備蓄米の販売で、消費者からは低価格を喜ぶ声が上がる一方、農家やコメ販売店の受け止めは必ずしも肯定的ではない。専門家は、コメの価格が下がれば解決する問題ではなく、根本的な部分を考えるべきと指摘する。
「生産調整やりすぎ供給が減った」
なぜ、コメの価格は高止まりしているのか?
農業の生産や流通などに詳しい専門家は、国が長年にわたって行ってきた「コメの生産調整」と、猛暑による大幅な品質低下で食味用の流通が減ったことの2つが原因だと指摘する。

佐賀大学農学部(農業経済学) 辻一成教授:
(生産調整は)コメの価格が暴落しないようにする重要な政策だが、その調整をあまりにもタイトにやりすぎたことが供給の余裕を減らしてしまって、去年(2024年)のような事象(猛暑)の影響をもろにかぶってしまった
備蓄米の販売に行列…すぐに売り切れ
小泉農水相が、コメの高騰対策として始めた随意契約による「備蓄米」の売り渡し。米どころの佐賀県内のスーパーマーケットやドラッグストアでも備蓄米の販売が始まっている。

消費者からは、低価格を喜ぶ声も上がっている。開店前に行列ができ、短時間で売り切れる店もみられた。
政府の対策に農家からは不安の声
一方、コメの生産者である農家は、「備蓄米」の販売による政府のコメ高騰対策をどう受け止めているのだろうか。

佐賀市三瀬村で銘柄米の「夢しずく」などを生産している園田隆寿さんは、政府の対応に不安を抱くという。
コメ農家・園田隆寿さん:
とにかく消費者のことを考えてのことだと思うけれども、我々からするとちょっと違和感といいますか…

コメの高騰について園田さんは、店頭価格が上がっても農家はまったく儲かっていないと現状を語る。

コメ農家・園田隆寿さん:
今までの米価というのが農家としては非常に安い、採算に合わない価格だったと思う。(いまの価格は)正常に近いだろうと思うが、それにしても農家の売り渡し価格と消費者が買う価格の差があまりにも大きい
「農家が生き残れる政策を」
園田さんの場合、いま店頭に並んでいるものの半分にも満たない価格しか受け取っていないのが現状だ。苦労して作っているのに高騰前の売り渡し価格だと赤字。消費者は“少しでも安く”を求めるが、それでは農家は生活できないという。

「このままでは生産者がいなくなってしまうのではないか」との懸念の声もある。コメ農家の園田さんは、「少しでも農家が残れるような政策をやっていただきたい」と話す。

農家は、担い手を確保し持続可能な農業にしていくために、適正な価格への調整を含めた安心して生産できるコメ政策を求めている。
“おいしくない店”と思われる懸念
一方、米穀店は複雑な思いを抱えている。
佐賀・みやき町のある米穀店は5月、随意契約での備蓄米購入を政府に申請。これまでは在庫が切れないよう高いコメでも仕入れ、ほぼ利益がない状態で店頭に並べるしかなかった。

大塚米穀店 大塚乾祐社長:
備蓄米というかたちではあれ、安いコメが市場に出てきたのはすごくありがたいと思っている
しかし、米の販売店として気になるのは消費者の反応だ。
大塚米穀店 大塚乾祐社長:
古古米だからということではなく、品種的な味の差でおいしくないと思われるのではないかという不安はある

普段販売している佐賀県産のコメと品種が違うため、備蓄米を販売することで「この店のコメはおいしくない」と思われないか心配しているという。

消費者、生産者、販売店の各々で受け止め方が異なる「備蓄米」の販売。専門家は、コメの価格が下がれば解決する問題ではなく、もっと根本的な部分について考えていく必要があると指摘する。

コメを安定して生産し提供し続けていくためには、どのような農業政策や流通の仕組みを整えるべきか、国民全体で考えていかなければならない問題だ。
(サガテレビ)