査でグリコシル化異常症というたんぱく質の糖鎖の異常があって…。

優雨くんには先天性の疾患があり、それが出血の原因につながることが判明したのです。

妻・赤阪亜樹さん:
最後に抱っこしていたのが主人やったから主人が疑われているだけ。私だった可能性もあると思うと、どんな4年間だったんだろうなと思ってしまいます。最初に代謝異常があるねと、ちゃんと治療に取り組んでもらえる病院に運ばれていたら、また違う人生だったかなあと。

検察は起訴を取り下げず、懲役5年を求刑しました。

そして、2023年3月17日に迎えた判決の日。
赤阪さんに言い渡されたのは“無罪”。

判決理由は、長男(優雨くん)には先天性の疾患があり、軽微な外力で出血した可能性があるというものでした。

検察は控訴を断念。
検証プロジェクトが関与した裁判で、10人目の無罪判決でした(2018年以降)。

この間、医学界でも3兆候による診断について異論が続出し、2024年、国の子ども虐待対応の手引きから3兆候による判断基準は削除されました。

しかし、検証プロジェクトには今も全国から多くの相談が寄せられています。

FNNは、2025年9月、赤阪さんのもとを訪れました。

自宅では、子どもたちと赤阪さんが楽しそうに過ごしていました。

妻・赤阪亜樹さん:
当たり前の日常がどれだけありがたいかと。あの家族分離はすごくやっぱり残酷な時間で、あの時は娘の卒園式だったので、なんかいびつな、この空間が、この住所だけしか会えないよっていうのが、娘にそのいびつさを感じさせたくないから、なんか必死で平静を装おうとしてたっていう時間だったんですけど。

赤阪友昭さん:
警察の言ってること、警察のリークであるとか、医師が言っている言葉とかメディアが言っている言葉は全部みんなそのまま受け取ると思うんですね。ただでも、本当にそうなのかなっていうのは、ぜひ自分の耳で聞いて考えてということを関わった人みんなにしてほしい。知った人たちみんなで考えてほしい。だから例えば、テレビでそういう報道があったとしても、そのまま僕は信じてほしくないっていうか。テレビの人にこんなこと言うのはあれですけどね。

診断、捜査、そして報道までも。
それらが疑われることなく進んだ先に生まれた悲劇。

求められたのは、一度立ち止まって耳を傾ける勇気です。

関西テレビ
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