まるで写真のような精巧な絵を描く美容師の男性が秋田市にいる。手に持つのは1本の鉛筆。独学で鉛筆画を習得し、個展開催の夢に向かって作品を生み出している異色のアーティストのこだわりに迫る。
本職は美容師 独学で始めた鉛筆画
秋田市の美容師・森元伸さん(42)。

森元さんは市内の高校を卒業後、岩手・盛岡市でヘアメイクなどを学び、その後、都内で美容師として働いていた。古里に戻っても美容師としての生活を送る森元さんだが、仕事と同じくらい情熱を注いでいるものがある。

それが鉛筆画だ。まるで写真のような精巧さ。鉛筆だけで描き上げている。
森元さんが興味を持ち始めたのは約10年前。SNSで鉛筆画の動画や作品を見たことからだった。森元さんは「描いてみたいなと興味本位で始めたのがきっかけ。それで描いてみて、そこからのめり込んでいった感じ」と話す。
本格的に絵を描いたことはなかったが、いろいろな作品を参考にしながら手探りで鉛筆画を始めた。
1枚完成までに100時間以上
最初は描くのが速かったと話す森元さん。描き方が分からないぶん「ササッと、こんなもん?」といった感じで描いていたからだ。しかし、知れば知るほど“あら”が見えて気になり始めたという。

今では様々な太さや濃さの鉛筆を駆使し、時にはティッシュペーパーでぼかすなどして細かいニュアンスを表現する。
「昔だったら全部同じ灰色でやっていたと思うが、描こう描こうと思うようになったせいで時間がかかるようになった」と話す森元さん。

今は週に2~3日、深夜から朝方にかけて作品作りに没頭し、理想の鉛筆画を追求している。木の葉が生い茂っているところや空など、自然のニュアンスを出すのが難しく、1枚の絵を描き上げるのに100時間以上はかかるという。
髪の毛の部分が一番嫌い
鉛筆の線をなるべく出さず、「写真そのままじゃん」と言われるのが森元さんの目指すところだが、作品作りで最も困難なのは“髪の毛”だという。

「髪の毛の部分が一番嫌い。すごく時間がかかるし、ずっと同じことの繰り返しで髪の毛はしんどい」と森元さんは話す。日々美容師として髪に触れていても、描くとなると簡単ではないようだ。
髪の毛はひたすら1本1本描き、部分的に消しゴムで消すなどしてハイライトや質感を表現していく。1つの作品で、髪の毛に費やす時間は全体の3分の1にもなるという。

約5カ月かけて制作した渾身(こんしん)の一作は、森元さんが実際にセットした髪型を描いたものだ。髪が編み込まれている部分や、リボンの質感を出すのに苦労したという。繊細な髪の動きは、地道な作業の繰り返しで生まれるのだ。
作品がたまったら“個展”開催が夢
森元さんはこれまで約15の作品を描いていて、SNSで発信している。

初めて美容院に来た人でも「絵を見てます」「すごいですね」「私も絵が好きで、実は美大出身なんです」などと声をかけてくれるといい、森元さんはこうした客からの反応を励みにしている。
見てくれた人の反応をもらったときと、動画を撮りながら描いている中で完成していく様子を見るのが楽しいと話す森元さん。第三者目線で見たときに「よく描いたな」と思うのだという。

「絵がたまったら個展をやってみたい」と将来の夢を語る森元さん。もしやるとしたら自分の美容室を開放して、「もしよかったら見に来てください」という感じでやりたいと構想を膨らませている。
美容師として、そして鉛筆画アーティストとして2つの顔を持つ森元さんは、これからも進化を続ける。
(秋田テレビ)