日銀が今週23日と24日に開く金融政策決定会合で、利上げに踏み切る公算が大きくなっている。20日に就任するトランプ新大統領の経済政策をめぐる発信や市場の反応などを見極めたうえで、最終判断する見通しだ。

強まる「1月利上げ」の織り込み

1月会合での利上げ観測が強まっている背景に、2025年の春闘で高い水準の賃上げが実現しそうだとの見方がある。

日銀の支店長会議(1月9日)
日銀の支店長会議(1月9日)
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日銀は、9日に開いた支店長会議で、大企業だけでなく、地方の中堅・中小企業でも今春の賃上げを検討する動きが広がっているとして、「人手不足のもと、全体としては、継続的な賃上げが必要だとの認識が幅広い業種・規模の企業に浸透してきているとの報告が多かった」と総括した。賃上げに積極的な企業の多さが確認されつつあることが、利上げを判断するうえでのプラス材料となっている。

植田総裁は、先週相次いで行ったあいさつで、企業経営者の発言や支店長会議での報告を踏まえ、賃上げに「前向きな話が多い」との認識を示したうえで、「次の金融政策決定会合で利上げを行うかどうか議論し、判断したい」と述べた。

金融経済懇談会後、会見に臨んだ氷見野副総裁(1月14日)
金融経済懇談会後、会見に臨んだ氷見野副総裁(1月14日)

植田氏の発言に先立って、氷見野副総裁も講演で同様の考えを示していて、正副総裁が決定会合直前に利上げの可能性について共に言及したことで、市場関係者の間で「1月利上げ」を見込む動きが広がった。

金融スワップ市場で1月会合での利上げの可能性がどの程度織り込まれているかについて、東短リサーチなどが1月17日時点で分析したところ、82%となり、2024年12月30日時点の41%から倍増する結果になっている。

追加利上げに踏み切る場合、政策金利は現在の0.25%程度から0.5%程度へと引き上げられる見通しだ。0.5%は、約17年ぶりの金利水準となる。

金利差0.3%で借り換えメリット大のケースも

影響が見込まれるのは、住宅ローンの「変動型」金利だ。日銀が利上げを決めれば、変動型の「基準金利」も、多くの場合、金融機関が優良企業に貸し出す際の「短期プライムレート」と呼ばれる金利に連動して、上昇する方向に動く。

住宅ローンの仕組み
住宅ローンの仕組み

借りる人が実際に払う「適用金利」は、「基準金利」から、その人の支払い能力などに応じた「優遇幅」が差し引かれて決まるが、優遇幅は完済まで変わらないので、借入中の適用金利は、基準金利の上昇幅と同じだけ上昇することになる。

変動型では、一般的に半年ごとに金利が見直され、4月1日と10月1日を基準日とするところが大半だ。今回の日銀会合で追加利上げが決まれば、4月1日に基準金利が引き上げられ、おおむね7月返済分から新たな利率が適用されるケースが多いとみられる。

変動型で借りている人が金利上昇に備える場合、借り替えも一つの選択肢となるが、住宅ローン比較サービス「モゲチェック」は、残り期間「30年」で残債が「3000万円」の場合、借りている金利が0.6%以上なら、借り換え先との金利差が「0.3%」あれば、借り換えに伴う諸費用を考慮しても、返済額が減るメリットが大きいと分析している。

金利上昇時の負担をどう抑えていくのか、借り換えをする場合どのくらいの効果があるのか、よく吟味することが必要な場面になってきた。

トランプ新大統領就任後の動向が最終判断の焦点

「日銀の1月利上げ」が織り込まれるなか、円相場は、円高基調を強めている。

植田総裁と氷見野副総裁による「利上げを1月会合で判断する」とした発言に加えて、15日発表のアメリカの消費者物価の重要な指数が市場予想を下回ったことが、円買いの動きを加速させた。

2024年12月の物価指数は前年同月比で2.9%上昇し、おおむね市場予想通りだったが、エネルギーと食品を除くコア指数の上昇が3.2%と、市場予想の3.3%を下回り、インフレ再燃懸念がやや和らいだ。

アメリカで長期金利の指標である10年債利回りが低下するなか、円相場は、17日には約1カ月ぶりに一時1ドル=154円台まで値上がりした。

トランプ氏が就任初日に署名する大統領令の数は100に上ると複数の現地メディアが伝えているが…。
トランプ氏が就任初日に署名する大統領令の数は100に上ると複数の現地メディアが伝えているが…。

日銀の追加利上げ判断に向け、最終的な関門となるのが、20日に就任するトランプ次期大統領の動向だ。就任演説やその後の発信、国内外の金融市場の動きなどを踏まえ、利上げの是非を決めることになる。

アメリカ経済は底堅いとの見方が広がる一方で、トランプ氏の打ち出す高関税や大型減税がインフレ再燃や財政拡張をもたらすとの警戒感が依然根強いなか、トランプ発言次第で市場が荒れる可能性は消えていない。

追加利上げ見送り決定後の会見で「もうワンノッチほしい」と述べていた植田総裁(2024年12月19日)
追加利上げ見送り決定後の会見で「もうワンノッチほしい」と述べていた植田総裁(2024年12月19日)

「次の利上げの判断に至るには、もうワンノッチ(1段階)ほしい」としていた植田総裁の「ワンノッチ」は得られるのか。注目の1週間が始まる。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員