食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「新玉ねぎのすりながしと蛤の酒蒸し」。
東京・四谷三丁目にある和食店「荒木町きんつぎ」を訪れ、野菜や魚介などをすりつぶし、だしで伸ばす日本の伝統料理を紹介。意外と簡単で家庭でも真似しやすい「すりながし」のコツを教えてもらった。
“お江戸の箱根”と呼ばれる荒木町
「荒木町きんつぎ」があるのは、東京新宿区・四谷三丁目駅。東京メトロ丸ノ内線が走る四谷三丁目は新宿から約5分の場所だ。
「非常にいろいろお店がギューッと集まっている、飲み食いするにはとても素敵なところです。和食系が多いんですけど、お店が狭い路地のあちこちにある、東京の中でも珍しいところ」と植野さん。

江戸時代、大名「松平摂津守」の屋敷があったとされる荒木町。明治に入ると、その敷地にあった滝の流れる庭園は、多くの観光客が訪れる名所に。
「お江戸の箱根」と呼ばれるほど親しまれ、やがて茶屋が立ち並ぶと、大正から昭和にかけて花街へと発展。そんな歴史もあって、荒木町には風情のある和食店が多い。
和食に相性抜群な日本酒をソムリエが選んでくれる
四谷三丁目駅から徒歩2分のビルの地下1階にあるのが、2018年に開店した「荒木町きんつぎ」。

30代の若き2人のオーナーが共同経営する和食店で、調理を担当するのが寿司や和食などの店で研さんを積んだ北村徳康さん、そしてサービス担当は佐藤正規さん。日本酒に造詣が深くソムリエの資格も持ち、料理に合わせたお酒を選んでくれる。
地下1階は、料理人の仕事ぶりが間近に楽しめるオープンキッチンスタイル。2階には、接待や家族連れでも楽しめる個室があり、祝いごとや特別な日に訪れる客も多いという。

上品で落ち着いた雰囲気の中、季節の野菜や旬の魚を使った美しい料理を「おまかせコース」で提供している。
「一回来ただけですごくファンになってしまう」「上品な味付け」「本当に良い店、だからあまり知られたくない」と常連の声。人に秘密にしたり自慢したり、思わずほれ込んでしまう店だ。
感覚派とデータ派、全く逆だからこそマッチ
店名の「きんつぎ」は割れた器を修復する技法“金継ぎ”からきているという。

そんな「きんつぎ」を営む2人は同い年の38歳。出会いは、番組で以前「鶏のつみれ」を学んだ、学芸大学にある「件(くだん)」という店だ。
日本酒とおでんをお任せコースで楽しめる店として人気を博す店で、時期は違えども修業した経験がある。「件」では、OBスタッフの集まりがたびたび開かれていて、それが縁となり意気投合した。

「初対面で、どう思いました?」と植野さん。「いい人だなと思いました」と北村さんが話すと、佐藤さんは「初めは“ゆるキャラ”みたいな。(後から)意外とそうでもなかった」と答えた。
お互い独立準備中に目指しているイメージが似ていたことから2人でやることにしたという。北村さんは料理を作る上で“感覚派”、佐藤さんは“データ派”で、タイプも性格も全く逆なところがマッチしている。

仕込みは、昼の12時からスタートする。それぞれの得意分野を生かして作業を進めていく。
ソムリエの資格をもつ佐藤さんは、その優れた味覚で、酒やだしをチェック。魚の仕込みは、寿司店での修業経験もある北村さん。2人の技術と人柄を感じる、行きつけにしたくなる店だ。

本日のお目当て、荒木町きんつぎの「新玉ねぎのすりながしと蛤の酒蒸し」。
一口食べた植野さんは「玉ねぎらしい軽めのほろ苦さとしっかりねっとりした強い甘みを感じる」と感動していた。
荒木町きんつぎ「新玉ねぎのすりながしと蛤の酒蒸し」のレシピを紹介する。