身近な人が亡くなるとやらなければならない葬儀や相続について、なんとなく理解している人もいるだろう。しかし、いざそれに直面すると対応できるかどうかは分からない。

相続への備えやトラブル回避の方法について触れていく5月特集で今回は、身近な人が亡くなった場合の手続きや相続までの流れを司法書士のぞみ総合事務所の岡信太郎さんに解説してもらった。

まずは「葬儀の手配」から

相続に直面した遺族にとって、「いつまでに、何をやらなきゃいけないのか?」は繰り返し頭に浮かんでは消えるクエスチョンです。

人が一人亡くなると、葬儀の段取りから端を発し、お寺のこと、遺品整理のことなどやらなければならないことが山ほどあります。

葬儀のような死後事務にプラスして、遺産の相続手続きまで加わり、それらに圧倒されてしまう人が出るのも無理はありません。責任感が強く誠実な方の中には、分からないなりに進めなければと、プレッシャーに押しつぶされそうな姿を目にすることがあります。

大切な人が亡くなった悲しみの中で、日々の生活や仕事と並行して各種相続の事務や手続きを行わなければならないのは、ある意味負担が大きいのも事実です。

そこで、ここでは、遺族が相続に対してどう対処すればよいのかを解説します。巷に溢れる分厚い相続本と比べ、ひと目ですべきことが分かるよう、時系列に沿いながらポイントを押さえています。

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大切な家族が亡くなって、遺族が真っ先に手配すること。それは、何と言っても葬儀となります。故人が生前に葬儀社を決めていればそれに従います。そうでない場合は、遺族が新たに探すか、病院等に紹介してもらうことになります。葬儀社が決まれば、遺体の搬送、葬儀会場を確定します。

この時、役所に提出する最初の書類が、死亡届になります。死亡診断書とセットとなっており、病院から死亡診断書(提出する前にコピーを)を受け取ったらすぐに提出しないといけません。

とはいえ、遺族は葬儀の手配で手一杯になっています。関係者への連絡、お寺との調整、葬儀内容の決定など、やるべきことは次々と出てきます。そこで、多くの場合は葬儀社が死亡届提出の代行をしてくれます。

そして、死亡届の提出が終われば死亡診断書の写しと火葬許可証を受け取ることになります。この時渡された死亡診断書の写しは、年金の申請などで使用することがありますので、大切に保管しておきましょう。

各種保険証も早めの手続きを(画像:イメージ)

葬儀が終わり少し落ち着いたら、次は各種保険証の返却と年金の受給停止を行います。国民年金は死亡後14日以内、厚生年金は10日以内となっています。

保険証の場合は故人が、後期高齢者医療保険や国民健康保険の対象者であれば市区町村の窓口に、会社員であれば勤務先に返却します。そのとき、介護保険の資格者証も忘れずに市区町村に返却しましょう。

年金の受給停止も早めに年金事務所で行います。というのも、忘れてしまうと故人に年金の支給が続いてしまい、後から返金を求められることになるからです。

可能であれば、遺族年金の請求を行いたいところですが、遺族であれば誰でも受給できるわけではありませんので、注意が必要です。要件がありますので、受給対象となるか年金事務所で確認しましょう。

相続で最も重要なのは「戸籍」

葬儀が終わると「相続」にうつっていきますが、相続で最も重要と言っていい書類は、何と言っても「戸籍」です。なぜなら、ほぼすべての手続きで必要となるからです。

しかしながら、戸籍と一口に言っても、戸籍全部事項証明書や除籍謄本、改製原戸籍謄本と種類があり、それぞれ様式が異なります。

この戸籍を集めようとして戸惑う方が多くいらっしゃいます。面談時によくあるのが、亡くなった旨の記載のある戸籍(全部事項証明書)のみを依頼者が持って来られ、「戸籍はこれだけです」というパターンです。

実は、戸籍は亡くなった旨の記載がある戸籍だけでは足りないのです。遺言がない場合は、故人の死亡時から出生までさかのぼって集めていかなければなりません。被相続人と相続人の相続関係を公的に証明するためです。

戸籍は本籍地の自治体ごとに管理されており、古いものは手書きで書かれています。出生から集めそれを確認することは、膨大な作業となるのです。

まずは、死亡時の本籍地がある市区町村で、死亡時の戸籍(全部事項証明書)を取得します。同じ市区町村で出生までさかのぼって取得することができればよいのですが、本籍地に変更がある場合は、請求先が変わってきます。

