「まさか庭先で」クマに一瞬で奪われた愛犬の命
宮城県大崎市の住宅の庭先で、飼い犬がクマに襲われ連れ去られるという信じがたい被害が発生した。
10月25日午前9時半ごろ、大崎市古川北宮沢の住宅に体長約80センチのクマが出没。庭で飼われていた柴犬をくわえ、藪の中へと逃げ込んだ。
愛犬を突然奪われた住人は取材に応じ、「まさかこの場所で…」とショックを語った。

「犬が襲われていた」…窓越しに見えた恐怖の光景
襲われたのは、10歳のメスの柴犬。体長は約50センチで、庭に出して飼っていたところを襲われた。現場には首輪とリードだけが残され、犬の姿は消えたままだ。クマと犬の行方は今も分かっていない。
当時、家の中にいた小学生の男児が物音に気づき、母親が窓から外を確認したところ、そこにはクマの姿があった。
体の上部しか見えなかったものの、柴犬がその下で襲われている様子が目撃されたという。
住人が「クマだ!」と叫んでも、クマは一切動じず。柴犬を口にくわえたまま、北側の山林に向かって悠然と立ち去っていった。人間と目が合っても逃げる素振りは見せず、堂々とした様子だったという。

「まさか自宅の庭に」…変わる“クマ出没”の常識
取材に応じた住人の40代男性は、「ここに家を建てて12~13年になるが、敷地内にクマが出たのは初めて」と話す。
幼少期からこの地域で暮らしてきたが、かつてはクマの目撃情報といえば山の中に限られていたという。
しかし、ここ数年でその常識は大きく崩れた。
山を下りて民家のあるエリアに出没するケースが明らかに増えているという。
実際、柴犬が連れ去られた翌日にも、近隣でクマの目撃情報が寄せられていた。クマはもはや“山の動物”ではなくなりつつある。

箱ワナ設置 人の生活圏と“クマの距離”は今…
被害の2日後、大崎市と地元猟友会が現場を訪れ、住宅の近くに箱ワナを設置。今後の再出没に備え、警戒を強めている。
住人によると、柴犬は普段おとなしく、タヌキやキツネに対してはよく吠えていたが、今回はまったく吠える様子がなかったという。
おそらくクマの気配や威圧感に圧倒され、声も出せなかったのではないかとみられている。

愛犬を失った悲しみと“中傷の声” それでも語った理由
報道が広まると、住人のもとには「なぜ外で飼っていたのか」「かわいそうだ」といった声も寄せられた。
愛犬を失った悲しみの中、さらに心無い声を浴びせられた住人。だが、それでも取材に応じた理由は一つだった。
「二度と同じ被害が出てほしくない。同じ思いをしてほしくない」。
柴犬は一年を通じて屋外で飼育していたわけではなく、寒い冬には室内に入れて過ごしていたという。
飼い主の男性にとって、毎朝の散歩や、庭で一服しながら愛犬と過ごす30分ほどの時間が、穏やかな日常のひとときだった。
今は、首輪だけが取り残された庭先にその面影を感じることしかできない。
柴犬の亡骸は見つかっておらず、「まだ戻ってきてくれるのでは」と現実を受け入れられない日々が続く。大切な家族を失った子供たちも、大きなショックを受けている。
クマは“すぐそば”にいる 人と野生動物の距離が変わってきた
近年、東北を中心にクマの目撃や被害は急増している。
農地や山村だけでなく、都市近郊や住宅地にも出没し、人的被害も後を絶たない。
“山に入らなければ安全”という常識は、すでに通用しなくなりつつある。
クマは人の生活圏に、静かに、確実に近づいてきている。
人と野生動物との「境界」が曖昧になりつつある今、家族の一員を突然失った住人の証言は、私たちに「危機がすぐそばにある」現実を突きつけている。
