特集はお年寄りに寄り添う店です。長野市松代に、明治から110年以上も続く老舗衣料品店があります。コロナの影響を受ける店が多い中、こちらの店は父と娘2人が守り、お年寄りから変わらぬ支持を受けています。
松代町の中心地にある、『ファッションパーク カヤマ』。店内を覗くと…。
80代:
「とってもいいものがいっぱい並んでいる。自分が若くなったような気がするから(気持ちが)よっしゃーとなる」
「きょうは売り出しだから来てみた。(服を見るのは)女の人からすると楽しみ」
『カヤマ』は地域のお年寄りが立ち寄る衣料品店。店を構えて今年で112年目です。
ファッションパーク カヤマ・香山篤美社長:
「大型店の中ではシニア層の商品も限られている。地域密着の愛される店でいたいと常に思っている」
営むのは3代目の社長・香山篤美さん、長女で店長の千子さん、5年前から手伝う四女の梓さんの3人です。
店に並ぶ商品の大半はシニア向けです。
常連客・山下園子さん:
「(家に服を)入れる所がないくらいあるもんで、今は控えています(笑)」
もう50年以上通っているという常連の山下園子さん。この日は秋物の服を探しに訪れました。
常連客・山下園子さん:
「あのチョッキを」
鮮やかなピンク色のベストを試着。パンツも試着…。
常連客・山下園子さん:
「私たちが着られるものが多い。少しでも若々しく見えるように選んでいます」
店のテーマは「10歳若返るシニア世代の演出」です。
ファッションパーク カヤマ・香山篤美社長:
「お客があっての私たちなので、お客さまが探しているものを見つけてくる。一緒になって提供して喜んでもらうと、われわれもうれしい」
店の人気を不動のものにしたヒット商品があります。
店長・長女の千子さん:
「腰が曲がった方用のズボンになっている」
その名も「こしらくパンツ」。腰が曲がってしまったお年寄りの腰や背中が見えないよう、後ろの身頃を長くしたアイデア商品です。
店長・長女の千子さん:
「腰が曲がっていても後ろまでズボンが上がる。曲がってもずり落ちない」
7年前、人気が出始めたころに取材したときは…。
(2013年取材)試着した人:
「きゅうくつでもないし楽」
同じく後ろの部分が長くなっているブラウスも主力商品です。
客:
「できれば後ろが長いブラウス、そういうものがあれば…」
こちらの女性は、敬老の日に合わせ母親へのプレゼントを探していました。
客:
「(母は)もう腰が曲がってしまって。だからここへ来ると曲がった人用の服があり助かる。喜んでくれると思う」
お年寄りのニーズに応えてきた『カヤマ』。しかし、当初は違いました。創業は明治41年。篤実さんの祖父・信治さんが足袋などを製造販売する店として開いたのが始まりでした。
その後、戦時中は軍服の縫製などを引き受け、戦後、既製品の流通が増えると、製造をやめ洋服の小売り店に路線を変更しました。しばらく若者向けの服も取り揃えていましたが平成に入ると…。
ファッションパーク カヤマ・香山篤美社長:
「来店されるお客さんの高齢化率がだんだん高くなってきて、そういう上の年代の行き場がない。大型店に行っても品が限られてしまう」
地域の住民と共に歩んできた店。客の要望に応えていくうちに現在の「シニア向けの店」へと変わっていったのです。
『カヤマ』は時代の流れにもうまく対応してきました。大きな役割を果たしたのは千子さんです。4姉妹の長女として生まれ、大学卒業後すぐに店を手伝い始めました。
店長・長女の千子さん:
「教員になりたいと思っていた時期もあったが、4人姉妹なので誰かがやらなければいけないと」
ほどなくして千子さんが始めたのがブログです。何気なく腰曲がりをカバーする商品の情報を載せたところ、大きな反響を呼びました。その勢いで10年ほど前から通信販売に着手。遠方からも注文が舞い込むようになりました。
感謝の手紙も届く―。
手紙:
「御社のズボンをはきだしてから出不精だった父が、外出する機会が増えました。こんなズボンが欲しかったとすごく喜んでいます」
店長・長女の千子さん:
「自分がお客の役に立って喜んでもらえているということがうれしい」
通販の売り上げは大きく、今では店全体の40%を占めています。
さらに元保育士の四女・梓さんも手伝うようになり、店は順調に歩んでいます。
ファッションパーク カヤマ・香山篤美社長:
「ネットと店舗販売の両輪でやっていくのが時代の流れで必要かと。その流れをうまくつかんで伸ばしてくれている。私一人ではそこまでできない」
季節は夏から秋へ。店長の千子さんに秋冬のおすすめ商品を紹介してもらいました。
店長・長女の千子さん:
「かっぽう着にもなるし、お年寄りの方はスモックとしても」
猫やフクロウのイラストがあしらわれた、かっぽう着兼スモック。裏地は暖かい素材になっていて、これからの季節におすすめだということです。
もう一つは秋の新作・和柄のパジャマ。ボタン留めが斜めになっているため留めたり、外したりが楽にできるといいます。
店長・長女の千子さん:
「病院着だと気持ちも暗くなる。柄物だとそれだけで元気になれる」
客のニーズと時代の流れをくみ取り110年余り続く衣料品店。客層や売り方は変化しましたが、地域住民に寄り添う姿勢はこれからも変わりません。
店長・長女の千子さん:
「気軽に来ていただけて気楽にお買い物ができる店や、サポーターのような店でありたい」
ファッションパーク カヤマ・香山篤美社長:
「地元に常に必要とされるお店でありたいなと。要望のある限りはみんなで頑張って力を合わせて取り組んでいきたいなと」