「親に殺されるのでは」―そんなSOSが、今も多くの子供たちから寄せられています。虐待の相談は後を絶たず、救えなかった命もあります。“声なき声”を取りこぼさないために、「アドボケイト」という取り組みが広がっています。

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■「親に殺される…」中高生のSOS

 名古屋市中区にある特定NPO法人「CAPNA(キャプナ)」では、虐待を受けた子供からの相談をメールや電話で受けています。

これは、少女からのメールの内容です。

少女からのメールの内容:
「親から暴力を受けています、殺されるのではないかと不安です。お願いです。助けて下さい」

CAPNAの小出砂恵子事務局長によると、「親に殴られている」「死んでしまいたい気持ち」といったようなSOSがたくさん寄せられるといいます。また、高校生・中学生が多いということです。

そして、彼らからのSOSに「特徴がある」話します。

CAPNAの小出砂恵子事務局長:
「“自分も悪いから殴られても仕方がない”ということを書いてくる子は結構多いです。子供は自分の家しか知らないので、虐待なんだろうかっていうことは分からないと思う」

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例えば、18歳に満たない少年から届いたメールでは…。

父親から殴る蹴るといった暴行を受けたと打ち明けますが、「僕にも非がある」と自分を責め、「どうしたらいいかわからない」と途方に暮れていました。

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児童相談所は子供の調査や保護ができますが、CAPNAは民間団体のため、その権限はありません。

相談をくれた子どもには、親の行為が虐待であると伝え、児相など相談機関の窓口を案内します。

CAPNAの小出砂恵子事務局長:
「つらい気持ちに共感してもらえたっていう実感ってすごく大事かなって思うんですよね。分かってもらえたらそのあとに書いてあることもちょっと試してみようかなっていう勇気が出るのかなって思って。気持ちを込めて返信を書くように私たちはしています」

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2024年度、メールで寄せられた虐待の相談は「605」件でした。相談をきっかけに自ら児相へ行き、一時保護を受けた子供もいます。

一方、虐待で亡くなった子供の数は、全国で年間50人前後いて、助けを求める声が届かず、1週間に1人が命を落としています。

■救えなかった幼い命…愛知県は「連携強化」

島崎奈桜(しまざき・なお)さんは2024年5月、愛知県犬山市の自宅で虐待を受け、7歳で亡くなりました。声を上げられなかった1人です。

逮捕・起訴されたのは、実の母親と、内縁の夫の男です。

男が奈桜さんの内臓が損傷するほどの暴行を加え、母親は治療を受けさせるなどの対応を怠り、死亡させたとされています。

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奈桜さんの事件から1年、新しく整備されたものがあります。

名古屋市中区にある「中央児童・障害者相談センター」。ここでは、対応した記録を児童相談所の専用のシステムに入力していく作業をしています。

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これまでは、体に危険が及ぶ恐れがあるなどの「一部」の虐待事案は すぐに共有されていましたが、2025年4月から、取り扱った「すべて」の虐待事案を共有。

警察サイドでも、対応にあたる家庭の 最新の状況がわかり、保護するかどうかの判断が速やかになると期待されています。

しかし、“連携強化だけでは足りない”と考えられているのも実情です。

愛知県 児童虐待対策グループ 猪飼哲也さん:
「(奈桜さんの事件では)警察との即日の情報共有はしていました。県に欠けていたものを(検証委員会に)出していただくことになると思うので、頂いた提言に対してしっかりと受け止めて対応していくことが、まず県としてできること」

奈桜さんのケースでは、事件の前にも体にアザが見つかったことなどから、児相は警察と情報を共有し、直接、話を聴く機会もありました。

それでも奈桜さんは「家に帰りたい」と言い、虐待を疑わせる話は聴けませんでした。

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捜査に関わった警察幹部の1人は、やりきれない思いを話しました。

警察幹部:
「親の優しいときも知っているし、我慢強い子は本当のことを話せない。アザだらけの遺体が、初めて本当のことを話してくれた…」

■声なき声を取りこぼさないために…そのヒントは

東京都内で8月9日、「アドボケイト」の研修会が開かれました。

「アドボケイト」とは、一時保護されるなどした子供の元を訪れて思いを聴き、子供が望む相手に伝える手助けをする大人のことです。子供の“マイク代わり”と言われることもあります。

一般社団法人『子どもの声からはじめよう』川瀬信一代表理事:
「アドボケイトの視点というのは、“聞き取り”をするというよりかは、子供が伝えたいことを受け止めることができているかという視点。見えている言葉だけじゃなくて、水面下にどういう思いがあるのかっていうことを、子供と共有していく」

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子どもの声を聞くと言っても、「聞き取り」ではない、とは一体…。アドボケイトの知識を学んだ受講生による、ロールプレイングの様子を見せてもらいました。

今回は、子供が親のケンカに耐え兼ねて家出し、一時保護されたという設定で、ぽつりぽつりと思いを話し始めた場面が想定です。

<ロールプレイングの様子>
子供役:
「家に居場所がないっていうのを、どういうふうに言ったらいいのかなって。そういったことを伝えたいけど、どう伝えたらいいのか、わからない」

自分の思いを伝える「手段」について、子供は考えがまとまらないもの。こうした時、アドボケイトは…。

子供役:「変わるのかな…そもそも」

アドボケイト役:「うーん…そうだね、それは心配だよね。一生懸命考えてもって思っちゃうかな」

子供役:「“またがっかりするんじゃないかな”って」

アドボケイト役:「そうだね。それも伝えても良いかもしれないね。どうかな?」

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辛い気持ちを、受け止める「そうだね」という一言。まず、共感することが、子供の思いを形にする手助けになります。ありのままを親へ伝えてみるのもひとつだと寄り添います。

<ロールプレイングの様子>
子供役:「お父さんにいってもまた逆切れされるからな~」

アドボケイト役:「うーん…そうか。伝えたら、黙って聞いてほしいということかな?お返事いらないとか」

子供役:「返事は欲しい」

アドボケイト役:「返事は欲しい。ふんふん」

子供役:「手紙書いた方がいいのかな」

アドボケイト役:「あ!そうだね」

子供役:「伝えられるような気がする」

『手紙で思いを伝える』と、考えがまとまったようです。

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子供役の女性:
「分からないなりに喋っていると、だんだん“自分ってこういうことしたいんだ”っていう気持ちがまとまってきて」

アドボケイト役の女性:
「自然と変わりましたよね、手紙にするって」

大人が根掘り葉掘りと聞いて解決策を授けなくとも、子供自らが、素直な思いを話せると実感した受講生。

アドボケイトの受講生:
「こういうことが考えられるだろうとか、そうじゃなくて、子供が言い切るところを受け止める、みたいなところは(聞き取りと)違うと思います。(子供が)一歩踏み出すとか、そういうきっかけになったらいい」

こうした対応が、すべての子供でうまくいくとは限りません。しかし、まわりの大人の心構えで、変えられる未来があるはずです。

一般社団法人『子どもの声からはじめよう』川瀬信一代表理事:
「役に立たなきゃとか、解決しなきゃっていう人としてではなくて。(子供が)本来持っている力を回復するような関わりができたらいい」

子供たちの命を守るため、私たちは傍観者ではいられません。

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