認知症高齢者の増加により様々な問題が懸念されているが、「相続」も要注意。親が認知症になると、どのような財産があるのかわからなくなってしまい、いざ相続が発生したときに多大な労力と時間がかかってしまうためだ。
なぜ財産の把握が必要なのか、相続でつまずかないためのポイントは?
高齢化の進む北九州市で相続・遺言・成年後見業務を多数扱い、合気道(公益財団法人合気会五段位)の護身の精神で執務を行う司法書士の岡信太郎さんが、実際にあった事例に近い典型例について解説。
※文中の事例は実在の人物とは関係ありません
母親の認知症で父親の財産が不明に
父親が急に倒れて亡くなったため、東京から急遽地元に戻った会社員のAさん(女性、49歳)。
Aさんが喪主となり葬儀等を一通り執り行った後、相続のために父親の遺産を調べなければと思いました。
遺産のことは生前に父親から何も聞いていません。Aさんとしては、母親(80歳)が健在なので、母親に聞けばいいだろうと安易に考えていました。
ところが、母親に父親の遺産はどうなっているかを尋ねると、“難しいことは分からない”の一点張り。

実は、母親は軽度の認知症を発症しており、家のことに対する関心が無くなってしまっていたのです。そのため、父親が家計の管理をしていて、父親が亡くなった途端にどこに何があるのか分からなくなってしまったのです。
以前から、母親は同じことを繰り返すようになり、気にはなっていました…。ただ、親の財産は両親の問題だと考え、どちらが管理しているかなど立ち入らないようにしていました。
忌引きと休日を合わせても1週間くらいしか休みが取れず、家の中も片付いていないので、短期間で財産を把握するのは難しいと諦めました。
「早く考えておけば」Aさんの後悔
その後、Aさんはまた帰省したときにやろうと考えましたが、仕事で任されているプロジェクトもあり、なかなかそんなタイミングはありません。
葬儀から2カ月後にようやく帰省できましたが、母親の介護のことが優先となり、手を付けられないまま東京に戻りました。
気持ちは焦りますが、仕事も忙しくどうにもなりません。自分で行うことは諦めて、専門家に依頼することに決めました。

決めたのはよかったのですが、地元にツテがなかったため、すぐに適任者を見つけることができませんでした。ようやく専門家と連絡が取れたときは、葬儀からすでに5カ月が経っていました。
専門家に頼んだとしても、家の中に入ってもらい財産に関する資料を探してもらうわけにはいきません。Aさんは、夏休みの長期休暇を利用し、やっとの思いで資料を探し、専門家と打ち合わせを行うことができたのです。
結局、すべて終わるまで1年以上かかってしまいました。仕事と実家のことで、Aさんは体調を崩すこともあり、もっと早く両親と相続について考えておくべきだったと後悔したのです。