保育士や幼稚園教諭などを育成する福岡・太宰府市の福岡こども短期大学。キャンパス内には新たに「ワンヘルスガーデン」が設けられている。建物のなかには犬の世話をする学生たちの姿がみられた。

「人と動物の共生」を目指す

「保護犬なので年齢は推定3歳くらいかな」と犬を紹介してくれる学生。「保護したときは、まだ小さかったが、こんなに大きくなって育ってくれました」と嬉しそうに話す。飼育していたのは保護施設から引き取った犬たち。隣の建物には保護猫もいる。

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この学校では2023年から「人と動物の共生」を目指す「ワンヘルス」をカリキュラムに導入している。「どうぶつセラピー研究会」を新設し、メンバーの学生たちが休みの日も交代で保護犬、保護猫の世話をしている。また「どうぶつ学」の授業を設け、動物健康管理士やセラピードッグトレーナーなど動物関連の資格も取得できるようになった。

保護された命と向き合う

学校は、将来、幼児教育に携わる学生たちに動物との関わりを持ってもらいたいとしている。都築仁子学長は「保育士の”保”は”保護”。保育士は子どもの命を、命の成長を守っています。ここにいる犬や猫は、人間に命を奪われようとした捨て犬、捨て猫です。でも命はみんな持っている。それがここで保護されて、一緒に生きるという存在になっている。学生たち自身が必要な存在に思ってほしい。犬も猫も同じように生きているんだということを実感してほしい」と思いを語る。

学生たちも毎日の飼育を通して犬や猫が持つ力に驚かせられている。そしてこの経験を将来の仕事にも生かしていきたいとしている。学生のひとりは「子ども同士でもコミュニケーションを取るのが苦手な子は、逆に動物がいた方がコミュニケーションを取りやすいこともあるので必要だなと思う」と語った。

都築学長はワンヘルスについて「生の物を知るか知らないかで、ずいぶん感覚的なものが違ってくる。幼児教育とか医療の現場とかに一番大事なことを動物が、あるいは植物の命が、同じように教えてくれる。それが理想じゃないですか」と話す。

公園にもワンヘルスの考え方が

ワンヘルスの考えは多くの人が訪れる施設にも広がりをみせている。1年を通して季節の花々が楽しめる福岡・直方市の「福智山ろく花公園」は2023年、福岡県から”ワンヘルスを学び体験できる”「ワンヘルス啓発施設」に認定された。

園長の高下義一さんが「花公園で一番、森林浴ができる場所」と案内してくれたのは、無花粉杉が群生する、花粉症の人でも安心して散策できる森林浴スポット。実は園長の高下さんは、福岡県から認定されたワンヘルスを伝える人材、「ワンヘルスマスター」なのだ。その考えに基づき人も動物も元気になれる環境作りを進めている。

また来園者にワンヘルスについて知ってもらおうとワークショップなども開催。自然豊かな公園で「人と生き物が共生する」ワンヘルスの世界を体感できる。「シンプルで将来の地球のことを考えて、いま、何ができるか。自然の尊さなどをより多く伝えていきたい」と高下さんはワンヘルスを考えている。

学校教育でも命のつながりを学ぶ

一方、小学校でもワンヘルスの授業が始まっている。福岡・みやま市の南小学校は、学区内に福岡県が計画する「ワンヘルスセンター」が2027年度中に完成する予定で、ワンヘルスについて学ぶ場を積極的に取り入れている。講師を務めているのは、ワンヘルスマスターの土岐沙也香さん。「ワンヘルスセンターは人材育成もするし研究もやるしっていうワンヘルスの全てを担う施設になるんです」と土岐さんは語る。

自身が飼っていた犬の病気をきっかけにワンヘルスの理念に共感し、2023年、マスターを取得した土岐さん。「全部やろうとしなくていいです。何かひとつ、自分が好きなこと、興味があることを実践してみるだけで人と動物、環境全部を守ることにつながります」と子どもたちに語りかける。

動物が好きな人も、そうでない人も、人と動物が幸せに共存できる社会を作りたいという思いのもと、「今からできること」を子どもたちに見つけてもらいたいと考えているのだ。

「座っている子たちが、ちょっと涙を流しながら聞いてくれて、私は命の大切さを一番伝えたいので、そこが伝わっているのはすごく嬉しかった。命の大切さっていうのが全てに共通するのでそこを重点的にやっていきたい」と土岐さんは語る。

人・動物・環境すべての「健康」をひとつと考えるワンヘルス。福岡にとどまらず、世界にこの理念を広めていくために、その取り組みはこれからも続いていく。

(テレビ西日本)

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