長野市南千歳町で50年以上続いた喫茶店が6月にカフェ&バーとしてリニューアルオープンしました。「4代目」が自家焙煎のコーヒーの味を受け継ぎつつ、新たな魅力を加えようと奮闘しています。
淹れたてのコーヒーの香りが漂う店内。
客:
「苦いんですけど、酸味もあって味わい深くいただけた」
長野市南千歳町に2025年6月にオープンした「カフェアンドバー・オハウ」です。店主は、田中伸一郎さんです。
カフェアンドバー・オハウ・田中伸一郎さん:
「じわじわとお客さまに認知はされているのかなって気はしますけど、まだまだこれからかなと思っています」
オープンして3カ月ですが、店内はレトロな雰囲気が漂います。
この場所では、2024年末まで「珈琲館モカ」という喫茶店が50年以上にわたり営業を続けてきました。田中さんが店名を変え、カフェ&バーとしてリニューアルしましたが、コーヒーの味と店の雰囲気は、「モカ」を受け継いでいます。
「モカ」がオープンしたのは1971年。豆からこだわった自家焙煎のコーヒーが評判でした。
しかし、初代店主が体調を崩し、2013年に一度、閉店します。その後、店を復活させようと常連客たちが資金を出し合い、翌年、営業を再開しました。
「2代目」店主はかつての常連客。「一般社団法人」を立ち上げ、運営を担ってきました。
当時の客:
「舌触りがなめらか。それぞれの豆の特徴のある味わいが感じられる」
その後、3代目の店主が継ぎましたが、家庭の事情などで2024年末、閉店していました。
空き店舗となっていた「モカ」を継いだのが田中さんです。
北海道出身で信州大学を卒業後、北海道に戻ってフレンチの店などで修業し、2024年の秋から長野市内でスープカレーの店を営んでいました。
「3代目」の店主と共通の知人がいた縁で、店を継がないかと持ちかけられました。
田中さん:
「なかなか50年ってできることじゃないなというのが最初の感想で、そこまで愛されたお店だったんだなというのは、びっくりしました。長く皆さんにコーヒーが愛されてきたということもあるので、コーヒーの味も残していきたいなと」
50年以上という店の歩みを知り、自身の店をたたんで「モカ」を継ぐことを決断した田中さん。自分の色を出そうと店名は変えましたが、「モカ」のコーヒーへのこだわりはしっかり受け継いでいます。
定休日の店で行っていたのは、コーヒー豆の自家焙煎です。
過去に修業した店で焙煎の経験はありましたが、店を始めるにあたり、2代目の店主から「モカ」の焙煎方法を教わりました。
状態の悪い豆を手作業で取り除いたら焙煎機にかけます。「モカ」の時代から10年以上使われているものです。
店では7つの産地の豆を使用し、それぞれに適した温度や時間にあわせて焙煎します。
田中さん:
「コーヒーの味で一番気を付けているのは、それぞれの豆の良さを引き出すというところ。味変わったねとか、味落ちたねと言われるのははすごく嫌だったので、そこだけは気を使ってやってます」
リニューアルオープンから3カ月。変わらないコーヒーの味と店の雰囲気を求め、この日も続々と客がやってきました。
女性客:
「とてもまろやかで、おいしかった」
田中さん:
「きょうのコーヒーは『モカ・マタリ』です」
こちらの男性は初代店主のころから通っているそうです。
男性客:
「(味は)変わらないと思います。最高の時間です。こういうお店がどんどんなくなっているので、残っていってほしい」
田中さん:
「変わらないねとか、相変わらずおいしいねって言ってくださる優しい方が多い。大事に守っていかないといけないよなと思いますよね。ずっと来てくださる方がいるんで」
料理人である自身の強みを生かすため、食事のメニューも充実させました。
3代目のレシピを受け継ぎ、「すりごま」をトッピングしたグリーンカレーに出身地である北海道の鶏の唐揚げ「ザンギ」。鶏の仕入れ状況に応じて、日替わりランチで提供しています。
田中さん:
「はまる人が続出なんですよね、ザンギ。僕らは子どもの頃から食べているけど、長野の人には新鮮みたい」
客:
「(スーパーで)ザンギ売ってたんですよ。全然違う」
田中さん:
「北海道出身の方がいて、たまに食べに来てくれるけど、『これだよ、母ちゃんの味だ』って喜んでくれる」
また、新たな客を呼び込むため、夜はバーとしての営業も行っています。
こちらの男性は田中さんが店を引き継いでから、毎日のように通っているといいます。
田中さん:
「調子どうですか、体は」
客:
「疲れてる」
田中さん:
「仕事のしすぎですね、きっと」
タンブラーでコーヒーをテイクアウト。
客:
「おいしい。ここでコーヒーの味を覚えました。他のお店で飲めなくなっちゃって。打ち合わせに使ったりとか、重宝しています」
田中さん:
「ありがとうございます」
カフェアンドバー・オハウ・田中伸一郎さん:
「せめて味は、残していけたらなと思います。気軽に入っていただいて、コーヒーとか料理を楽しんでいただければいいかなと」
「4代目」のもとで生まれ変わった「モカ」。面影を残しつつ、新たな歴史を紡いでいきます。