取得した戸籍で従前の本籍地を確認しながら、集めていきます。郵送でも請求できますが、戸籍交付申請書や郵便局で購入する定額小為替を同封する必要があります。

戸籍は、故人の出生から死亡までのものを集めていくとお伝えしました。もし、次の相続、つまり故人の相続人に亡くなられた方がいる場合、その方についても同じように出生から集めていかなければなりません。葬儀や四十九日が終わり少し落ち着いた段階で早めに手続きをした方がよいというのは、一つはこのためです。

戸籍をすべて集めることができたなら、かなりの枚数になってしまうことがあります。このことから、“戸籍の束”とさえ呼ぶことがあります。

戸籍の束が膨れれば膨れるほど、取得にかかった費用(戸籍取得のための定額小為替や郵送代など)が加算されていきます。

同じ戸籍を何枚も取ることがないようにすることが、労力及びコスト面からも重要です。そのためにも、戸籍がそろったら法務局における法定相続情報証明制度を利用し、「法定相続情報一覧図の写し」という書類を取得しましょう。

法務局の法定相続情報証明制度:
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000014.html

これはざっくり言えば、先ほどの戸籍の束を相続関係図として一枚の書類にまとめたものです。もちろん、法務局が発行するものなので、公的な書類となります。銀行や不動産の名義変更などで使用できますので、是非とも取得しておきたい相続必須のアイテムと言えます。

相続は相続人全員の合意と協力が大切

戸籍を集め、相続関係が確認できたら、遺産の取得について話し合います。この遺産についての話し合いが「遺産分割協議」と呼ばれるもので、それを書面でまとめたものが、「遺産分割協議書」となります。

もっとも故人が遺言書を遺している場合は、それに従います。しかし遺言による指定がなければ、遺産に対する権利者である相続人の間で分割について話し合わなければなりません。

とはいえ、全員一堂に会し、話し合いの場を設けなければならないという規定はないため、何らかの形で合意形成を図ることが重要です。

ここで注意しなければならないことがあります。それは、あくまで相続人全員の合意が必要だということです。つまり、相続人の内の誰かを一人でも外すことはできないのです。

相続は相続人全員の合意と協力が大切(画像:イメージ)

実際、相続の相談を受けた際に、依頼者から「〇〇は外してください」「縁を切りました」「連絡が取れません」と言って、ある人抜きに相続手続きを進めようとする方もいます。

しかし、どのような事情があれ、それはできないのです。相続は、相続人全員の合意と協力があってはじめて手続きを進めることができるのです。

無事に遺産分割協議を経ることができたなら、各機関で相続手続きを行います。銀行や証券会社、法務局などが対象となります。これまで出てきた書類を提出しながら、解約手続きや、名義変更を行います。

故人が不動産を持っていた場合は、法務局で登記名義を移すための手続きを行います。相続登記と呼ばれるものです。相続登記には、戸籍などの必要書類の他、登記申請書が必要です。登記申請は司法書士に依頼するのが一般的ですが、自分で書類を作成し申請することも可能です。

相続税の申告は10カ月以内に

ここまで、一連の相続の流れを見てきました。最後に、期限をしっかり押さえておかなければならない手続きについて触れておきます。

相続税の申告は10カ月以内に(画像:イメージ)

1つ目は、相続税の申告です。すべての遺族にかかるわけではないのですが、相続税の申告は被相続人が亡くなった日から10カ月以内に行わなければなりません。その10カ月には、申告だけではなく納付の期限まで含まれています。

2つ目は、不動産の名義変更です。相続における不動産の名義変更は、相続登記と呼ばれています。従来、相続登記については任意とされ、期限も設けられていませんでした。

ところが、所有者不明土地問題に端を発し、2024(令和6)年4月1日から、相続登記の義務化が開始されます。3年以内に相続登記をしなければならないという義務が発生するのです。注意が必要なのは、それ以前の相続も対象となるという点です。

いずれにしても、相続は早めに手をつけることが何より重要となります。そのためには、普段から家族間でコミュニケーションを取れる状態にしておきましょう。それが、もしものときに備えにつながります。

岡信太郎
司法書士、合気道家、坂本龍馬研究家。大学卒業後、司法書士のぞみ総合事務所を開設。政令指定都市の中で最も高齢化が進む北九州市で相続・遺言・成年後見業務を多数扱う。著書には『済ませておきたい死後の手続き 認知症時代の安心相続術』(角川新書)、『財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策』(ポプラ社)など。

解説イラスト:さいとうひさし

岡信太郎
岡信太郎

司法書士、合気道家、坂本龍馬研究家。大学卒業後、司法書士のぞみ総合事務所を開設。政令指定都市の中で最も高齢化が進む北九州市で相続・遺言・成年後見業務を多数扱う。著書には『済ませておきたい死後の手続き 認知症時代の安心相続術』(角川新書)、『財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策』(ポプラ社)など。

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