白・黒・茶の3色を身に纏う三毛ネコ。60年以上も解明されていなかった“或る謎”の正体が判明した。その謎の正体とは。

思うままに生きるネコに癒され

福岡市にある猫カフェ『キューリグ』。のんびり昼寝をするネコに仲間とじゃれあうネコ。自由気ままに過ごすその姿を見ているだけで見るものに安らぎを与えてくれる存在だ。

猫カフェで寛ぐネコたち
猫カフェで寛ぐネコたち
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九州大学 歯学研究院 准教授の松田美穂さんもネコ好きの1人。「イヌだと人間に忠実な面があるけど、そういうのがなくて自分の“思うがまま”に生きていっているところが、人間と違って魅せられる」と止まらないネコへの愛を語る松田さん。

実は、ネコ好きの松田さんは、ネコを巡る“世界最大の謎”のひとつを解き明かした研究チームのメンバーなのだ。

それは『三毛ネコは、なぜほぼメスなのか』という謎。

三毛ネコとは、白・黒・茶色の3色を併せ持つネコ。模様は個体によってさまざまで、日本では古くから親しまれてきた。そんな三毛ネコなのだが、実はそのほぼすべてがメスなのをご存じだろうか。

実は、松田さんが所属する研究チームは、2025年5月、この長年の謎に終止符を打つことに成功したのだ。

60年もの長きに渡り謎のまま

「三毛ネコの黒色と茶色の色を決める遺伝子が今まで見つかっていなかったんですけれども、それを見つけたという成果を発表しました」と話す松田さん。

ネコの色を決めるのは染色体上の遺伝子。オスはXとYの染色体、メスはXとXの染色体を持っていて、黒か茶色を決める遺伝子はXだけに存在する。

そのため2本のXを持つメスだけが黒と茶色の両方を持つ可能性があるのだ。

ここまでは既に明らかになっていたものの、具体的にX染色体の、どの遺伝子が影響しているのか分かっておらず、約60年に渡り謎のままになっていた。その遺伝子を特定することに松田さんが所属する研究チームが成功したのだ。

「一度、違う遺伝子の方が『これかな?』って思って、しばらく調べていたので、そこは難しいところだった」と話す松田さん。研究は、ゲノム解析などを徹底して行い数年に及んだという。

モットーは“ネコを傷つけない”こと

そして成果を出すには遺伝子を知り尽くしたリーダーの存在が不可欠だった。「探求心があって物事の本質を知りたい方で。まぁそれ以外は普通のおじさんじゃないですけど(笑)」と松田さんが評するリーダーの元を取材班は訪ねた。出迎えてくれたのは、九州大学 生体防御医学研究所 特別主幹教授の佐々木裕之さん。ネコを愛する研究者の1人だ。

「今回はネコちゃんの研究ですので、まぁ或る意味、大事な生活の伴侶みたいな、家族の一員みたいな感じですからネコには負担をかけたくない」と佐々木さんは話す。

60年の謎を解決しようとネコ好きが集まったチームのモットーは“ネコを傷つけない”こと。実験用にネコは飼わず、動物病院の診療で採取した血液を分けてもらうなどして分析を進めたという。

遺伝学の権威である佐々木さんは、20年前に出版した著書で、三毛ネコの色が決まる仕組みについて言及していた。

「この現象はとても有名で高校の生物のテキストや大学入試に出てくるようなとても有名な現象なんです。自分がそのことを本に書いたのに、自分が詳しいことを知らないというのも悔しいじゃないですか」と研究に勤しんだと話す。

そして今回、研究チームが特定した『ARHGAP36』というネコの黒色と茶色を左右する遺伝子。これが60年に及ぶ謎の正体だ。

歴史的な発見も偶然見つかる

研究成果が発表されると世界中の150以上のメディアから取材が殺到した。大反響を呼んだ今回の研究だが、どんな意義があったのか?

「私たちの周りには、まだまだ分からないことがヤマのようにあって、分かることによって将来、何かまた新しいアイデアが生まれたり、或いは人とかネコの研究に役立ったり」と話す佐々木さんだが、実は今回、特定した遺伝子は、なんとヒトの皮膚の病気に関わっていることも判明した。

「生物や医学の研究ってそういう偶然で何か見つかることが多い。今回も詳しく調べていけば、病気の診断や治療に役立ってくる可能性もある」と話す佐々木さん。探求心から進めたネコの研究が、私たちヒトを救うことに繋がるかもしれないのだ。

「研究をやっていると壁にぶち当たることもあるし、お金が足りなくなったり、大変なことも一杯あったりするけど、それをひとつひとつクリアして工夫してやるのが、また楽しいし、大学の先生になってとてもよかったなと思って楽しみがらやっています」

どこか神秘的な一面も持つネコの「謎を知りたい」という情熱から始まった研究だったが、今回の成果によって思いがけずヒトの皮膚の病気にも役立つ可能性が出てきたのだ。

これからもネコから目が離せない。

(テレビ西日本)