27日の東京株式市場は、プライム市場の上場銘柄は7割超が上昇し、日経平均株価は終値として約半年ぶりに4万円台を回復、2日間での上昇幅は1200円を超えた。アメリカの主な株価指数S&P500も上昇ピッチを強め、27日には、2月につけた最高値を上回ったほか、ハイテク銘柄が多いナスダック総合株価指数も約半年ぶりに最高値を更新した。

高関税と原油めぐる警戒感和らぐ

投資家がリスクオン姿勢を強めた要因は複合的だが、アメリカの関税措置をめぐる警戒感が急速に和らいだことがまずあげられる。

レビット報道官は相互関税の上乗せ分について「期限が延長される可能性がある」と発言(6月26日)
レビット報道官は相互関税の上乗せ分について「期限が延長される可能性がある」と発言(6月26日)
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ホワイトハウスのレビット報道官は26日の会見で、7月9日まで一時停止している相互関税の上乗せ分について、停止期間が延長される可能性があるとの認識を示した。同じ26日、ベッセント財務長官が、「報復税」と呼ばれる内国歳入法899条の新設見送りを議会に要請したことも伝わった。中国との交渉が進むことへの期待感も投資家心理を改善させた。アメリカのブルームバーグ通信は、ラトニック商務長官が、中国がアメリカにレアアースを供給すれば、アメリカは対抗措置を撤廃することで合意したと明らかにしたと報じた。                                       

貿易をめぐる争い懸念の後退に加え、中東情勢緊迫化への警戒度の薄まりも株価上昇を支えた。トランプ氏主導で合意に至ったとされるイスラエルとイランの「停戦状態」が維持されていることで、世界の石油消費量の2割が通過するホルムズ海峡の封鎖リスクが低下したとの見方が広がった。

FRB高官2人の発言“早期利下げ”見立て促す材料に

買いのラリーをさらに促しているのが、アメリカの早期利下げ観測の強まりだ。

高騰した原油価格が下落してインフレ懸念が後退し、ミシガン大学が27日に発表した6月の消費者マインド指数の確報値も、速報値から上方修正され、4カ月ぶりの高水準となった。

FRB(連邦準備制度理事会)高官2人の発言も早期利下げの見立てを促す材料になっている。ウォラー理事は20日、アメリカCNBCのインタビューで、利下げについて「早ければ7月にも実施できる状況にある」との認識を示し、「労働市場の下振れリスクを心配し始めるなら、待たずに今動くべきだ」と語った。23日には、金融監督担当のボウマン副議長がチェコでの講演で、貿易や関税に関する協議が進展していることで経済環境でのリスクは確実に低下したとの見方を示すとともに、「インフレ圧力が抑制されたままなら、早ければ次回(7月)会合での利下げを支持する」と述べた。

トランプ大統領は「政府内で最も愚かで、最も破壊的な人物の一人」とパウエル議長を罵倒
トランプ大統領は「政府内で最も愚かで、最も破壊的な人物の一人」とパウエル議長を罵倒

トランプ大統領は、利下げに慎重姿勢を崩さないパウエル議長を、「愚か者」「仕事ぶりがひどい」などと批判し続けている。パウエル議長が任期満了となるのは2026年5月だが、トランプ氏は早期に次期議長を指名する意向を示し、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、9月から10月にかけて発表される可能性を報じた。トランプ氏は、最近「3、4人の候補者がいる」と語っている。

トランプ氏が、早期に指名した次の議長に、パウエル氏に代わる「影の議長」としての影響力を行使させるとのシナリオが取り沙汰されるなか、次期議長候補として名前が挙がるウォラー理事に加え、タカ派とみられてきたボウマン副議長が7月利下げに前向きな姿勢を見せたことで、利下げ期待が勢いを増した。パウエル氏は、24〜25日の議会証言で関税の物価への影響を慎重に見極める姿勢を繰り返し、金利先物市場が織り込む利下げ確率では、依然として9月利下げが優勢となっているが、7月の利下げ確率は前週の約14%から約18%へと上昇した。

4万2000円台が視野に

「高関税」「中東情勢」をめぐる警戒感の後退と、アメリカの「早期利下げ」期待が、世界的にリスク資産の騰勢を強めるなか、日本株の上昇にも弾みがつき、半導体関連などハイテク銘柄を中心に資金が向かっている。企業の資本効率の改善などを評価しているとみられる海外勢の買いも相場を押し上げ、海外投資家は6月第3週まで12週連続で買い越しとなっている。                

日経平均株価は終値で2024年7月につけた最高値の4万2224円が視野に入ってきた。足元の相場上昇に乗り切れていない投資家も多いとの見方の一方で、株価が駆け上がるピッチが速いとの指摘もある。

「相互関税」の上乗せ部分の停止は、期限の7月9日から延長されるとの期待が強まっているが、トランプ大統領がカナダが導入したデジタルサービス税をめぐってカナダに新たな関税を課す意向を示すなど、次なる懸念材料も出てきた。

投資家心理の「強気」への転換局面が続くのか、7月相場の動向に大きな関心が集まっている。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員