2021年11月に新潟市の自宅で29歳の妻と1歳娘を殺害した罪などに問われている男の裁判員裁判が新潟地裁で開かれている。5回目の公判には、当時、男と不倫関係にあった女性が証言台に立ち、遺族に謝罪した。その一方で、男が逮捕された後も手紙でやりとりされていたことなどが明らかとなった。
塩化カリウムを盗んだ理由は…殺意が争点に
殺人や殺人未遂など4つの罪に問われているのは、新潟市南区の元看護師・渡辺健被告(31)だ。
この記事の画像(4枚)起訴状などによると、渡辺被告は2021年9月、当時看護師として勤務していた病院から塩化カリウム10本を盗んだほか、11月には南区の自宅で、妻の春香さん(29)と娘の純ちゃん(1)の首をロープで締め付け、自殺を装い、殺害した罪などに問われている。
裁判では、9月に渡辺被告が塩化カリウムを盗んだ時点で、2人への殺意があったかどうかなどが争点となっている。
離婚切り出すも…否定されて不満・怒りが限界に?
11月5日には2回目の冒頭陳述が行われ、検察側は渡辺被告が当時、不倫相手に関係解消を迫られていたほか、「塩化カリウム 致死量」などの検索履歴があり、春香さんに対して強い殺意を持って病院から薬を盗んだと指摘。
また、「被告は2人を殺害した後に、妻のスマートフォンから被告宛てにメッセージを送信したほか、階段にロープをかけるなど春香さんが自殺したかのように装った」と述べた。
一方の弁護側は、「検索履歴に関しては、渡辺被告が業務上で必要なことや興味などで検索しただけだ」と主張した上で、「以前から殺意を持っていたわけではなく、事件当日、離婚を切り出した際、強い口調で否定されたことから不満や怒りが限界点を超えて殺害してしまった」と主張した。
春香さん装い自身宛てにメッセージ その内容は…
また、冒頭陳述の中で渡辺被告が春香さんの自殺を装って自身に送ったメッセージについても明らかに。
「健さん今までありがとう。私はいつもすーちゃん(純ちゃん)優先だけど、健さんは仕事終わりでも家族のために家事をしてくれる。事故ったときも健さんではなくて、お金の心配ばかりしてたよね。(中略)ひと悶着あったけど、今までありがとう。ばいばい」
2人の尊い命を奪った直後、春香さんを装ってメッセージを送った渡辺被告。
なお、メッセージの中にある「事故ったとき」というのは、渡辺被告が10月4日に起こした交通事故を指している。
この時、春香さんが渡辺被告の体を心配せず、お金の心配をしていた一方で、当時不倫関係にあった女性は体を心配していて、弁護側は「このことが、渡辺被告が春香さんに対して、不満や怒りを募らせる一つの原因となった」とした。
自分のことを優しく気遣ってくれる不倫相手の女性に惹かれた渡辺被告は、春香さんと純ちゃんを殺害する2週間ほど前の10月24日から、女性とほぼ毎日会う生活を送るようになる。
事件前…渡辺被告と不倫相手とのやりとり
2人のメッセージには良好な関係を思わせるやりとりが記録されていた。
■10月28日
渡辺健 被告:
朝までたくさん未来の話ができて最高でした
女性:
朝までいられてよかった。健さんの愛がビシビシ伝わってきた
■10月30日
渡辺健 被告:
いつも少ししか会えなくてごめん。ずっと一緒にいたい
女性:
健さん大好き。世界で一番好き
渡辺健 被告:
うれしい。俺も世界で一番好き
■11月6日
渡辺健 被告:
一緒にいれてうれしかった
女性:
健さんのこともっと大好きになった
不倫関係にあった女性が証言台へ
その不倫関係にあった女性がこの日、証言台に立った。
女性は2019年4月、当時、渡辺被告が勤めていた病院で看護師として働き始めた時に初めて出会うと、渡辺被告が既婚者であることを知っていながら、2019年10月ごろから不倫関係になったという。
ただ、その関係はすぐに春香さんに知られる。
女性:
奥さんから「このまま関係を続けるようであれば、慰謝料を請求する」と言われた
検察側:
それはいつ頃?
