夏の甲子園に出場する県立岐阜商業高校(県岐商)の外野手で高校3年の横山温大(はると)選手は、生まれつき左手の指がないハンディを抱えながらもレギュラーの座をつかみ、夢の舞台への切符を手に入れた。「ハンディを背負っていても出来ることをアピールしたい」と話す横山選手は、初戦で日大山形高校との初戦を迎える。

■生まれた時に母も“野球はできない”と…それでも抱いた夢

横山選手は、3人きょうだいの末っ子として、岐阜県各務原市に生まれた。

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父・直樹さん:
「生まれてすぐに医師から呼ばれて、実はこういう風(左手の指がない)で、と言われて。やっぱりショックというか…」

母・尚美さん:
「野球をやらせたいから男の子がもう1人ほしいと思って。左手の指がないことを知って、真っ先に旦那に『野球できないね』と言った」

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左手の指がないのは先天性で、原因は不明だ。幼稚園の時には、『小学校に行ってもこのままなの?』『小学校に入ったら、みんなと一緒の手になるんだよね?』と、両親に聞いていたという。

それでも、野球をしていた兄と姉に憧れ、バッティング練習に励んだ。

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小学3年で地元のチームに入り、義手をつけてプレーした。その頃から、夢は「野球選手」だった。

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横山温大選手(2017年):
「僕の将来の夢は野球選手です。もっと野球の練習を毎日やって、みんなから憧れられる選手になりたい」

■「逆に武器に…」グローブを2つ用意してプレーを続けた中学時代

中学生の時には愛知県の「江南ボーイズ」に所属し、ピッチャーと外野手の二刀流をこなすようになった。

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グローブは常に2つ用意していて、“投手の時”は右手で投げるため、左手でグローブを。

“外野手の時”は、左手ではボールをつかめないため、右手でグローブを使う。右手でボールをキャッチした後は、素早くグローブを外して「握り替え」をして、右手でボールを投げる。

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横山温大選手:
「他の子と違うけど、“違う”って自分では思っていない。手が不自由だけど、ハンディとしない。逆に武器にしている」

そんな横山選手が中学時代に思っていたのは、名門「県岐商」へ進学し、プレーすることだ。

横山温大選手:
「野球を上のレベルでやっていきたいと思っているので、県岐商に行きたいと思っています」

そんな横山選手を、家族は支え続けた。自宅では、父親とバッティング練習に励み…。

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母親の尚美さんは、野菜が少し苦手な横山選手のため、料理での応援を欠かさなかった。野菜がたっぷりと溶け込んだカレーは、横山選手の大好物だ。

母・尚美さん:
「甲子園に行きたいという気持ちがあるみたいで。主力で出られるように頑張ってもらいたい」

父・直樹さん:
「人の倍は練習しないと、上には上がっていけない。これから一生懸命やってくれればいいかなと思っています」

■“生命線の右手”を鍛えながら…「自分が打って勢いづけられる存在に」

2023年4月、念願の県岐商に入学し、学校近くで下宿生活もスタートした。入学時はピッチャーに専念していたが、現在は外野手一本になった。

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横山温大選手:
「(投手は)なかなかうまくいかなくて伸び悩んでいた時に、バッターで挑戦してみようかと、高校1年の秋に思った。右腕一本ですけど、左手の押し込みもできるように筋力をつけるようにしました」

ハンディを抱える横山選手にとって、生命線ともいえる右手。なるべく右手はケガをしないよう、トレーニングで重点的に鍛えたという。

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横山温大選手:
「(左手に)負担をかけながらでも、みんなと一緒の練習をやりたかった」

さらに努力を積み重ねたのは、グローブの「握り替え」だ。

横山温大選手:
「“0.何秒”でも速くしようと思って。(グローブを)抜きやすいようにちょっと浅く持って、癖づけられるまで握り替えを練習しました」

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そんな横山選手について、監督やキャプテンたちは…。

藤井潤作監督:
「足もありますし、守備力も球際が強くて。ブンっと大きくスイングができるので、“三拍子そろった選手”だと思います」

河崎広貴キャプテン:
「みんなと全然変わらず、なんならみんなよりも人一倍努力して。一番尊敬しています」

マネージャーの岩田愛菜さん:
「今まで左手の指がないことに気付かないくらい、勉強もできるし運動も野球もできるし、全部できるからすごいなって改めて思いました」

高校最後の夏。目指すのは…。

横山温大選手:
「周りの子たちから、自分がこういうハンディを背負っているから何か言われたりとかはなく、本当一緒のように接してくれた。甲子園目指して、甲子園優勝を目指して、自分が打って、周りのみんなを勢いづけられる存在になりたいです」

■ハンディを乗り越えた先で…夢へ挑む夏

2025年の夏、甲子園につながる岐阜県大会の予選が始まった。迎えた初戦(大垣養老)では、5点リードの9回に守備から途中出場の横山選手に打席が巡ってくると、センター前へはじき返す初ヒット。その後の試合でも毎試合ヒットを記録し、結果を残し続けた。

7月28日、迎えた決勝の相手は「帝京大可児」だ。

試合は2回表、県岐商が連打で1アウト1・2塁とし、横山選手に打席が回ってきた。家族が見守る中、ほぼ右手一本で引っ張った強烈な打球はライト前へ。ここから犠牲フライ、タイムリーなどでこの回一挙4点を先制する。

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リードを広げて迎えた6回、横山選手の第4打席。中学の時に同じチームでプレーをしていた、元中日の川上憲伸さんの甥っ子・川上洸晶投手との対決だ。

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ランナー1・3塁、カウント1−1からの3球目。親友から試合を決定づける9点目となるタイムリーを放つ。この日は3打数3安打1打点3盗塁と、ハンディをまったく感じさせない大活躍となった。

投打で圧倒した県岐商は10対0で勝利し、甲子園出場を決めた。

横山温大選手:
「自分みたいなハンディを背負っていても、関係なくできるんだぞっていうところを甲子園の舞台でもしっかりアピールして、ハンディを抱えた子たちにも勇気や希望を持って自分でも出来ると思ってもらえるようにプレーしていきたい。全国制覇目指して頑張ってやっていきたい」

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横山選手の兄と姉も、試合を見届けていた。

姉・香穂さん:
「甲子園に行きたいと思って今まで頑張ってきたので、それが見られて良かった」

兄・昂大さん:
「こんなこと言うのもあれですけど、自慢の弟だなと思います」

そして、両親は…。

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父・直樹さん:
「周りの協力があってのことだと思うんですけど、本当に感謝しています」

母・尚美さん:
「最初は生まれたときもショックはあったけど、申し訳ない気持ちでいっぱいだったんですけど、温大が活躍して、みんなが喜んでくれるのがうれしい」

諦めなければ夢は叶う。横山選手は夢の大舞台で、初戦を迎える。

東海テレビ
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