米国を象徴するブランドが「アメリカ隠し」
トランプ外交が「アメリカ不買」を招いている。
「C(清涼飲料水)社、M(ハンバーガー)社、P(一般消費財)社が欧州で“地元性”を強調する広告キャンペーンを展開している」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙電子版 9月13日)
米国を象徴するブランドが、これまで前面に掲げてきた「アメリカらしさ」を隠し、むしろ“地元に根差す存在”として自らを売り込んでいるというのだ。

ドイツでC社は「97%は国内生産」と訴え、GDPに91億ユーロを貢献していると宣伝した。M社は「牛肉・牛乳・卵は100%ドイツ産」と強調し、今後30億ユーロの投資と6万人の雇用を約束。P社は「品質を誇るご当地産(Where Quality Is at Home)」と題し、国内工場や研究拠点を紹介して“品質の地元性”をアピールした。
かつては「Made in USA」が誇りだったブランドが、いまや「ドイツ製」「イギリス産」と名乗ることで信頼をつなぎとめているのである。
世界中に広がる「アメリカ嫌い」
なぜ世界的ブランドがここまで「アメリカ性」を消す必要があるのか?その背景にはトランプ外交がある。
再選後に打ち出された「解放の日」関税は、一律10%の輸入課税に加えて国別の追加関税を課すという強硬策だった。友好国をも巻き込み、国際世論は一気に冷え込む。

ピュー・リサーチの調査では、ドイツ人の66%、フランス人の59%、スウェーデン人の79%が米国を“不好意(好まない)”と回答。ユーガブの調査でも独・仏・伊などで「米国ブランドを買い控える」とする人が多数派となった。外交の衝撃は、消費者心理にまで波及したのである。
加えて見逃せないのは、トランプ大統領の挑発的な発言だ。カナダを「51番目の州」と呼び、デンマークの自治領グリーンランドを「アメリカ領にする」と公言したことは、北米や北欧で大きな反発を招いた。カナダでは「主権を軽んじる侮辱」として反米感情が広がり、デンマークでも「国土を売り物にするのか」との反発が噴出した。

これらの言動は単なる冗談や政治的レトリックとして片づけられるものではなく、国民感情に直接響く挑発となった。その余波が「米国製品を避ける」という消費行動に結びついたとの分析もある。つまり、外交政策だけでなく大統領自身の言葉が「アメリカ不買」の心理を加速させているのだ。
現象は欧州や北米に限らない。インドではトランプ氏が同国製品に50%の関税を課したことで、SNS上に「MもCも買うな」という不買運動が広がった(タイムズ・オブ・インディア紙電子版 8月13日)。

モディ首相も「自立への特別な訴え」を行い、国民のナショナル・プライドを喚起した。人口14億人の巨大市場が米国ブランドから距離を置けば、その影響は甚大である。
観光分野でも「アメリカ離れ」
観光分野も例外ではない。ラスベガス観光局によれば、今年6月のホテル稼働率は前年同月比で14.9%減、7月第1週には66.7%にまで落ち込んだ。ホテル管理分析会社STRの調査では客室収益が28.7%減と全米主要都市で最悪。国際来訪者数は13%減少し、航空需要も4%縮小した。
中でも目立つのがトランプ大統領に「51番目の州にする」と言われたカナダ人の観光客の減少だ。

6月だけでも、自動車で米国との国境を超えて入国したカナダ人は昨年比で33%減っており、航空旅行客も同様に減少している。
「トランプの乱暴な発言で、カナダ人の米国への観光旅行が劇的に落ち込んだ」(PBSニュース7月25日)
かつて「アメリカらしさ」は世界が憧れるブランドだった。だがいま、Cは「ドイツ産」、Mは「地元食材」を前面に出す。ラスベガスの煌びやかな街も、旅行者離れに直面する。
強硬な通商外交と過激な発言は短期的には「強いアメリカ」を演出したかもしれないが、長期的には「アメリカ不買」という副作用を招いたようだ。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)
(※製品名、社名は本論の決定的要素ではないので省略したことをご承知いただきたい)