女性:
2019年12月25日か26日あたり
検察側:
奥さんから言われてどう思った?
女性:
慰謝料の話があり、怖かった。関係をやめなきゃいけないと思って健さんに伝えた
検察側:
被告人は何と言っていた?
女性:
「メッセージにあるような請求はない。まだ会いたい」と言われた
不倫相手に慰謝料の請求書 それでも続いた関係
しかし、渡辺被告の思いとは裏腹に、年が明けた2020年1月末、女性のもとに春香さんの弁護士から手紙と慰謝料150万円の請求書が届く。
検察側:
そのときはどうしたか?
女性:
手紙が届いて1週間以内に職場の駐車場で健さんと話した
検察側:
被告人は何と言っていた?
女性:
「本当に手紙を送るとは思っていなかった」と言っていた。私も不倫関係をやめないとと思ったが、まだ健さんに対して気持ちがあったし、健さんからも「まだ会いたい」と言われて、続けてしまった
その後、女性は慰謝料50万円を支払ったほか、今後一切、渡辺被告とプライベートで連絡を取らないという誓約書も書いたが、不倫関係の解消には至らなかった。
裁判では、2020年10月に娘の純ちゃんが誕生した時にも、2人の関係性が続いていたことが明らかとなっている。
その4カ月後の2021年2月、女性が「このまま不倫関係を続けるのはよくない」と思い、2人は別れる道を選択したが…
女性:
健さんから「会うのをやめてから元気が出ない、もう一度会いたい」と言われた
検察側:
そのときあなたは何と言ったか?
女性:
「考えさせてほしい」と伝えた
検察側:
その後は?
女性:
健さんと会って、3月中旬ごろに不倫関係を再開した
再び不倫関係を始めてしまったという。
さらに渡辺被告と女性は、渡辺被告が新潟市南区に新居を構えるまでの2021年4月~8月10日の約4カ月間、女性の自宅で同棲生活を送っている。
この間、春香さんは魚沼市の実家に帰省していた。
検察側:
被告人とはどんな会話をしていた?
女性:
自分との将来や奥さんとの離婚の話をしていた
検察側:
娘の純ちゃんの話はしなかったか?
女性:
子どもについて話はしていない
検察側:
仮に被告人が奥さんと離婚して子どもを引き取ると言ったら?
女性:
自分には育てる自信はない
さらに8月26日には、女性がこんなメッセージを友人に送っている。
「健さんが奥さんと離婚の話するって、やっとだよ」「プロポーズの話された、感激」
こうして渡辺被告と女性の不倫関係は事件当日まで続いていく。
殺害日前後のやりとりも明らかに 逮捕後も手紙で…
女性は渡辺被告が春香さんと純ちゃんを殺害する前日から、当日の早朝にかけても女性の自宅で会っていて、渡辺被告とは次のようなやりとりをしている
■11月7日
渡辺被告:
今日もたくさん愛が深まった
女性:
健さんもかわいかった
女性との関係を続けていくためには、春香さんと純ちゃんの存在が障害となったのか…。
この日、渡辺被告は2人を殺害。その後、女性に対して「大好き大好き」とメッセージを送っていた。
さらに、渡辺被告が逮捕された後も、女性との関係は続き、手紙でやりとりしていたほか、面会していたことも明らかに。
渡辺被告からの手紙には「思いは変わらない、今もこれからもずっと」「生涯味方であり続ける」「1分1秒でも早く帰りたい」などの内容が書かれていたという。
これに対し、女性も「少しでも早く私の所に戻って。今後一緒になりたい」などと手紙で返信していた。
女性は「今は、恋愛感情はない。健さんとの未来は考えていない。当時も不倫関係をやめようと思ったが、渡辺被告への恋愛感情があり続けてしまった。このようなことになってしまい、ご遺族の方に申し訳ない気持ちがある」と謝罪した。
一方、女性は11月6日の裁判の中で、「明確に別れてほしいと言ったことはない」とも明かしている。
裁判は11月22日に判決が言い渡される予定だ。
(NST新潟総合テレビ)