相互関税の上乗せ分の停止期限が9日に迫るなか、トランプ大統領は4日、貿易相手国に新たな関税率を通知する文書に署名したと明らかにした。関税交渉が難航している日本も、高関税を一方的に課されるおそれがある。
7日に12か国に書簡送付
トランプ氏は4日夜、記者団に対し、「月曜日(7日)、おそらく12か国に発送される」「関税率や文書の内容はそれぞれ異なる」と述べ、対象国を7日に公表すると明らかにした。3日には、書簡を4日に送り始めると表明していたが、この日は送らず、送付開始を週明けの7日に設定した。

これまでトランプ氏は、関税率を10%から70%までの水準にするほか、8月1日から適用する方針を示している。70%の関税率が導入されれば、「解放の日」と呼んだ4月2日に示した「相互関税」の水準を大きく上回ることになる。現時点で関税交渉での「合意」が発表されているのは、イギリスとベトナム、カンボジアに限られる。複数の国と同時に交渉を行うより、各国に新たな高い関税率を送り付けて譲歩を引き出すほうがよいとの考えで、新税率の適用を8月1日に設定して交渉期限を事実上延長しつつ、早期合意に向け圧力をかけるねらいが見てとれる。
高値圏続いたアメリカ株、日本株は見通しにくく
このところアメリカ株は高値圏で推移してきた。3日に発表された6月の雇用統計で、非農業部門の雇用者数が市場予想を上回って伸び、失業率は低下して、アメリカ景気の悪化懸念が後退した。

同じ3日には、「一つの大きく美しい法案」と名づけられ、トランプ政権の政策の目玉である大型減税などを一括して盛り込んだ法案が下院で可決された。減税規模は10年で4.5兆ドル(約650兆円)に上り、景気の追い風になるとの期待が高まった。この日のニューヨーク市場は、独立記念日前日で短縮取引だったが、ダウ平均は、前日比344ドル高の4万4828ドルと、2月上旬以来の高値で終えた。2024年12月に付けた過去最高値まで186ドルに迫る水準だ。S&P500種株価指数やナスダック総合株価指数も高値更新となった。
高揚感に包まれたとも言えるような3日のアメリカ市況だったが、翌4日は休場のなか、時間外取引で株価指数先物が値下がりし、S&P500では0.6%の下落となった。トランプ大統領が貿易相手国から譲歩を引きだそうと圧力を強めるなか、投資家心理の圧迫を映し出した格好だ。
日本株は先行きが見通しにくくなっている。4日の日経平均株価は、朝方には一時4万円台に乗せたが、アメリカ関税政策をめぐる不透明感が上値を抑え、利益確定などの売りに押されて下落する場面も目立った。この日の終値は、前日比24円高の3万9810円と、4万円台定着とはならなかった。
“高水準”の対日関税が示されるか
相互関税の上乗せ分停止期限を9日に控え、7日には書簡が送られた国が判明する見通しのなか、今週の株価は、上にも下にも大きく動く可能性がある。

日米関税交渉をめぐっては、ベッセント財務長官が、20日に投開票日を迎える参議院選挙が合意に向けた制約になっているとして、厳しい状況にあるとの認識を示している。協議の継続が確認されるなどすれば、日経平均株価は4万円を超えて上昇ピッチを強めるとの見方がある一方で、高い水準の税率が示されれば、企業業績の悪化懸念が一気に広がり、値下がりモードも想定される。
円相場も神経質な展開となりそうだ。相互関税の基本税率の10%を大きく上回る関税率が多くの国に課されることになれば、アメリカのインフレ悪化が意識されやすくなる一方、日米合意が難しいことが明確になった場合、リスクオフの円買い圧力がかかりやすくなる。
先週の日経平均株価4万円台の場面は、関税引き上げの影響を十分に織り込まないまま実現したとの見方が広がる。書簡の送付先に日本が含まれ、高い税率が課されることになるのか、視界不良のなか、トランプ関税に左右される相場環境の再来に警戒感が強まっている。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)